第2話 ファーストコンタクト

俺、野上博志の運転する、軽キャンピングカーは、軽快に森の中を走行していた。

現代日本と違い、舗装されたアスファルトではない、この道を行くには、サイズの小さな軽キャンピングカーが運転しやすくて丁度良いと思った。


しばらく走っていると、向こうにちょっとした広場が見えてきた。

「休憩すっか」

そろそろ運転にも疲れてきたので、休憩と、現状の確認をする為に、軽キャンピングカーを停車させる。


車内から、キャンプ用品の、折り畳み式のテーブルと、椅子を取り出して、適当に並べた。

そして、カップ、インスタントコーヒーを、テーブルに置くと、俺は、軽キャンピングカーの後ろに設置してあるサイクルキャリアに着けたボックスの中にある、カセットコンロを取りに行った。


「な、なんだコレ!」

ボックスを開けた俺が、驚いて声をあげた。

なぜか? 例の沢山物が入るって言う、アイテムボックスになっていたからだよ!

ウヒョーー!!

「やったぜ! コレで車内が広くなるぞ!」

俺は、車内のかさばる荷物を、どんどんボックスに入れた。

「まだまだ、全然余裕じゃないか!」

更に調子に乗って、車内の細かい荷物もアイテムボックスに、どんどん移す、俺。

何回も車内と外を往復する。

いい加減疲れてきた……どんだけ入るんだよ!

アイテムボックスの容量は、どれだけのものか分からないが、まだまだ余裕があるようだ。

お陰で、車内は、スッキリした。

俺は、だいぶ疲れた。

先に、テーブルとか出しておいて、正解だったと思った。


車内の簡易的な流し台にある水道から、小さめのヤカンに水をいれてきた。

テーブルの上に置いた、カセットコンロにヤカンをのせて、湯を沸かす。

俺は、椅子に座って、湯が沸くのを静かに待つ。


暇だし、やってみるか……


「ステータスオープン!」


俺が言ったら、目の前に半透明の画面が現れた。

コレが、例の……

そうだ! とりあえず必要そうな情報を探そう。

ええーっと、


種族、人間

名前、野上 博志

LEVEL、50

体力、500/500

魔力、5000/5000

スキル、女神の加護

軽キャンピングカー補修


めんどくせぇ……

何かごちゃごちゃ書いてあったが、

「うん、困った時に見よう!」

電化製品も説明書を読まないタイプの人間なんだよ、俺は。

そう、おっさんは細かい事には気にしないのだよ。

ヤカンのお湯が沸くのを、静かに待つ。

辺りを見渡すが、人影もなく静かだ。


まっ、ゆっくりした時間を過ごすのも、悪くない。


「うまい!」

思わず声が出た。

インスタントのコーヒーでも、自然の中で飲むと、凄く旨く感じる!

俺は、タバコを取り出し、吸った。

コーヒーと、タバコ。

至福の時間を満喫する。

最高だぜ!



コーヒータイムを終え、片付け作業中、

「んっ!」

俺の目の前を、馬車が通って行ったのだ。

「おお~異世界っぽいぞ! 馬車!」

俺は、喜んで言った。

そうだ! アレについて行けば、村か町に行けるんじゃね?

「決めた!」

馬車を追うことにした俺は、急いで残りの荷物をアイテムボックスに入れて、運転席に急いだ。

「待っててよー!」

俺は、離れていく馬車を見ながら、エンジンをかけ、アクセルを踏み込む。

ブロロロー……

俺は、馬車の追跡を、開始する。


二時間くらい走っただろうか、馬車が止まった。

まだ森の中だが、日も落ちかけている為、ここでキャンプするようだ。

よし、コンタクトをとるチャンスだぞ!

俺は、人見知りをするので、二時間も、トロトロ馬車の後をつけてきたが、話しかけれなかったのだ!

