第44話秋の鳥行記 春のミス


「撮れてよかったね」

と私たちは次の目的地に行くことにしました。有明海ほどの干潟ではありませんが、毎年色々な鳥が越冬に訪れています。


「ヒシクイいないかな」

「お前好きやなあ、コンドルとか、大きい鳥が」

主人から言われて気が付きました。私はどうも大型の鳥を見るのが好きなようです。それは私が眼鏡が無ければ生活できないほどの「近視」だからなのかもしれせん。


「ヒシクイ」という名前もほとんどの方は聞いたことがないとおもいます。大型の雁で、日本にやって来るものでは、個体差はあるでしょうが最大級になります。ヒシの実を好んで食べていたからこの名前が付けられたとは思うのですが、現在ではヒシの実自体が少なく、狩猟のためなのか数が減っていて、天然記念物になってしまっています。ちなみにトキやコウノトリは特別天然記念物です。


今年の春、この干潟にヒシクイがしばらく羽を休めにやって来ていました。主人はそれを撮影し、数日後私も見に行くことにしていたのですが・・・まるでドラマのような事が起こってしまいました。


 電車の駅から歩いて行ける距離なので、春のピクニックに二人で出かけました。広い田んぼの向こうに干潟が見え始めると、私は遠くにとても大きな鳥がいるのに気が付きました。


「あれ? あれがヒシクイ? 」

「あれは・・・カルガモやないか? 」

「でも大きいよ」


ヒシクイは単純にカルガモの倍の大きさです。確かに渡ってくるカルガモは体がかなり大きいようですが、さすがに遠く離れた所で、双眼鏡でこれだけはっきり見えるのは大きい鳥に違いありません。


「行こうよ、ヒシクイ」

「待てよ! ほら! ウミアイサのオス! 」


ウミアイサのオスはその時初めて会いました。頭がマガモのように緑色なのですが、髪がツンツンと立っているのです。しかも確かに近いので、とてもよく映ります。サザビーで撮ると、魚を獲る長い嘴は魚竜の様です。主人は夢中になっていますが、私はちらちらと干潟が気になって仕方がありません。

そして、ウミアイサの撮影会が終わった頃に行くと、干潟には大きな鳥が見当たりません。カルガモばかりです。


 するとこの干潟を定期的に観察なさっている方が教えて下さいました。


「ヒシクイの群れは、今日の九時半過ぎにとびたちましたよ、全員」


私が遠方から見た時間とほぼ同じでした。

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