軽キャンピングカーと異世界とおっさん ~無敵の軽キャンと成り上がる~
ミルク
第1話 俺は、悪くない
魔王の居城!
荘厳な雰囲気が漂うこの場所で、まさに今!
最終決戦、最後の時を迎えようとしていた!
勇者、魔王! 互いに満身創痍!
死力を尽くした攻防!
お互い、倒れるわけにはいかない!
倒れていった者達の思いを背負う二人は、退くことなど出来ないのだ!
ゴゴゴゴ……
勇者が、手にした聖剣に魔力を込める!
魔王が、禍禍しいマジックロッドに魔力を込める!
これが、最後の攻撃になる!
と、勇者、魔王、互いに思った!
勇者と魔王は、自身の武器に限界まで込めた魔力を越えて、自身の命をかけて、限界突破でかけ続ける!!
もっと! もっと! もっと! もっとだ!!
目の前の敵を、殺す!
この一撃で、殺す!
命を惜しんでは、目の前の敵を倒すことなど、無理!!
凄まじい戦いの末、向かい合う勇者と魔王は、同じ思考に行き着いたのだ!
ゴゴゴゴ……
勇者と魔王の限界を越えた魔力によって、この空間の景色が、音が、その全てが歪んで見えた!!!
・
・
勇者と魔王が睨み合いになって過ぎたのは、数秒なのか数分なのか……二人にとって、永遠とも思える時間が流れ……
その時がきた!!
ババッ!!
互いに元いた場所に残像が残るほどのスピードで、殺すべき相手との距離を詰める!!!
!!!ドガァーーッ!!!
鈍い音っ!
吹っ飛ぶ、魔王!
吹っ飛ぶ、勇者!
そして、軽トラックベースのキャンピングカー!
略して、軽キャン!
突如出現した軽キャンに轢かれ、吹っ飛んで地面に叩きつけられる魔王と勇者
はい、魔王、死亡。
はい、勇者、死亡。
(※魔王と勇者は限界を越えた魔力を全て攻撃力に振って防御を捨てていた、正に捨て身の攻撃。それを満身創痍の体で繰り出したところに、死角から軽キャンピングカーがぶつかってきたのだ! いくら勇者と魔王とはいえ、死亡したことに、何ら疑問は、全く、全然、1ミリも感じる事は、無い事と、思うのだ! いや、思ってください)
死亡した魔王と勇者は、砂と化した!
限界以上に魔力を使用した為なんだろう。
きっとそうだ!
深く考えてはいけない……
キキキキーーッ!
急ブレーキをかけた軽キャンが、ドリフトして止まる。
床には、横滑りのタイヤ痕が残った。
ガチャッ
軽キャンピングカーのドアが開いた。
「ヤバい! ヤバい! 何かにぶつけたぁ~!」
叫びながら、軽キャンの運転席から、細身の眼鏡をかけた神経質そうな40過ぎのおっさんが、降りてきた。
おっさんは、素早く軽キャンの前方に駆け寄り、ボディーをチェックした!
「傷は、……無い!」
ホッとする
「へこみ、……無し!」
良かった!
普通の人ならば、ここで安心するのであろうが……
甘いぜ!
俺は、気を引き締めなおす。
安心するのは、まだ、早いからな!
おっさんが、そう思うのは、何故か?
それは、おっさんが知っているからだ!
暗いところで見て、大丈夫! と、思っていたけど、明るいところで見たら傷がありました! と、言うのを、長い人生経験から学んでいたのだ!
伊達に、おっさんでは……ない!
読者諸兄は、おっさんの深い考察に、思わず
「なるほど!」
と、感嘆の声をあげている事であろう。
「気をつけねばな……」
無事故、安全運転を誓った、おっさん。
高齢ドライバーのアクセル全開暴走運転で、沢山の人を殺したり怪我させた事故のニュースを聞くたびに、高齢者なんだから、残り時間少ないから急ぐのか? 一人で死ね! と、問題発言を吐きつつ、心を痛める程の優しさをもつ、俺は、事故に敏感なのだ!
