第6話 エルフのレイラ その2

仲間も増えて、意気揚々と出発した俺達。


何事もなく順調に一つ目の山を越えて、次の山までの道を快調に走っていた。


乗馬して軽キャンと並走しているのがゼノス。

軽キャンには運転席に俺、助手席にはマルス、後ろの席にカローラとレイラがソファーに腰かけている。


レイラは目を、ぱちくりさせて軽キャンに乗っている。

初めての軽キャンピングカーが、珍しいんだろうなぁ……と、思いつつミラーで、レイラの生足をチラチラ見ながら運転した。


「おじちゃん、前を見ていないと、危ないよ」

と、マルスが言ってきたが、男には危なくても、やらなければならない時があるんだと言うことを身を持ってマルスに教える俺であった。


ごんっ


よそ見運転をしてた為。何かにぶつかったようだ。

またゴブリンか?

この世界にきてから何回かゴブリンを轢いていたので感覚が麻痺してる。

ダメだな。ゴブリンも生き物、無闇な殺生は如何なものかと思いながら、俺は、運転に集中した。


因みに、先程、軽キャンに当たったのは、ヒロシの思った通り、ゴブリンであった。

即死であった。

ヒロシは、走り去った為、知る由もなかった。


休憩を何度か挟みつつ、二つ目の山に突入した。


勿論その休憩の度に、レイラへ、スキンシップ(セクハラ)をして、友好を深めた。

……その度に殴られ、俺の体は、もうボロボロだ。

しかし!

さっきの休憩の時、土下座して頼み込んむ事により、やっと助手席に座ってもらえたのだ!

触るな、触れるな! と、誓わされたが……乗せて走り出せばこっちのもんだ!

ウヒウヒ言って、俺は軽キャンに乗り込み、走り出した!


「レイラ~、もう、それ仕舞おうよ~」

俺の方へ、片手で持った短剣を向けている、レイラに言った。


「お前は、信用できんからな! また、私に変な事をすれば、刺す!」

窓の外の流れる景色を見ながら、レイラが脅しをかけてくる。


なんだ、この緊張感のあるドライブ!


俺は、レイラをリラックスさせて、この場を和やかにする!

「変な事って何かな~?おじさん、わかんないなぁ~どんな事~」

レイラを見ると、顔を真っ赤にしていた。

可愛いもんだ。

ニヤニヤ……


「うっ、うるさい! 変な事は、変な事だ!」

あらら、レイラちゃん、ムキになっちゃって……

ん?

良いかも!

結構興奮するぞ! と、新たなプレイに気を良くした俺。


「わからないな? おじさん、レイラちゃんの、お口から、変な事って、何かを聞きたいな~」

ニヤニヤ

「さぁ~! 言ってごら~ん、変な事を」

ニヤニヤ

「ほらぁ~、ほらぁ~」

ニヤニヤ、ウヒョーー!

ハァハァ、言いながら、俺は、続けた!


古今東西、全てのおっさんと言う生き物は、しつこいのだ!


「お前、いい加減にしろよ」

レイラが俺を睨み付け、手にした短剣を、俺の首元に当てた。

「や、やめなよ~」

冷や汗がでた。

俺は、短剣から、ゆっくり前へと視線をずらす。


「あっ!前に、ブタが!」

俺が言った。

「誤魔化すな」

と言いつつ、レイラが前を向くと、前方にデカいオークがいるのが見えた。


「オ、オークキング……」

レイラが震え声で呟いた。

なにそれ?

俺は、アクセルを踏み込みスピードをあげる。


「バカ!逃げないと! みんな死んじゃう!」

レイラは、半狂乱で俺の服を掴んで言ったが、俺は、更にアクセルを踏み込んだ!


えーい! 轢いちゃえーー!


バシュッパーーン!!


軽キャンがオークキングの体を貫き進む!

オークキングの体は、弾けとんだみたいだ。

フロントガラスが、肉片や血で汚れたので、ワイパーを動かした。


ビシャ、ビシャ、ビシャ!

飛び散った肉片が、後ろから馬に乗って走ってきていたゼノスに当たった。


軽キャンを停めて、助手席を見ると、レイラが大きな目がこぼれ落ちるんじゃないか! って位見開いて、アワアワ言っていた。


「あー、あの、レイラ? 大丈夫か?」

そっとレイラの肩に手をやろうと手を伸ばすと、レイラが抱きついてきた。

ウヒッ!

ちょっと、ビックリ!


うん。

怖かったんだな……


俺は、抱きついてきたレイラの頭をポンポン叩いて、

「大丈夫だよ、ブタは、もういない」

と言って、レイラの頭を優しく撫でた。

レイラは、小刻みに震えていた。


「うわぁ~」

ゼノスの声が聞こえた。

なんだよ?

俺が、サイドミラーを覗くと……


オークキングの肉片で、ベチョベチョになったゼノスが。フラフラとやって来ていた。


「うわぁ~」

俺は、グロいし、汚い体で車内を汚されたくないので、そっとドアのロックをかけるのであった。


山の中腹から町が見えた。


今から町に行っても、夜になるな。

「今日はこの辺で車中泊して、明日町に行こう」

俺は、そう言って少し開けた場所に軽キャンを駐車させた。


豚の化け物を倒してから、レイラの様子が、おかしい……

元気がないみたいで、心配だ。

俺を、チラチラ見てくるし、俺、何かしたかな?