「あー、ドキドキする…… 行くか!」

俺は、決心して、馬車の近くに軽キャンピングカーを駐車する。

俺は、ドキドキしたまま、車を降りて、馬車に乗ってた人達の元へ歩き出す。

「あっ!」

馬車に乗っていたのは、獣人だった!

「まさに、異世界!」

俺は、呟きながら、観察する。

ジロジロ…

男と、女に、子供が一人…か。

ジロジロ…

親子かな?

ジロジロ…

犬っぽい顔、尻尾もある。

ジロジロ…

コボルトって奴か?


悪質なストーカー以外の何者でもない行動をとる、野上博志は、獣人親子に警戒された!


俺は、軽キャンピングカーに戻り、中にあった缶詰を、何個か紙袋にいれた。

「よし! 手土産も、持ったし……行くか!」

俺は、覚悟を決めて、軽キャンピングカーを降りて、コボルト達の元へ歩き出した。


心臓が口から出そうな位、ドキドキする。


「あ、あの、私、野上博志と、申します」

ドキドキしながらも、俺は、素敵な笑顔で、自己紹介をした。


二時間あまり付け回されたと思ったら、ジロジロ見られた。

そして今、気持ち悪い笑顔で話しかけてくる……

この男は……間違いない……


不審者だ!


そう思って、獣人の男は、野上博志を見た!

男の獣人は、女の獣人と子供の獣人を後ろに控えさせる。

危険な奴かも……いや、間違いない! と、男は思った。

「あんた、何か用か?」

と言って、野上博志を睨んだ。


えっ? 何? スゲー睨まれてるんですけど……と、野上博志は、思った。

「えへへ、お話を、ちょっと……」

俺は、笑顔を絶やさず、獣人に話しかける。


話だと? この怪しい点しか見当たらない人間が、俺達に?

獣人の男は、気持ち悪い笑顔の不審者を見る。

それに、あれは、なんだ?

ええーい、話してみるか! と、獣人の男は、決意した。

「俺は、ゼノス。 ところで、アレは、何だ?」

ゼノスが、軽キャンピングカーを、指差す。


おっ! 俺の自慢の軽キャンが気になると?

わたくしめのようなものに、教えて下さいませ…だと?

フフ、そこまで、言うのならば、仕方あるまい。

野上博志は、極度の緊張からか、ゼノスの質問に、勝手な妄想を加えた。

「アレは、俺の、軽キャンピングカーだ! 馬車のようなもの……と、でも、思ってくれ」

俺は、自信満々に言った。

「そうか…」

言った、ゼノスは、目の前の不審者に対して、警戒心を解かない。


コンタクト成功だ!

俺は、思った。

だが、まだだ!

貪欲な俺は、彼らとの距離を、もっと縮めて、この世界の情報を引き出したい!

俺は、精一杯の爽やか笑顔で、紙袋の中から缶詰を取り出して、

「食事、一緒にしませんか?」

と、言った。


へへへ、

きっと彼らは、涙を流して、

「わたくし、このような物、食べた事がありませぬ、ヒロシ様!」

と、涙を流して、俺に感謝する事になるかもしれないぞ。

いや、なるだろう!


野上博志は、妄想を膨らませる。


俺は、ゼノスに缶詰を渡した。


ゼノス達と、俺は、焚き火を囲んでいた。


まだ、缶詰あけないのか?

俺は、缶詰食べた後の、チヤホヤタイムを期待してるのに!

もう、イライラするな!


俺は、缶詰を、ひとつ手にして、

「さぁ、食べますか」

と言って、ニッコリ笑って、差し出すが、ゼノスは、受け取ると、笑って地面に置いた。


くっそー! さっきから、何だよ!


俺が、ひきつった笑顔でいると、

「おじちゃん、なにそれ?」

子供の獣人が、缶詰に興味を持ったみたいで、食いついてきた。


よし、よし、子供は、可愛いね。


俺が、いざ説明しようとした時、女の獣人が、

「マルス!」

と言って、子供を引っ張り、俺から遠ざけた。

小声で、子供に何か言っているようだ。


って、お前、それ、感じ悪いぞ!