人身事故だけは、しない! と、勇者と魔王を轢いた、おっさんは思うのだった。
そんな、事より……
「なんだ、ここは? ……建物の中?」
俺は、辺りを見渡しながら、シャツの胸のポケットからタバコを取り出し、ライターで火をつけた。
ゆっくりタバコの煙を吸い込んだ。
ふぅー。
落ち着く。
冷静になってきた。
そうか、ここが……
「……異世界…か」
俺は、呟くと、もう一度タバコを、ゆっくり吸った。
タバコを携帯灰皿にねじ込むと、おっさんは、軽キャンに乗り込みエンジンをかけた。
カーナビの電源が入り、機械的な音声が車内に響く
「レベルアップしました」
「ヒエッ」
俺は、思わぬ音声にビクッとして、変な声を出してしまった。
「なんだよ、もう~」
俺は、ハンドルに、もたれながら言った。
すると今度は、カーナビから、聞いたことがある声が流れてきた。
「!」
この声は、あの、エロ女神だ!
俺は、カーナビに注目する。
「野上博志よ、レベルアップしたようですね」
透き通った声、間違いない!
「女神様! そんなことより貴女に飛ばされて、いきなり事故りました! 暗くて見えませんでしたが、傷や、へこみがあったら、どうしてくれるんですか!」
俺は、クレームを入れる! 当たり前だ! 貯金を全て注ぎ込んで買った、大事な軽キャンピングカーなんだぞ!
どうしてくれるんだ!
「ヒロシよ、その軽キャンピングカーは、神の加護によって守られているし、修復機能があると説明したはずですが?」
そうだっけ?
「聞いてません!」
俺は、キッパリ言った。
「チッ……言っただろうが?」
ん?
今、舌打ちしなかったか?
「知りません!」
俺は、ハッキリと言った!
言うべき事は、きちんと主張しなきゃいけな
「チッ」
今度は、女神の舌打ちが、ハッキリと聞こえた!
やっぱ、舌打ちしてんじゃねぇか!
「……大体テメーは、人の体を、エロい目で見てっから、人の話聞いてなかったんだろうが!」
イラつきながら女神は、俺に言った。
ホントに口が悪いな……
言われっぱなしでいれますかってんだ!
こっちにだって、言い分ってのがあんだよ!
「見てほしいから、あんなエロい格好してんでしょう?」
俺は、正当な主張をした!
「やっぱ、見てんじゃねーかよ!」
図星だ。
だが!
「見てねーし」
俺は、とぼける!
「お前、ふざけんな」
・
・
このまま、しばらく不毛な会話が続くので、読者諸兄には、彼、野上博志と軽キャンピングカーの事、及び、この地にきた経緯を、ご説明させていただく事としよう。
野上博志45歳、
日本海側の小さな町で生まれ
現在独身(結婚歴無)
職業、事務職
性格、小心者、妄想癖有り
エロい事ばかり考えている中学生みたいな中年。
彼の軽キャンは、キャブコンと呼ばれるタイプで、軽トラックの荷台部分にシェルと呼ばれる居住空間をくっつけたものだ。
シェルの天井部分が中から、跳ね上げることが出来るようになっている、標準的な軽キャブコンだ。
その日は、動画投稿サイトの軽キャンオーナーの動画を見て以来、欲しくて欲しくてたまらなかった、軽キャンピングカーを買って、初めての車中泊に行く日だった。
野上博志は、ウキウキしながら狭い車内に、あれもこれもと、荷物を沢山積み込み、やる気満々で、自宅を出発した。
国道に出ようと、ハンドルを切った。
歩道に座っていた女性のパンツが見えた。
目線をずらすことが出来ようはずもなかった。
そして、軽キャンは、対向車線へと進み、直進してきたトラックと、衝突した。
軽キャンは大破し、野上博志は、死亡した。
気がついたら、野上博志は、何もない白い空間にいた。
怪我はない。
野上博志の横には、軽キャンピングカーが、買ったときと同じようにピカピカの状態であった。
どういう事?
何がなんだか訳がわからない野上博志の側に、女性が近づいてくる。
女性の体が、うっすら光っている。
長い金色の髪が、光を受け、神々しさを醸し出していた。
ただ……
女性の格好は、マイクロ水着に薄い透け透けのローブのようなものを、まとっている姿で……エロい!
この女性の神々しさに圧倒された野上博志は、跪く。
座っているのだが、体の一部は立っている。
些細な事である。
「ノガミ ヒロシさん、立ってください」
目の前のエロい女が言うが、こっちにも事情がある!
「いえ、畏れながら、あなた様は神様では?」
俺は、適当に言った。
時間稼ぎだ! 静まれ、俺の股間よ!