俺は、そんな心配をしつつも、軽キャンの水道を伸ばして、車外にシャワーをセッティングする。


レイラが仲間になる前のシャワーの順番だが、焚き火の準備をするゼノスは、いつも最後にシャワーをしていたので、最初が、カローラ、その次に、俺がマルスと一緒に浴びていたのだが、レイラが仲間になってからは、カローラの次にレイラがシャワーを浴びるようになっていた。


「レイラー! もう、あがるから!」

カローラの声が聞こえた。


レイラが、用意をして、移動を開始するのを確認。

元気がないし、心配だ!


ザーー! ザーー!

レイラが行ってから、暫くして……シャワーの音が聞こえた。


よし!

勿論、当たり前に、当然、覗きにいく、俺。

いや、心配だからね!

「エヘヘヘ」


ザーー! ザーー!



「なっ!」

俺の目の前に、服を着たままのレイラがいた。


罠だ!狡猾な!


俺は、絶望の表情をした後、

「ごめん! 俺は、何一つ悪くない」

と、心から謝って、ぶん殴られるのを覚悟し、目を閉じた!


ん?


あれ?

鉄拳が飛んで来ない……


……恐る恐る目を、ゆっくりと開ける……


顔を赤らめたレイラが、横を向いていた。


「……こそこそと、覗かれたくない」

レイラに言われて、俺は、ちょっと罪悪感がでた。

「……ごめん」

それだけ言って、その場を立ち去ろうとした時、レイラが、俺の手を握ってきた、


「えっ?」

俺は、レイラの思わぬ行動に戸惑う。

レイラの様子を見ると、赤くなって下を向いていた。


「……二人きりの時なら……良いよ」

レイラが言った。


ボッ!

俺の顔が、火を吹いたように、真っ赤になった。


「い、い、今は、見ないから、……ゆっくりシャワー浴びて!」

俺は、言って、走って、逃げた!


ドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキ……

心臓がバクバクしてる!


何が起こった?


俺は、混乱とドキドキと驚きとが、ぐちゃぐちゃになった状態で、軽キャンに戻った。

モテない人生、女からこんな風に言われたことなんて無い!

俺に、そんな、耐性がないぞ!!!


ドキドキが、止まらない……



その後、ヒロシは、ドキドキしながらも、タンクの水量チェックをしながら、足りなくなれば補給を繰り返したりとシャワーの管理をした。

以前は水場を探して水浴びしていたが、補給が可能になってからは、好きにシャワーが出来るようになり、みんなの反応も好評だった。

シャンプーやボディーソープなど、お風呂セットが凄く喜ばれた。

だが、今のヒロシは、そんな事を、思い出す余裕がなかった。



「シャワー浴びて、落ち着こう……」

自分の番が回って来たので、俺は、シャワーを浴びに行った。



ザーー! ザーー!

レイラの事が頭から離れない!


ザーー! ザーー!

気がつくと、いつもレイラの事を考えているじゃないか!


ザーー! ザーー!

これじゃ、まるで……


焚き火を囲み、食後のコーヒータイム。


俺の横に、レイラが寄り添ってる。


……緊張する!


セクハラしていた時は、大丈夫だったのに……意識してしまうと、駄目だ!


目の前のゼノス夫妻が、俺を見てニヤニヤしてる。

くそっ!

俺が、ドギマギしてるのを、楽しんでやがるな!



俺は、顔をあげた!


「町で、金を稼ぐぞ!

そして、稼いだ金で、自分達の拠点をつくろう! 安寧の場所は、俺達が自分の力で、手にいれるんだ!」

と、俺は、まくしたてて言った!


「私は、ヒロシに着いていく!」

レイラが、俺の手を握ってくれた。


「勿論、俺達一家も、一緒だ!」

ゼノスも、やる気まんまんのようだ!


そうだ、みんな! 頑張ろうぜ!


「やったるぞーーー!」

俺は、立ち上がり、右手をあげて叫んだ!


俺の左手は、レイラの手をしっかりと握っていた。


「ふぁっ!?」

寝ていたマルスが俺の叫び声で、ビクッと起きた。

ごめん、マルス! と、思い、みんな静かにしたら、マルスは、また寝た。


みんなで顔を見合せ、ホッとした。


「それじゃ、明日も早いし、寝るか?」

ゼノスが言いだして、みんなが賛同した。


ゼノス一家は、キャンピングトレーラーへ、レイラは、軽キャンの助手席へと別れて入っていく。

俺はキャンピングトレーラーと、軽キャンの連結を外してから、運転席に乗り込んだ。


「行こうか?」

俺は、助手席のレイラに言った。

レイラは、黙って頷いてくれる。


ブロロロ……


軽キャンを、キャンピングトレーラーから、少し離れた所に移動させた。


「あっ、ヒロシ、お月さま」

レイラが言った。

軽キャンの中から、目の前の月が良く見える。

レイラの指に俺の指を絡ませ、手をつなぐと、なんだか安心した。


いい夜だ。


助手席のレイラを見ると……月明かりに照らされ、綺麗だった。

じっと、見ていると、レイラが気づいて、笑いかけてくれた。


俺は、気づいた。

やっぱり、俺は、レイラが、大好きなんだ!




うん。


俺は、レイラに、恋してる。

これまでも、これからも、ずっとずっとレイラに恋してる。



俺とレイラは、月に照らされた車内でキスをした。


ホントに、ホントに、今日は、いい夜だ。

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