第39話秋の鳥行記 1の1


「何処に行こうか」

「いいよ、パパの好きな所で」


 子供が巣立ってしまったのに、いえそれが寂しいからなのかもしれませんが、まだ「パパ」と言ってしまいます。


二人で休みにどこに鳥を撮りに行こうかとちょっと悩んでいました。

秋、海辺にはカモや一時的に立ち寄るシギ類、また絶滅危惧種に指定されている鳥などが、ひょっこり現れたりするのです。私の家から日帰りで行ける干潟は二か所、しかも東西なので、どうしてもどちらか一方になります。


「でもベニマシコも撮りたいしな、アップしている人がいるし、今やったら食べるところが撮れるかもしれん」


去年ベニマシコがやって来ていた、大きな自然公園も候補地の一つです。その公園はちょっと離れた所にあるので、私は結局ベニマシコを見に行けたのは一度だけでした。しかしそこでは夏にはサンコウチョウ、運が良ければ、キジ、タカ類等たくさんの鳥を見ることができます。


「どうしようかな、ベニマシコを撮っとる人もおるし、この前干潟にはダイシャクシギの群れがおったもんな」


二週間ほど前、主人が干潟で撮ってきたダイシャクシギの写真は、とても綺麗でした。潮のために、彼らが岸近くまで近寄ってきていたのです。

「お前はどっちがいい? 」

「うーん、干潟でヒシクイが見たい」

「来とらんやろう、誰もアップしてない」



では鳥行予定は結果的にどうなったかと言うと

「朝、自然公園でベニマシコと、タカとルリビタキ、ミヤマホオジロアオジを撮って、昼から干潟に行く」

絶対どっちかだけでも当たるはず、というスケジュールを組みました。


「潮があんまり動かんけど、でももう一つの干潟はもっと動かんから鳥が近くによってこんやろう」


海釣りを時々していた主人にとって潮位表は見慣れたものです。私でも見れば何となくはわかるのですが、海は経験がものを言ってくるので、素直に主人に従うことにしました。


 カメラの準備等々は主人の仕事、というか趣味で任せっきりにしているので、とにかく私は食料の事を考えることにしました。春ならば、お弁当持参で行くのです。何故なら撮影時間の確保ともちろん節約と、対コレステロール、中性脂肪対策です。しかし寒くなるとさすがに冷たいものは体も冷やしてしまいます。秋とはいえ、急に寒くなった時におにぎりはつらいものがあります。お弁当の保温ができるものもありますがこれは重すぎる・・・で、手抜きと温かさを兼ねてレトルトハンバーグをお湯でゆでて、速攻に新聞紙に包み、保温バックに入れることにしました。後はつぶれにくいパンを買っておいて、ジャガイモをスライスして焼く。忙しい朝には最適です、そしてその日の朝がやってきました。


「まだ五時前よ、もう起きるの? 」


夏ではないので、早く行っても暗くて写真が撮れないのです。

なのに主人はそのまま六時過ぎの出発まで起きていました。


心は小学生のままです。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る