「私は神ですが、神になったのは最近です。そして、貴方の世界の神ではございません」
女神は、野上博志に歩み寄りながら言った。
ふうん。
何を言ってるのか、ちょっと……
そんな事より!
「……」
野上博志は、顔を伏せたまま、何とか気づかれまいと、全神経を総動員で、目の前にある、女神の股間を、その目に焼き付けんとするのだった!
女神は、話を続ける
「この世界は、あなた方の世界で言うところの中世ぐらいの文明でありモンスターや魔法も存在して、……って、聞いてます?」
「……」
「野上さん?」
もう、うるさいな!
「はい、も少しで見え、いえ、聞いてます!」
一瞬バレた? と、思い、俺は、焦った。
だが、返事をする際に顔の位置をずらした事により、ベスポジに、お目当てのものが、目にはいった! yes!
女神の素敵な箇所を凝視する、俺!
女神の説明が続く、
「ヒロシさん、この世界は、争いが絶えず、各国が自国の戦力になり得る勇者を、異世界より召喚したり、転生させたりしています」
「はぁ?」
当然、それどころではないので、生返事で返す。
俺の頭は、目の前の股間の事で、一杯だ!
「ある国が、貴方の世界から勇者召喚を、おこないました、それが貴方のぶつかったトラックの運転手です。
……申し訳ございません……、貴方は、私達の世界の者が行った、勇者召喚のせいで、死なせてしまったのです。
……その代わり、と言っては、なんですが、貴方を、神の権限により、この世界に召喚させる事にしました。
貴方は、この世界で、余生を好きなように生きてください。
貴方の大事にしていた、軽キャンピングカーには私の加護を与えましたので、壊れることは無いでしょう。
また、自動修復機能もつけましたので、強力な攻撃を受けたとしても、時間がたてば、元通りになりますよ」
長い話なので、途中で聴くのを、潔くやめた、いや、最初から聞いていなかった。
股間を見るのに忙しいからな!
「もちろん、貴方自身にも加護を与えました」
不意に、女神の声が聞こえた。
今まで聞いて無かった、俺が悪いのだが、
「……えっ?!」
やった!
これは、テンプレチート展開ですぞ!
俺は、思わず立ち上がった。
あ、
「ヒロシさんには、……って、テメー! 何、おったててんだ! 殺すぞ!」
女神が俺を見て言った。
ヤル気満々、ギンギンに元気な俺。
当然、女神の怒りをかった。
ギャンギャン、女神がうるさい。
これは、女神の怒りを、静めねば!
静めるには?
ピコーーン!
賢い、俺は、閃いた!
そうだ! 褒めればいい!
女なんてモンは、褒めときゃ、なんとかなんだよ!
この女の良いところは……
「おっぱい、大きくて素敵ですよ」
キリッとして、俺は、言った。
ぶちっ
女神の堪忍袋の緒が切れる音が響いた。
うん、……ヤバイね。
「失せろ!」
女神が叫ぶと、野上博志は光に包まれ、気を失い、次に気づいた時には、魔王と勇者を轢く寸前であった。
・
・
・
では、話を現在に戻そう。
「……と、言うわけで加護を与えたのですよ」
俺は、自分の不注意の事故であったとは、流石に言えないので、黙って女神の説明を聞いた。
「私から、ヒロシさんに、お話しするのは、これが最後になります。貴方は、貴方の人生を、謳歌してくだいさいね」
女神が言った。
良い神様だと、俺は、思った。
って、あっ、大事な事、聞かなきゃ!
「女神様!最後に聞かせてください。ステータス確認と荷物を沢山入れれる、例の袋的な、アレ、ありますか?」
「もちろん! ステータスは、意識すれば、アレ的な画面が出ます。沢山入る袋的な、アレは、軽キャンピングカーに、機能として、つけてありますよ!」
サービス満点じゃないの! ウヒョー!
「ありがとうございますぅぅぅー!」
俺は、ハンドルに頭を擦り付けて、女神様に感謝するのだった。
・
・
・
ブロロローー……
軽快に軽キャンを飛ばして、魔王城を後にした野上博志。
彼の伝説が、これより始まる!
「さえない、モテない、底辺からの45年から脱出! 異世界最高!!! 出来れば、若返らせてくれたら、良かったのにね~」
俺は、喜び、叫びながら軽キャンピングカーを走らせた。
俺を、止める事など……出来んのだ!!
ウヒャヒャヒャヒャーー!!
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