第17話標的になるもの
秋の朝の事でした。私は電車の時間のため、職場には三十分以上早く着いてしまいます。それはちょうどいいと朝も鳥を追いかけています。
実は「早朝が一番のねらい目」という意見が多いのです。鳥はさえずり、いる場所を教えてくれますし、光はある程度差して写真も撮りやすいのです。
その日、いつものハヤブサ鉄塔の付近にいると、畑に何かがいます。
「コンドル?? 」
とても大きく見えて、しかもその数日前佐賀県にコンドルが迷い込んできたという話を知った私は、バシャバシャと撮って確認したところ
「ハヤブサか・・・そうか、畑におりているのを初めて見たからか」
とその大きさに驚いていると、急に空に舞い上がって二羽のカラスとバトルを始めました。
「何? 餌の取り合い? にしては何も持っていないけど」
ファインダーなしのサザビーでは空中戦は撮影できず、その様子を見ているだけでしたが、ハヤブサたちはまた畑に降りてきました。そして何かを突っつくハヤブサの周りから、ふわふわと鳥の羽が舞い上がっては落ちています。
「なるほど、ハヤブサが採ったハトを畑で食べようとしたら、それをカラスが横取りしようと思ったのか」とわかりました。
でもそれならバトルなど行わず、一羽のカラスがとって逃げればよいものを、とは私も思いました。しかし日本のスピード王に勝てるわけもありません、取って逃げれば「鷲掴みする足とその爪」で傷を負わされる可能性が高いので、
「諦めろよ! 俺たち二人だぞ! 」
「俺が獲ったんだよ! お前たち盗人猛々しい! 」
という喧嘩はハヤブサが勝利し、やっと畑で食事を始めることができたのです。
「ラッキー!!! 」
私はゆっくりと近づきました。何故なら猛禽は一般的に
「食事中は近づける」と言われているからです。その上この二羽のカラスもハヤブサの側を離れずにいます、急いで食べた方がいいのです。
「よしよし! 」畑のすぐ横の道から写真とムービーを撮りましたが
「ああ・・・・・時間・・・・・仕事・・・・・休もうかな・・・・・」
と嘆きつつその場を後にしました。
昼休みにもちろん行ってみましたが、残っていたのはほんの少しの羽だけで、きっと残りはカラスくんたちが持っていったのでしょう。やっぱり一部始終が撮ってみたかったなあ、と今でも思います。しかし帰りもウキウキとして、電車の中ゆっくりと
鳥果(ちょうか、これも我が家言葉ですから悪しからず)を確認していると
さすがにちょっと天罰的なものが当たりました。
「ああ・・・ハトにリングが付いている・・・レースバトかな・・・」
ハトの飼い主のことを考えると、申し訳ない気持ちになりました。
私はハトレースのことはわかりませんが、一度主人が「きれいな鳩」を撮ってきたことがあります。白とベージュのシュッとした、いかにも「私は綺麗でしょ? 」と言っているような姿でした。実はその鳩にもリングがあって
「きれいなものを買って、専用の餌をやっているだろうから猶更きれいなのかな」と二人で話していました。だとしたら普通のハトよりも「飼い鳩」の方が美味しいからハヤブサは狙って食べたのだろう、と最終結論を出しました。
しかしそのことを先輩バードウオッチヤーに話すと
「レース鳩の方が捕りやすいんよ、まっすぐ飛ぶから。普通のハトの方が複雑に飛ぶ、敵から逃げるためにね」
ということでした。最近知ったのですが、ハトが数十羽の群れで、かなり密集して飛んでいるのは「レース鳩」なのだそうです。そう言えば駅の周りでそうやってハトが飛び、近くにハト小屋があったのを思い出しました。この趣味もずっと愛好者が尽きないのです。息子の同級生のお父さんもそうでした。
「そうか、レース鳩はゴールまでの時間を競うから、最短コースを行く習性なんだろうな、ハヤブサはそれを知っている」
そうしてこれも数か月前、鉄塔付近をウロウロしているときに見つけたのです。川辺近くのお宅にある「ハト小屋」を。
ハヤブサ鉄塔からは川の中洲が良く見えます。サギや鴨が集り、他の鳥の水浴び場所、しかも近くにハト小屋がある。彼らはここを離れることはないでしょう、最高の餌場なのですから。
本当にここ最近は彼らを見かけていません、子育てが終わったらハヤブサの「幼鳥」を連れて帰ってくるかもしれません。今はそれを待っているのも楽しみの一つです。
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