Evening primrose-ツキミソウ
生暖かい夜風が頰を撫で、纏わりつく熱から逃げるように足早に歩いていると、今日も、いた。
近所にある大きいとも言えない一軒家。その庭に1つの犬小屋があり、一匹の薄汚れた白の犬がいる。
瘦せ細ったその姿は飼い主に放置されている事を明らかに物語っていた。だが、ここ最近犬の減量はおさまった。代わりに、夜、男が餌を与えている姿を見かけるようになった。
一日過ごした少しシワの付いた白シャツに黒パンツとシンプルな格好がよく似合う大学生くらいの男。男は飼い主にバレない為にか、無言で餌を与えている。だがその目はいつも優し気に緩んでおり、去り際には犬の頭を撫でてやって、帰るのだ。
今日も白シャツに黒パンツと熱を感じさせない涼し気な格好で、犬に餌をあげていた。犬は飼い主に証拠を残すまいと綺麗に食べる。男の方はいつもの優し気な、だが他に何もしてやれない悔しさや悲しみの混じった表情で犬を眺めている。
私はその光景を目の端で捉えながら帰路を急ぐ。犬にトラウマがある私には頭を撫でてやる事すらも出来ないが、どうかあの犬が、青年からの無言の愛をたくさん受け、長く生きてくれたらなと、心の中で願う。
花言葉〜mute devotion〜無言の愛情
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