第52話暖冬のタカたち


「チョウゲンボウをまだ見ていないのよ」

「去年はもう来とったのに」

バーダーと言う雑誌の一月号の付録のバーダーダイアリーを見ながら夫婦で話しました。


ジョウビタキも去年よりも遅くやって来たのは、やはり温かいせいなのかもしれません。しかし冬鳥たちはやはり次々と九州にやって来て、日に日にカモ類は増えています。


「ああ、今日もチョウちゃんはいないなあ」


職場の昼休みに河原で待っているのですが、遠くの電柱にすら姿が見えません。今年で三年目ですが、二年ともこちらにやって来てすぐは

「ここは自分のテリトリーだぞ! 」と言わんばかり、というか言っているのかもしれませんが、ちょくちょく姿を現してくれていたのです。


しかし野鳥観察は本当に急な事件が起こります。


二週間ほど前の朝、カラスが騒いでいます。そして低く早く飛ぶ茶色い鳥


「あ! 朝からバトってる! 」


一羽のカラスがチョウゲンボウと追いかけっこしていて、他のカラスは田んぼではやし立てているだけという感じでしたが、何とかムービーで撮れました。しかし十五秒ほどでチョウゲンボウの方が遠くに行ってしまいました。


「撮れた! 撮れた! 」


と数日はうれしかったのですが、それから同じ場所では姿を見なくなってしまいました。実はもしかしたら「来なくなってしまうかも」と言う不安があったのです。今年、川ではずっとショベルカーが動いていて、田んぼは徐々に宅地になっています。またけんか相手のカラスは数の増減が激しい状態です。


「自分でおる所を探さんと、あそこだって俺が探したんやから」


確かに私が毎日観察している所は、主人がホバリングしているチョウゲンボウを見つけた所だったのです。


「うーん、だとすると、もう一つの川かな、こっちにカラスがいれば、あっちは少ないかも」

と次の日に早速近くの別の川辺に行きました。


「いた!!! 」


翼の長い茶色い鳥が、土手ギリギリを飛んで、カラスとちょっと小競り合いした後、電線に止まりました。


「良かった! 」

嬉しさはあったのですが、何せその日はドン曇りで、チョウゲンボウの微妙な色合いを美しく撮ることなどできませんでした。

ですがやはり前年のように見ることがなくなったある日の事、


「シュ」っと私の前を横切ったのは間違いなくチョウゲンボウ


「わわわ! 」慌ててカメラを用意している間に、中学校の建物の間をぬって飛んでいきました。

そうでした、彼らは「街の鷹」、人間の営みの変化を逆に利用できるタカなのです。


ですから、今日の昼休みも別の川辺に現れてくれたのでした。

あっちがうるさいからこっちに来たと言わんばかりで、しばらく電線に止まってくれ、撮影することができました。



「今日はオスのチョウゲンボウがいたよ! 」

「今年はチョウゲンボウの当たり年かもしれんな」


主人の予想が当たるかどうかわかりませんが、やはり冬はやって来ています。

その証拠にハヤブサは鉄塔に帰ってきました。

かなり小さく見えるオスと大きなメス、であろうと思います。(何せ遠いので確実なことは言えませんが)

このあたりの食物連鎖の頂点に立つ彼らは、今年も一番高い建物の上に陣取っています。しかしながら小さなオスは


「え? あんな所に鉄塔の部品があったかしら? 」

と思ったほどです。


擬態なのか、誇り高い王様なのか、その両方なのか、こればっかりは永遠の謎です。



余談ですが現在ユーチュブで

「實吉(さねよし)先生の動物のお話」

が公開中です。年配の方は「ああ! この先生! 」と思われるでしょう。

動物学者であり作家である先生のお話は本当に面白く、ためになります。

お時間のある方はぜひご覧になられて下さい。


余談と書きましたが、実はこのことが一番お伝えしたかったことです。









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鳥、撮り、トリッツ @nakamichiko

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