幕間

 “おみやげの鏡、ありがとう! すっごく嬉しい!”


 その日の昼休みに、改めてお礼のメールを打った。次に会ったときにも、もう一度お礼を言った。

 実際におみやげを渡したときよりも喜んでいる私に、彼氏は困惑していた。


「え……と……、大丈夫だった? 鏡、苦手って言ってたと思ったけど」

「こういう鏡が欲しかったの!」


 そう――ずっと探していた。彼らと話すことのできる鏡を。

 ずっと探していて、だからこそ、話せない鏡を見るのが辛かった。


 だけど、もう大丈夫。家の鏡につけていた布も、もう必要ない。

 邪魔になっただけのそれらはすぐに外し、ついでに鏡の掃除もした。


「――そもそも、何故そんなものをつけていたのですか」

「だよなぁ? おかげで様子を見るのに苦労したんだぞ」


 彼らの非難はもっともだが、私だって好きでつけていたわけではない。


「仕方ないじゃない。鏡があるのに話せないのが嫌だったんだから……」


 言いながら、過去形で話せることに感謝した。

 鏡が小さくなって持ち運べるようになった以外は、以前のまま。

 いや――もう一つだけ、変わったことがある。

 それは彼らの顔を私が知っているということ。

 夢で見た三人を描いて見せたら、やっぱりまともに褒めてはくれなかったけど。


「……相変わらず、絵は下手だな」

「でも、特徴はとらえています」

「そうだな。特にジルの口の形はそっくりだな」


 それは昔も言われたよ。

 笑いながら返したら、「やっぱり成長してないんだな」とジルが言った。


「そういえば夢でもそんなこと言って、三人だけで話進めてたけど、なんだったの?」

 思い出して訊くと、「たいしたことじゃない」と返ってきた。


「和花が変わっていたら戻らないって話になっていただけだ」


 あっさりと言われた内容に絶句した。

「たいしたことじゃん……」


「そうですか? 見ていて変わっていないと思っていたので、一応確認しただけなんですが」

「布かけられてたんで、見るの大変だったけどなー」


 楽しそうな笑い声が頭の上を通り過ぎる。

 瞬きすらできなかった。手に持っていた彼らの似顔絵が、くしゃりと音を立てた。

 ――危なかった。回答をもし間違えていたら、彼らとは二度と話せなくなっていたのか。


「どうしましたか?」

「いや……成長してなくてよかった、と思って」


 曲げてしまった紙を伸ばしながら答えたら、「成長はしてください」と突っ込まれた。

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