第18話美しい名前

 

 この鳥を誰がそう呼び始めたのか、もちろん分かりません。生物の名前と言うのはそれこそ複雑な歴史を持っていて、言語学上の音声変化等もあって真相は「藪の中」です。しかし想像してみるとすれば、一人の洒落た人がそう言って、それが瞬く間に広がり、現在も残っていると言うところではないでしょうか。

詠み人しらずの秀歌のごとく、本当に秀逸な名前です。


「サンコウチョウ」


私もこの呼び方が大好きで、口に出すたびに喜びを覚えます。

漢字では三光鳥 彼らの鳴き声が


「つき ひ ほし ホイホイホイ」


と聞こえるからなのです。本当に誰が名前を付けたのか、

しかしこの優美な名前にも関わらず、昨日の主人は


「お前見えた? 俺は見えた! 長い尻尾がふわって飛んでいくのを! オスや! これで飛ぶのを見たのは三回目! 間に合わんやった!!! 」


地団駄の地団駄、確かに昨日の鳥行(ちょうこう)の最大目的は彼ら

「サンコウチョウ」体はスズメほどなのですが、圧巻はオスの尾の長さ、体の二倍ほどあるでしょうか、まるで品種改良の末できた鶏の「オナガドリ」の様です。


「こんな鳥が日本にいたの? 」


存在を知った時には驚きしかありませんでした。黒い顔の中に真っ青なアイリング、東南アジアからやって来るこの夏鳥は、全国的に飛来し、私も毎年「鳴き声は必ず聞く」鳥ではあります。

調べましたら静岡県の県鳥で、中央で二羽がクロスをして、月と日と星がちりばめられた、ジュビロ磐田のエンブレムとなっていることを知りました。しかしながら繰り返しますが、彼らのアイリングの色はジュビロ磐田のユニホームのさわやかな水色ではなく、本当に青、黒の中でも負けない色をしているのです。


 私は今までサンコウチョウを撮ったことがありませんが、「メスらしきもの」の写真はあります。彼らの鳴き声がする方で何かが動きました。サザビーのデジタルズーム160倍まで拡大して撮ってみましたが、小鳥の上に遠いので謎解きのようなものです。そう、彼らはこの美しい姿を持っているのに、ほとんど人目につくところに現れることはないのです。

昨日は二人で、サンコウチョウが毎年多分子育てをしているであろう、山間の公園に行きました。最初に出てきたのは、ガードレールのキビタキ君、背中がまだ少し灰色っぽいので、去年生まれた子なのかもしれません。この子がしばらくサービスしてくれていると主人が


「聴こえた、ホイホイホイ! 」


しばらくその近辺で主人と待ちました。何故なら去年主人はその付近で「メス」を撮ったことがあったからです。彼女達にもアイリングがありますが、やはり撮りたいのはオス。


「この時期バードウオッチヤーがたくさん来られてますね、でもちょっと声をかけづらくて」と散歩の方とお話ししました。

首から下げたミラーレスとネオ一眼の人間の方が、大きいシステムの一眼を構えた人より話しかけやすかったのでしょう。


「サンコウチョウという鳥を狙っているんですよ」


「サンコウチョウ? 聞いたことがない。そうなんですか」


人前になかなか現れず、長い尻尾を持つ鳥に出会うのには

「運」と「忍耐」

そして撮るには

「カメラマンの腕」

が問われる鳥です。


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