第9話 ヴァルファ帝国

広大な領土を誇る軍事国家、ヴァルファ帝国。

この国は他国と違い、軍事力強化の為の勇者召喚を禁止していた。

それは、初代皇帝ヴァルファ1世が召喚された勇者であり、その召喚を行った国の国王を倒しヴァルファ帝国の元となる国を建国した為だ。

同じように勇者によって乗っ取られると言う可能性が有るため、ヴァルファ1世は、国土を広げ支配下に置いた地域の勇者を全て殺害した。

ヴァルファ1世から代替わりした各皇帝達も前例に習い、自分に取って代わる恐れのある勇者を、その広大な国土を広げる度、殺害していった。



帝国首都 モスノフ


ーー現 皇帝ヴァルファ14世の居城

広い謁見の間にて、重臣達が皇帝への報告をおこなっている。

「何処其処の国が、降伏し、支配下に入りました」

「何処其処の国を攻め降伏間近でございます」

各地からの報告が、次々に皇帝に伝えられた。

日常の風景であった。

ヴァルファ帝国が、この世界を征服するかのよに領土を広げているのを、皇帝 ヴァルファ14世は、壇上の豪華な椅子の肘掛けにもたれ掛かり、退屈そうに聞いていた。

自身が戦場に出るわけでもなく、淡々と報告を受け続ける毎日。

帝国を脅かす存在もない。

ヴァルファ14世は、そんな日常に退屈していた…。



ーー城の外

帝国首都 モスノフ中心街の一等地に大きな建物が建っている。

その建物には軽キャンピングカーのシルエットが入った旗が掲げられている。

世界有数の総合商社、ノガーミ商会 モスノフ支店だ!

「伝票チェックは?」

「本店にマヨネーズの追加注文、急いで!」

「ノガーミリバーシって在庫あった?」

店内では従業員が忙しく働いていた。

ガンデル国から遠く離れたヴァルファ帝国でもノガーミ商会は繁盛している。


ブロロロロー……

そして、ノガーミ商会 モスノフ支店の前に一台の軽キャンピングカーが停まった。

軽キャンのドアが勢いよく開いた!

「おおー、流石に、ここの支店は流石にデカいなぁ」

軽キャンから、我らがおっさん、野上博志が降り立ったのだった!


なぜ、俺がここに来たのかって? それは……


俺が還暦を迎えた時、お飾りの王、ガンデルが老衰で死んだ。

国家運営も順調なので、自分等で表だって国家運営してこうって話になって、ゼノスが国王に就任した。

そんで、国名もゼノス王国と改めた。

そん時、俺は、もう還暦だし、国家運営から手をひき、ゼノス達に国を任せたのだ。

後、商会も番頭のグルジットに経営を任せて俺は、会長職につき、現場から退いた。

真面目なグルジットなら、堅実な経営をしてくれるだろう。

ゼノスにはマルスという跡継ぎもいるし、俺の商会から莫大な税収もあるんだ、グルジットにもこれまで通りゼノスに協力するよう言ってある、みんなで上手くやっていってくれるだろう。

って事で、俺は、軽キャンに奥さんを乗せて二人で悠々自適、世界をのんびりまわる事にしたのだ。

ゼノス王国を出発して、数ヶ月、俺は、いろんな国や地方を旅行してまわっている。

そんで、今、ヴァルファ帝国と言うとこにきたんだが、ここにも俺の商会の支店ノガーミ商会 モスノフ支店があるって言うじゃない!

「そんじゃ、寄ろっか!」

レイラとそんな話になって、軽キャンを走らせ、モスノフ支店前に来たって訳だ!


俺とレイラは、大きな支店を目にして、自分達が今まで頑張って働いてきた足跡を見れた感じがして、ちょっと感動した。

「行こうか、レイラ」

俺は、助手席から降りてきたレイラに言った。

「うん、ヒロシ!」

レイラが、笑って答えた。


ノガーミ商会 モスノフ支店の豪華なドアを開け、俺とレイラが商会に入ると店内は、大変込み合っていた。


商売繁盛、結構な事じゃないか。


人をかき分け、カウンターヘ向かう。

「!」

その途中で、誰かが俺の肩を引っ張った。


振り向くと……大柄の人間の男が立っていた。

「おう、ジジィ! 割り込みしてんじゃねぇ」

大柄な男は順番待ちで、気がたっているようで、言葉使いが荒い。


レイラが、俺に言った男に向かおうとするのを、手で制した俺は、

「すまんね。でも、俺は、客じゃない。店の関係者だ」

そう言って店内のカウンターのなかに入ろうとしたのだが、側にいた若い店員が、

「あ! じいさん中入っちゃ駄目だよ!」

と、入れてくれなかった。

絡んできた男は笑っていやがる……

クソっ!俺は、弱いけど奥さん強いんだからな。

ぶっ殺すぞ!

