第11話究極の色

 

 ギリシャ神話のナルシスはやがて水仙に姿を変えますが、その黄水仙の色から名前が付いたともいわれています。

キビタキの色、背中の羽の黒は少しだけ薄い墨の色、左右の羽の下からは黄色い体が見え隠れします。肩部分には白く長い紋、眉も黄色ですが少しオレンジ色を含んでいるようで、そして喉元は本当にミカンのような、カメラでも目に飛び込んでくる橙色をしています。その橙色の部分が徐々に黄色に、さらに白にと変わっていきます。しかしこの色の変化は成長と個体差もあるようで、一昨日近所の公園で撮ったキビタキは、胸のほとんどが美しい橙色でした。


「今まで見た中で一番色がきれい」


と二人で楽しんだのは夕方六時、うっそうとした木々の間で撮ったので、ISO感度は3200、パソコンで見てもガサガサという感じです。ISO感度は低いほどいいと思っておいて間違いはありません。写真家は、400、それ以下がいいという意見がほぼ大半です。

光量が十分な昼間であれば今時期80にまで下がりますが、夕方はどうしてもこれが上がってしまうのです。とにかく「会いに行く、見に行く」ことも楽しみなので、撮った写真は自家用オンリーです。


「テュッテュリーテュッテュリー テュテュテュ」


比較的地上に近い所で鳴きます。それだからなのでしょうか、このさえずりが林の中を響き渡り、ずっと聞いていたいほどです。


 鳥の鳴き声には「聞きなし」といって言葉を当てはめるものがあります。ウグイスの「ホーホケキョ」が一番代表的です。キビタキは

「オーシツクツク」というのが一般的ですが、しかし主人にはこう聴こえるそうです


「撮ってみー 撮ってみー撮れるもんなら 撮ってみー」


 美しい姿なのにほとんど明るい場所には出てこない、野鳥撮影を楽しむ者にとって撮りたいのに上手く撮れない鳥、その代表格です。


「ほらあそこ、大きな木の手前の枝」

「どこどこ、あ! 分かった」


眼鏡がないと生活できない私にとって、キビタキを見つけるのは至難の業、ほとんど主人頼みです。今年別の公園でアイドル君キビタキに会えて、やっときれいな写真が撮れました。二年越し、去年は道路の真横でたまたま見つけたのですが、それも張り出した木の枝で、逆光で真っ暗でした。

「せっかくきれいなのに、もっと外に出てきてよ」

と言いながら思ったのです。


「暗い所の黒は目立たない、でもその中の黄色とオレンジを真横で見るメスにとっては、本当に美しく感じるだろうな、私たちでさえそうなのだから」


だとしたら、それは保護色であり、メスを引き付けるための色でもありということになります。

「キジも田んぼの真ん中にいればわかりますけれど、藪の中に入ったら全く分かりませんものね」

他のバードウオッチヤーの意見です。南の国の色鮮やかな鳥たち、それは目立つようですが、それと同じくらいにきれいな花々も存在しますし、ジャングルはうっそうとしています。


「生きるための究極の美しさ」


鳥だけではない、自然の動物はすべてそうなのでしょう。


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