第6話 赤い流れ星

「こんにちは……ってあれ、あやちゃん先輩だけですか?」

「あぁスイ。そうよ。二年生は校外学習、リンはおじい様が亡くなったから公欠よ」

「そうなんですね……因みに死因とかって……」

「老衰らしいわよ」

 テレビで有名人の訃報を聞く時、ガンとかじゃない限り大体老衰って言うよね

「でも老衰ってさ、何かしらの病気の総称な気がするのよね」

「例えば?」

「んー……不治の病、とか?」

 それはそれとして、二人だけでも仕事は結構ある。部費の使用報告書まとめたりとかね

「遊びに来たでー」

 そんな時、一年生の現代文担当で学年主任な生徒会顧問の雲平うんぺいさくら先生が遊びに来た。この人がそう言う時は本当に遊びに来ただけなんだよね

「なんか盛り上がってたけど、なんの話?」

「老衰って何だろうねって話よ」

「あー、老衰ね。1個だけ確実に言える症例があるんよ」

「本当ですか?」

「いわゆる肺炎ってやつや。若い人は熱や咳、痰とかで悪い菌を追い出そうとすんねんけど、高齢者は熱出えへんし咳も痰も出ぇへん。出す元気がないねん。発見が遅れてまう訳やな」

「なるほど」

「しかも進行が早いのも高齢者の肺炎の特徴や。抵抗力が弱いんやな。肺炎ってわかった時にはだいたい手遅れになることが多いねん。喉に管通して痰の吸引ってのも体力消耗するし。これが肺炎による老衰」

「そうなのね……知らなかったわ」

「口数が少なかったり、普段と比べて元気がなさそうやったり……あとはせや、口が臭かったりしたら呼吸器内科を受診してみるのも手やな。こまめに受診するのが早期発見に繋がるんやで」

 何故そこまで詳しく語れるのかというと、雲平先生自身が元々は呼吸器内科の医師だったから。本人曰く紆余曲折を経て現在に至るとのこと

「95歳で亡くなったと聞いてるで。大往生やな」

「ま、リンにとっちゃ言い方悪いけど遅かれ早かれこうなる運命だったってわけ」

 運命、か。この生徒会に所属してからよく聞く単語だ。せっかくだし聞いてみようかな

「お二人は運命って信じますか……?」

「信じるもクソも、私は選択の結果が運命だと捉えてるわよ」

「せやなー。偶然の終着地点が運命ってやつやねやろなぁ」

 二人とも似た感じか。偶然こそ運命、と

「そう思たら、あやちゃんとすいっちが同じ学校で同じ生徒会に所属したのもすごい運命なんやね。さっきも言うたけど偶然の執着地点やから」

「あー確かに。すっごい偶然よね」

「それってどういう……」

「私ら──今期の生徒会役員と桜先生は、10年前の夏の日、一度出会ってるのよ」

「……へ?」

「こっからはウチが解説するでー!」

────────

 10年前の8月13日、とある女児アニメのリアルイベントで、1泊2日のキャンプ大会があったんよ。すいっち、りんりん、つばちん、あやちゃん、ききょりん、そしてウチもそれに参加しててん

 で、キャンプファイヤー楽しんだ後の自由時間……ウチとあやちゃんの間では「赤い流れ星事件」って呼んでる事件が起こったんよ


 雲ひとつない夜空に綺麗な流星群が流れてん。時期的にペルセウス座流星群やろな。で、その中のひとつの星が急に軌道を変えよった

 青白く美しい星々の中で、やたら目立つ赤い星。それが1人の女の子に直撃した。残念やけどそれを目撃したのはウチを入れてたったの5人だけ。女の子は流れ星が直撃したにも関わらず、最年長のウチが駆け寄ってもかすり傷ひとつ付いてへんかった

 あやちゃんも駆け寄って、2人でその子の無事を確認したとき奇妙なことが起こった。その場に居合わせた、つまり赤い流れ星に直撃した女の子と、その光を浴びた5人以外の人全員が同時に食中毒の症状を訴えたんよ。おかしい話やろ?その日は皆で同じ食材で作ったカレーをみんな一緒に食べたんやで?昼ごはんもおやつもイベントの運営さんが用意したやつしか食うてへんのにな。


 赤い流れ星が直撃した女の子の名前は八ツ橋睡蓮。そう、すいっちが他人に不幸を与える特異体質になったのはこの事件がきっかけやねん。そして赤い光を浴びてしもたウチらはその体質から除外され、すいっちの瞳は赤く染まったというわけやな

 奇妙な事件はそこで終わらへん。不明瞭な点がいくつかあるんよ。そもそも何故すいっちは誰もいない広い丘にポツンとうずくまっていたのか。そこになぜウチら5人は居合わせたのか。何故ウチら二人しかこの事件を覚えていないのか。そして何より──


 赤い流れ星事件の当事者のうち5人が、なぜ一様にこの百合乃音学園に進学し、生徒会役員に選出されたのか。ウチも何の因果かここに務めとる


 ちょいと都市伝説っぽくなってもーたけど、事実やで。その証拠にウチら5人には不幸が来ないしそれ以外の人には不幸なことがめっちゃ起こる。まぁ直ぐには信じられへんやろうけど


 はい、ウチからのお話はこれでお終いやで

────────

「ちょっと待ってください、今、椿達には私の体質による被害はないって言いましたよね?」

「せやな」

「じゃあ椿のお父さんは!?」

「私も不思議に思ってたのよ。だからコネをフル活用して調べたんだけど、結局あの男がただのクズだっただけよ」

 仕事は大手の工場勤務で、年功序列のおかげでそこそこの地位にいる。それ故に部下をモノみたいにこき扱って……いわゆるパワハラ上司ってやつ。若い女性社員には毎日のようにセクハラ三昧。それでも仕事はしっかりこなしていて技術も高いので会社としてはクビにしたくても出来ない状況。休みの日は酒とタバコとパチンコに明け暮れ、仕事やパチンコから帰ると椿に暴力を振るう。離婚した理由はお察しだけど、私の体質が原因じゃないことを踏まえると椿の親権を譲らなかった理由がいまいちわからない

「ああ、それについても答えが出てるわよ」

「あやちゃん先輩のコネって一体……それで、どんな感じなんですか?」

「妻は椿を出産してすぐ死亡、お転婆ですぐ怪我をする娘を男手ひとつで育て上げた……ことにしていい人アピールしてるのよ。そうして家に遊びに来た部下や上司から信頼と株を得ているの」

 どこまで腐りきってんの、あのおっさん

「……すいっち、この話を聞いて君はどうしたい?」

「そんなの決まってるじゃないですか」

「す、スイ?」

「あの男に不幸を与えます」

「──ええやん。ウチに任しとき」

 さぁ、この体質を利用した成敗の始まりだ!……なんてね

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生徒会に咲く百合の華 凪紗わお @tukasa5394

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