と、思いながらも、店員に、

「お前じゃ話にならん、上の者を呼んできなさい」

と、言った。

俺は、人間が出来ているからな。


プイッ

店員が俺を一瞬見て、プイッだって、

はい、無視ですか。

「レイラ!」


ガッ!

レイラが、若い店員の頭をぶん殴った。

若い店員が尻餅をついた。


「この店は教育が、なっていないな」

そう言ったレイラは、殴られて、倒れこんだ若い店員の胸ぐらを掴み持ち上げると、ビンタをした。

ビンタをした。ビンタをした。ビンタを……

みるみる内に、若い店員の顔が晴れ上がっていく。


その様子を見ていた女の若い店員が、責任者を呼びに奥に走っていった。


ビンタは続く。


直ぐに、責任者が飛んできた!

最初から、そうすればいいのに、

よし、では、

「ワシが誰だか分かるか?」

と、優しい俺が言ってやった。


ビンタは続く。


「あんた、何してんだ?」

店長らしき人物が、レイラを見ながら俺をどかそうとする。


失礼な奴だ! 人が話をしているのに! これだから若い奴は……

俺は、やれやれと思った。


ビンタは続く。


「いや、じいさん、どいてくれよ。ちょっと、あんた! 今ビンタしてるあんただよ! おい! 無視すんな、取り敢えずビンタやめろ」

店長らしき人物が慌てている。


ビンタは続く。


「そんな事より、支社長いる?呼んできて。野上が来たって」

俺の言葉に、店長らしき人物が一気に青い顔になった。

「ノッ! 申し訳ございません。直ちに、お前達は此の方々を貴賓室に案内して差し上げろ」

そう言って、周りの店員達に素早く指示をだす!

その後、店長らしき人物は、奥に、すっ飛んでいった。

勿論、ビンタは続いていた。


貴賓室に案内され、置かれたソファーに腰かけた。

俺とレイラの横には、レイラが散々ビンタした若者が立っている。

レイラが引きずって連れてきて、立たせていたのだ。

暫くすると、支店長のソイラが、先程の店長らしき人物と部屋に入ってきた。

「ノガミ様、本日はどうしてこちらへ?」

ソイラが汗をハンカチで拭きながら聞いてきた。

「旅のついでに、アレだよ、え~と視察?」

適当に答えた。

「教育が出来てないみたいだな」

レイラが静かに言った。

ソイラは顔がパンパンになってるな若者を見て、

「レイラ様、お手を煩わせして申し訳ございません!」

ソイラが頭を床に擦り付け土下座した。

「暫く観光するから宿、手配しといて」

俺は、ソイラに名誉挽回の機会を与えた。

慈悲深い男。それが俺。

「ごふっ」

ソイラの声が部屋に響く。

レイラの右足がソイラの頭に乗っていた。

うん、踏みつけてるね。

「お前、ヒロシに恥をかかせるなよ」

レイラが腕組して、ソイラを見下していった。

「ありがとうございまふ」

ソイラは土下座スタイルで踏まれながら言った、……何かハァハァ言って顔を赤らめてる…。

見ない方が良いのでは無いか? と、思った俺は、顔を横にふり、立たされたままの若者を見てみると、股間がギンギンに……

立っとる!

何だこいつ、大丈夫か?

俺は、頭がクラクラした。

店長らしき人物、お前は、まとも

って、立っとる!!

ホントに大丈夫か? この店! 一抹の不安が……


「後で来るから、手配しておいてよ」

俺は、そう言って、レイラの手をひいて、いそいそと部屋を出る。

ここから、一刻も早く出ていきたい気持ちで一杯になっていたからね!


商会を出て俺達は、軽キャンに乗り込んだ。

宿の手配がすむまで、レイラと二人で観光を楽しもう。

軽キャンを、ゆっくり走らせる。

「ヒロシの事バカにしてるね。私ムカついちゃった」

可愛くレイラが上目遣いで言ってきた。

「気にするな。お前がいるから俺は、何があっても耐えられるし、どんな人にも、優しくできるんだ。 だから、俺は、レイラと二人の時は、怒ることもなく、穏やかでいられるぞ」

優しくレイラの髪を撫でる。

「ヒロシ」

「レイラ」

俺達は見つめあい、キスをした。

レイラは可愛い。

この年になっても、俺は、毎日レイラを見るたび恋に落ちる。

うっとり見つめた後、前を見ると……軽キャンの前を、おばさんが歩いていた!

「あぶねぇ!」


キキーーッ!!


俺は、急ブレーキをかけながら、ハンドルを激しく動かして、おばさんを、寸前のところで避ける事ができた!

直ぐに軽キャンを駐車させて、激しくドアを開ける!。


「バカ野郎! 死にてぇのか! クソババァ!」

俺は、おばさんに向かって、怒りを込めて叫んだ。

「なんだと、クソじじぃ!」

おばさんが言い返した瞬間、俺は車を降りておばさんと殴りあいになった。

クソババァ、クソジジィと、罵りあう声が辺りに響くのであった。

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