第47話今年の春
私がこの話書き始めて一年になります。去年の今頃はコマドリとヤブサメのフィーバーに浮かれていましたが、今年はそうはいかなくなりました。
珍しい鳥を求めて遠方に撮影に行くこともできませんし、また冬には鹿児島県のツルの飛来地に行きたいと思っていたのですが、それまでに生活が元に戻るかどうかもわかりません。
しかし、鳥は身近な存在です。
一か月以上前にやって来たツバメを見て、私は「あれ? 」と思いました。
「飛ぶのが遅い、来た時の半分ぐらいの速さしかない」
しばらく観察していると気が付きました。
「あ! 太ってる、体が倍くらいに大きくなっている」
日本にやって来て、今から子育てをするのですから、食べて体力を付けなければなりません。
鳥の種類の多くは死ぬまで卵を産み、子育てをすると言われています。毎年繰り返される彼らの営み、それを尊いものだと思ってはいました。しかし今年は、色々な所に出来てゆくツバメの巣を見ながら、それを
「羨ましい」
と思う自分がいます。
こんな風に思う日が来るなんて、考えもしなかったことです。
また二週間ほど前、近所の公園で啄木鳥のコゲラが巣を作っているのを見つけました。
驚くほどきれいな丸い穴に、体の三分の一ほどが入っていたでしょうか。以前巣の跡を見たことはあったのですが、実際に作っているのを見たのは初めての経験でした。数分ムービーを撮り、そしてすぐさまその公園を後にしました。
何故なら、あまり長くいて、毎日のように観察していると「巣の放棄」につながってしまうと思ったからです。
それともう一つ心配なことは、その場所でした。まだ少し花が残る桜の木の最上部、太めの枝の切られたところの、ちょっと下だったのです。
「わかり易い所に作ってくれたから観察はしやすいけど、カラスから丸見えだな。若いオスかな」
と、心配でしたので、猶更いかないようにしました。そして二日前でした。久々にその公園を訪れると。
「え! 巣はどこ? 」
となってしまったのです。細い枝から若葉が出てきて完璧なまでにその場所を隠してしまっているのです。
「長居してはいけない」と決めていたのですが、あまりに巣が見つからないので、双眼鏡でいろんな角度から観察しました。
途中で巣作りを止めたにしても、痕跡はあるはずなのです。体がかなり深く入っていたのですから。しかし、枝の影でその場所の確認すらできず、「遠くから短時間の観察」を誓っていたにもかかわらず、時間は長くなるばかり。すると
「ギ―」
という木のドアがきしむような、小さな音を立てて、鳥が私の上を飛んでいきました。
「いけない、コゲラが帰って来た」
実はこの「ギー」がコゲラの鳴き声なのです。このコゲラが家主かどうかは分かりませんが、すぐに私は公園を後にしました。
そしてやっと気が付きました。
「全部計算済みだったんだ、巣が枝と葉で隠れてしまうのも。全部わかってあそこに巣を作ったんだ」
あらためて、自然の中に生きる動物たちの賢さを知りました。
人の生活がどう変わろうとも、地球は周り、季節は廻ります。
川辺には、今年もオオヨシキリがやって来て、一週間前までは沢山いた、ツグミたちの姿はほとんど見られなくなりました。
鳥たちは今から子育てが始まります。
彼らの変わらぬ生活を願うばかりです。
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