俺が、イライラしていると、

「お腹が、空いているのだろう? これを、食べなさい」

ゼノスが、可哀想な者を見るような目をして、いかにも堅そうなパンを、差し出してきた。


「えっ、あっ、うん。 ありがとう」

俺は、パンを受けとり、一口噛んでみた。

かっ、堅っ!

モシャモシャ…

口の中の水分が持ってかれるな、水を持ってこよう。


「ちょっと、水とってくるわ」

俺は、ゼノスに言って、立ち上がり、軽キャンに水を取りに行く。

よく、水なしで食べれるな? と、思いながら歩く。


俺は、軽キャンにつくと、簡易流しの水道から、水をコップに入れ、飲んだ。


ふう…


あれ?

「ゼノス、何で、俺を、可哀想な人あつかいしたの?!」

先程のゼノスの様子を思い出して、言った。


「え?おかしいだろ?」

軽キャンの中で俺は、一人突っ込みを入れ続けた。



一方、焚き火を囲むゼノス達ーー

「マルス、あの人間は可哀想な人なの」

子供の獣人、マルスの頭を撫でながら、女の獣人が諭すように、語りかける。


「こんなものを…」

ゼノスは、缶詰を手にして呟いた。

こんな鉄の固まりを、食べ物だと言って……あの人間、危ない奴かと思っていたが、頭が……


野上博志を、可哀想な奴だと思う、ゼノス達。


「あなた、あの人が、来たわよ」

女の獣人が、ゼノスに小声で口早に言った。

「みんな、可哀想な人には優しくするんだぞ! 無いと思うが、危ない奴だった場合、下手に刺激して、面倒な事になったら大変だからな!」

ゼノスが、みんなに注意を促し、何事もなかったように、缶詰を置いた。


そんな、ゼノス達の元に戻って来た、可哀想な人、野上博志。


ドカッ!

俺は、ゼノスの隣に座った。


そして、落ちてる缶詰を拾い上げた。


「いいか、お前ら! これは、缶詰と言うんだ!」

俺が、堂々と缶詰を掲げて言うと、ゼノスが笑顔で、

「おお、そうか、そうか」

と返す。


こ、この野郎……


俺は、我慢して、缶詰の蓋を開ける。


「なっ!」

ゼノスが、素手で鉄を、こじ開けた! と、思って驚いた!


俺は、缶詰の中身、牛肉の大和煮を披露する!


缶の中から旨そうな匂いがする。


ゴクリ…

ゼノスが喉をならしたのを、俺は、聞き逃さなかった!


「食べてみ。 美味しいよ~」

と言って、俺は、ニタニタしながら、一つまみ、食べてみせる。

様子を伺うゼノス一家、


「うっまーい!」

俺は、言った後、ゼノスに、蓋の開いた缶詰を渡した。


ゼノスは、旨そうな匂いがする缶詰の中身を、じっと見て……


「……よ、よし!」

意を決して、持っていたスプーンを缶詰の中に突っ込んで、中身を掬い口に入れた!


モシャモシャ…


「う、う、う、うまーーいっ!」

衝撃を受け、絶叫するゼノス。


よし!

俺は、それを見て、小さくガッツポーズ!


ゼノスは、一心不乱に牛肉の大和煮を食べた。

「お父さん!」

「あなた!」

女と子供の獣人が、抗議したが、ゼノスは、一人で、一缶たいらげた。

ふふふ、気に入ったようだね、ゼノス君!


俺は、他の缶詰の蓋を開けて、女の獣人に渡した。

女の獣人と子供が仲良く、缶詰に、がっついた。

やったぜ! と、俺は、思った。


ゼノスが、羨ましそうに、女と子供が缶詰を食べる様子を、みていたが、お前は、一人でさっき食ったんだから、我慢だ!


「いやぁ、最初は、頭の可怪しい奴が、絡んできたのかと思って、警戒していたんだぞ!」

他の缶詰も開け、ワイワイ食事を楽しんだ後に、ゼノスが俺に言ってきた。


うん、ちょっとイラッときた。

だが、俺は、大人であるから、その言葉を、柳のように受け流す。


ゼノスが立ちあがり、

「ヒロシ! すっかり紹介が遅れたな、こっちが、俺の女房の、カローラだ!」

女の獣人が会釈する。

ウヒョ!

なかなかの、巨乳だと思ったが、顔にださない俺。


「んで、こいつが、俺たちの息子の、マルスだ!」

ゼノスが、マルスの頭を掴んで、ワシャワシャした。

「おじちゃん、美味しい物を、ありがとう!」

マルスが、大きな声で言った。

うん、笑顔で、そう言ってもらえると、おじさん嬉しいよ。


それなら、俺も紹介しなきゃな!

「私は、ノガミ ヒロシです。あちらにあるのは、私の相棒である、軽キャンです!」

俺は、軽キャンピングカーを指差した。

「軽キャン?」

カローラが、キョトンとしている。

「馬車のようなもんだってよ」

ゼノスがカローラに、俺の軽キャンを説明した。


「ずっと、僕らの馬車の後ろにいたよね」

マルスが、馬車での移動中に、幌の中から、軽キャンを見ていたと、俺に言った。


「ヒロシは、どこから来たんだ? この辺で、獣人以外、あまり近寄らないからな」

ゼノスが聞いてきたが……そうなの?

ホントの事を言っても、また、頭のおかしい疑惑をもたれるだけなので、俺は、適当に遠くから来て、この地に疎いことを伝えといた。


「やっぱり、外国からきたのね! 他の国は、進んでるのねぇ……

だって、馬が無しで馬車が走るんですもの!」

うん、カローラは、軽キャンに興味があるようだな。

俺は、その巨乳に、興味津々だがね! 軽キャンの中、二人きりでお話がしたい!

と、思ったが、顔に出しては、ぶん殴られると思い、顔には出さない。

そんな、クレーバーな俺!


「俺達、親子は、このクオース国から、出たことが無くてな……」

ゼノスが、頭をかきながら、言った。


俺も、日本の田舎者だから、気にすんなよ! と、思った。


「俺達は、戦争中のガンデル国から来た勇者の軍勢が、魔王様の居城まで進軍してるって聞いたから、別の国に避難しよと旅に出たんだ」

ゼノスが言った。

そうなのか……

「大変なんだな……」

お気の毒に……俺は、ゼノスにそれ以上、何も言えなかった。


ヒロシは、その魔王と勇者を殺したのは、自分の軽キャンピングカーだとは、知らないのである。


「魔王様なら、大丈夫だろうけど…… 城にまで攻め込まれるようじゃな。

先も長く無さそうだし、安心して暮らせる土地を探すんだ」

ゼノスは、そう言って、寂しそうな顔をした。


アテなんてないんだろうなぁ……

マルスを見ると、無邪気に笑ってるし。

カローラを見ると、暗い顔をしていた……

どうなるか解らないって、不安で一杯なんだろう……


よっしゃ!


「俺も、どこに行きゃ良いのか分かんないし、良かったら、一緒について行って良いですかね? 人数が多ければ、旅の危険も減るでしょうし、疲れたら軽キャンの中で、休めますよ。

一緒に、良い土地を探しましょうよ!」

俺は、ゼノスに言ってあげた。


なぜなら、心優しいから、俺は!


「しかし……」

ゼノスは、ゴニョゴニョ言ってる。


「ちなみに、缶詰まだありますよ」

俺の言葉に、ゼノスが両手で、俺の手を握りしめてきた。

「一緒に、旅してください」

と、ゼノスが言った。

俺の言葉に、心を打たれた為であろう。

それ以外考えられん!

「勿論です!」

と言って、俺もゼノスの手を握り返すのであった。

まさに、感動的な場面である。


ただ、俺は、ゼノスがヨダレを垂らしていたのを、見ない事にしたがな!

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