第50話 実物
ケリが私たちにとって美しく思えたのは、絵や写真ではどうしても表現しきれていないものがあるためでしょう。例えば子供向けの写真図鑑にしても、常に「新しいもの」に差し替えられているわけではありません。
「どうしてこの鳥のこの写真を採用したかなあ」
と思うような、実物の魅力を半減させてしまうようなものもあります。
ですから猶更実物を見たい、撮りたいとなるわけです。
田んぼにすくっと立ったケリは、本当に美しいと感じました。気の強い鳥なので、凛とした感もあったからかもしれません。
しかしながらタゲリとの差は疑問になるばかり
「どうしてかしら? 昔から骨格で調べたという訳ではないでしょうに」
「うーん、だとしたら理由は・・・」
と主人が言うので、ネットにあげられているタゲリとケリを比較してみました。
「あ! そっくり!!! 」
まるで双子のように(大きさは違うかもしれませんが)
双方の雛が全く同じなのです。薄灰色で、足が長くて、どっちがどっちの雛かを私たちが判別するのは難しいと思えました。
「なるほど、これを見てケリにタゲリか」
正確な経緯は分かりませんが、私たちの間では
「昔の人って良く見ているね」という結論に達しました。
さて、真冬のタゲリに戻りましょう
「こっちかあっちにおるから」と主人が先導して私たちは田んぼの道を歩きました。
「やっぱりおった」
「え? どこ? 」
これも毎回の事なのですが、主人の言うところに双眼鏡をむけても、確認が出来ません。そこは真冬の田んぼですが、耕されており、数日前の雨で田んぼの土は黒、よく見ると、その黒土のこぶの上に何かが動いています。
「タゲリがいっぱい。ああ、この黒い土が翼と同じ色で分かりにくいんだ」
何度か同じことを書いたと思うのですが、鳥の色は保護色であり、メスにアピールするものでもあります。私はタゲリを見てさらにこの点に深い感動を覚えました。
しかしタゲリは警戒心の強い鳥で、二、三十メートルくらいの距離まで近寄ると
「ミュウ! 」と言って飛び去ってしまいました。そしてその飛ぶ姿は長い翼が美しく、しかもかなり密集した感じで飛びます。これはハヤブサよけのためなのかもしれません。
しばらくするとどこかに降りました。
「きっとあっちの田んぼや」
と主人と移動すると、休耕田なのでしょうか、小さな草が生えている所でした。そこで見るタゲリは、美しい形、筆で描いたような微妙な色で、本当に魅了されてしまいました。そしてたくさん写真を撮って家に帰ると、
「ああ・・・思ったほど色が出ていないな」
冬の曇り空、ほんの少しの晴れ間があったのですが、立っていた場所が悪かったのでしょう、双眼鏡の方がよく見えました。
先輩方はよく「こっちじゃ光の具合が悪い」と言うことをおっしゃいます。まだまだ私たちは経験不足です。
しかしいつか
「微妙な色合いの鳥を美しく撮りたい」
この鳥も多くのバードウオッチヤーを魅了し続ける鳥です。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます