現れた美少女!!

 ガイチューンにより校舎が破壊され、常夏により悪臭が残留している倉倉高校。もう、何度目の休校になったのだろう。

 学校には生徒も先生も、誰もいない。

「……誰もいないじゃないの!ラフレシアンはどこよ!キーッ!!」

 真っ白な全身タイツを着て、目と思しき箇所がやたらとデカいシロアリスは、マフラーを靡かせて地団駄を踏んでいた。

 風呂場に籠もっているガイチューンの八つ当たりにも似た怒りの矛先を回避するべく、倉倉高校にラフレシアン討伐に来たシロアリスだが、手ぶらで帰ったら、それこそ怒られるかもしれない。

「仕方ない、せめて残った校舎を灰燼に帰すのよ!我が下僕達!」

 マフラーをバッと靡かせると、それを号令としたのか、凄まじい数のシロアリが校舎に向かった!!

「ホーッホッホ!!塵にしてあげなさい!!」

 手の甲を頬に当て、高笑いするシロアリス。

 その時、校門から校舎に向かってくる、一つの人影が目に入った!!

 その人影は女。キリッとした美しい顔立ちに、後ろに結っている髪の束が歩く度にピョコピョコと揺れる。

 制服は倉倉高校の物のようだが、新しい。

「何アナタ?この学園の生徒?」

 前に出て歩みを制すシロアリス。それを一瞥する美少女。

「今日、転校して来たんだけど~…どうやら休校のようだし~…出直すしか無いけど~……」

 美少女は倉倉高校の転校生のようだ。

 ともあれ、美少女はポケットから携帯を出す。

「タクシーでも呼んで帰るのかしら?」

 呑気な質問だが、シロアリスは身構えていた。

 この美少女から、何かプレッシャーを感じたのだ。

「一応名乗っておくね~…私は御酒原きょうらぎ つくし~…アンタ等カンキョハカーイの敵、ラフレシアンなんだ~」

「!ラフレシアン!やはりそのプレッシャーはラフレシアンの物なのっ!?」

 つくしはニタ~っと笑い、変身携帯を掲げた!!

「チェンジ!!ラフレシアン!!」

「きゃあ!!」

 あまりの眩しさに両手を翳して顔を背けた。

 しかし眩しさは一瞬。徐々に光が晴れると、そこには、薄い茶色のデカい花を頭部に咲かせ、同色の魔法少女みたいな物を着たつくしの姿!!

 カッ!と右足を前に出すつくし。

 蹴られると、多大なダメージを負いそうなプロテクターが足の甲を覆っているブーツを履いている。

「春の息吹を一番に感じ、天に向かって伸びる土筆つくし!!野原に可愛い頭一つ!!だけど!!散歩中の犬にオシッコ掛けられ摘めずに不快……ラフレシアン ホーステール!!」

 ビッとシロアリスに指差すつくし!!

「カンキョハカーイは殲滅しなきゃね~……」

 その顔はニンマリと笑う。

 まるで、壊してもいいと言われたオモチャを与えられたように!!

「私を倒すと言うの?やってみなさい!ラフレシアン ホーステール!」

 マフラーをバッと手で跳ね上げると、校舎中に散らばっていたシロアリが、つくしに群がり、襲いかかった!!

「シロアリ駆除かぁ~…面倒だなぁ~……」

 そう言うと、群がるシロアリを無視して、シロアリスに殴り掛かった。

「くっ!?」

 いきなりだったが、そこは幹部。腕でガードして凌いだ。

 しかし、シロアリスの驚愕が増した。あのパンチ、スピードは勿論の事だが、破壊力が凄い。

 腕が持って行かれるかと思った程のパワー

「ふっっ!」

 そんなシロアリスの驚きなど構わずに、振り抜く。

「!!?」

 シロアリスの身体がふっ飛んだ。こっちは両腕を重ねて押し負けぬ様体重を掛けているにも拘らず、腕一本に飛ばされたのだ。

 そして身体がぶっ飛ばされた事によって間合いが広がった。若干安堵するも、つくしは駆けてその間合いを一瞬で詰めた。

「は、速……」

「ああああああああああああああああああああああああ!!」

 左ストレートがもろに顔面に入った。

「ぎゃああああああああああああああああああああああ!!」

 思わず顔を押さえた。その顔面に追い打ちとばかりに拳を乱打した。

「ぐっ!!ぎゃっ!!ぎゃっ!!いたっ!!ぎゃーっ!!!」

 ガコッと、重い一撃が顎にヒット。

 身体ごと跳ね上がり、宙を舞い、地面に激突した。

「はあ~……ちょっとは硬かったかな~……」

 腕をぐるぐる回して調子を確かめるつくし。シロアリスは生まれたての小鹿のように、ガクガクしながら立ち上がった。

「ぐっ……なんて喧嘩慣れしているの……」

「私は可愛いからね~……小さい頃から変質者に付きまとわれたり困ってたんだよね~……だから、護身用に空手なんか習った訳~……この前、ナンパ男をボッコボコにしたらぁ~……やり過ぎて病院送りにしちゃって~……学校クビになっちゃったんだぁ~…………」

 やはりニンマリ笑うつくし。

 目の前、にいくら殴っても誰からも文句を言われない、寧ろ感謝される敵がいるからだ。

 その笑顔に狂気を感じ、ガクガクが酷くなる。

「やれやれ、ホーステール、あまり派手に暴れるなよ?」

 つくしの影から、ぬるぬるした黒いトカゲらしき物が現れ、溜め息を付く。

主零武すれいぶ、アンタには感謝してる~……叩いても蹴っても、壊しても文句言われない敵を用意してくれてさ~……」

「な、何!?トカゲ?」

 相変わらずガクガクはしているが、疑問を呈する事は出来るのだ!!

「トカゲじゃねーよ。あれは爬虫類だろ。俺は両生類。山椒魚だよ」

 よく間違えられるのか、うんざりしながら返す主零武。

「どうするホーステール?とどめにトランスフォームするか?」

 つくしはゆっくり首を横に振った。

「一気に壊したら勿体無いから~……殴って、殴って、殴って、殴ってぇ~……ジワジワと壊すよ~……」

 愉悦の表情だった。それを見たシロアリスは確信した。

 こいつは正義のヒロインじゃない。暴力こそが生き甲斐の、バイオレンス美少女だ!!と。

 そもそもラフレシアン全員に共通する事だが、正義の信念で戦っている者は殆どいないのだが。

「さぁて~っと、続き続きぃ~……」

 ニンマリ笑いながらシロアリスにゆっくりと近付いて行くつくし。

「く、くそっ!!」

 シロアリスは半ばやけくそでつくしに殴り掛かった。

「なに~?そのパンチ~?」

 笑いながら避けるつくし。そのままカウンターで鳩尾にパンチを当てた。

「ぐほおおおおおお!!」

 膝を付くシロアリス。しかし、それを許さんと左手で頭を掴み、右手を直角に曲げ、顔面にパンチを当てる。

「ぎゃあああああああああああああああ!!!」

 シロアリスの白いタイツが鮮血(鼻血)で赤く染まる。

「まだまだまだ~……ふっふっふっ……あーっはっはっはっはっ!!!」

 つくしは何度も何度も顔面にパンチを浴びせた。

「ぎゃああああああああああああああああ!!ぎゃっ!!ぐふっ!!も、もう……………」

「もう~……なにぃ~……?」

 笑いながらシロアリスに顔を近づけるつくし。

「もう……勘弁して下さい……」

 つくしはニンマリ笑いながら返す。

「イヤだよ~……ふっっっ」

 再びシロアリスの顔面から、打撃音が聞こえた。


風華は一人、休校になった校舎に向かっていた。

「全く、毎度毎度休校になったら、勉強が遅れるじゃない」

 図書館で自習しようと言うのだ。流石は優等生、日頃からちゃんとしているのだ!!

「クレイジー・スメルの残留臭気があるんじゃないか?」

 皇龍王が心配して発する。

「屋外で発生したから、かなり飛散した筈よ」

 壊れた校舎に用事は無いし、そこで発生したクレイジー・スメルの影響も図書館には皆無と判断した風華。

 鞄に参考書と、その数倍の重さはあるお菓子を持ってイソイソと校門に入る。

「ん?あれは何?」

 風華が目を向けた先に、真っ白いタイツが所々 何かの汚れでグシャグシャになっている、おかしな女と、頭部に花を咲かせた美少女が居た。

「ラフレシアンとカンキョハカーイ?誰だあのラフレシアンは?」

 皇龍王も知らない様子。

 まあ兎も角、二人はラフレシアンとカンキョハカーイの側までソロソロと覗き見をしに行った。

「うわ……えげつな……」

 薄いブラウンのラフレシアンは、敵である白タイツの女を、既に戦意喪失しているにも関わらず、執拗に殴っていた。

「あれは主零武?ラフレシアンを見つけていたのか?」

 主零武を発見した皇龍王。

 従者達は、それぞれのラフレシアンを捜す為に、各地にバラバラに存在している。

 マムシの雷太夫などは幌幌街に居た筈だ。

「止めなくていいのかしら……」

 最早弱い者イジメにしか見えない薄いブラウンのラフレシアンの攻撃に嫌悪感を抱く。

 風紀委員副会長として、正義の魂が、こう、なんと言うか、モヤモヤするのだ!!

「じゃ、変身して乱入するか?やっつける振りして、あのラフレシアンを諭すとか?」

 成程、それもいい手かも知れない。どうせラフレシアンならば、いずれ接触しなければならない。

 風華は変身携帯を掲げる。

「チェンジ!!ラフレシアン!!」

 風華に眩い光が纏わり付く。

「ん~っ……?」

 光に気が付いたつくしは、それを凝視する。

「あなた……何ぃ~……?」

 急に覚めたような瞳をシロアリスから外して風華に向ける。ボロボロにした敵よりも、ピチピチの敵の方に興味があるからだ!!

「私は……寒空に吹雪く雪の嵐!!冷たく厳しく気が引き締まる!!だけど!!冷たさ通り越して痛くなるのが不快い!!ラフレシアン コールドウェイブ!!」

「ラフレシアンかぁ~……私の他にも居るのは聞いていたけど~……」

 困った。味方なら殴れないんじゃないか。いや、いいのか別に?いやいや、流石に駄目だろそれは。そんな考えが頭をぐるぐる回る。

「そんな事より、そいつはカンキョハカーイなの?」

 ボッコボッコになったシロアリスを指差す風華。

「そ~だよ~……私達の敵ぃ~……ねっ?」

 つくしは冷酷な笑みを浮かべ、冷たい瞳を風華に向けた。

 風華の背中に悪寒が走った!!

 この子、相当危ない……

 風華はかなり警戒しながらも、つくしに徐々に近付いて行った。

「そんなに警戒しなくても~……傷付くなぁ~……」

 逆につくしはシロアリスから離れて風華に近寄って行く。

「あっ!」

「ん~……?」

 風華が上げた声に反応して振り向いたつくし。

 シロアリスがかなりのダメージを負いながら立ち上がったのだ。自分から気がそれた一瞬の隙を付いて!!

「ホーステール……!!この屈辱、貴様の首を以て必ず晴らしてやる!!」

 憎悪を以てつくしを睨み付けるシロアリス。

「ああ~、帰るのね~……ちゃんと傷治しなさいね~……また……また私に殴られる為にね~……」

 対するつくしは嘲笑うような表情をシロアリスに向けた。

「うっさい!!死ねブス!!キーッ!!」

 シロアリスは瀕死の重傷を負いながらも地団駄を踏んで消えた。小学生のような負け惜しみまで言いながら。

「ちょっと!いいの?」

 一応止めようか考えていたのだが、此の儘逃がすのもちょっと違うような気がして発した。

「あ~、別にぃ~……また現れたらボコるからぁ~……」

 つくしは気にしていない様子。と言うか本心を述べただけなのだろう。

「それより~……何か用があったんじゃないの~……?」

 ニャッとするつくし。ゾクっとしながら風華が話す。

「あなたもラフレシアンなら、カンキョハカーイを倒す為に戦っているのよね?」

「カンキョハカーイ~?……ああ~そうだよ~……ほらぁ、私達は正義のヒロインだからぁ~……悪の組織は潰さなきゃぁねぇ~……」

 何かを思い浮かべる様に、愉悦した表情で笑いながら述べた。

 風華は理解した。この子はただ殴るのが楽しいだけだと。カンキョハカーイと戦うのは、大義名分を得たに過ぎないだけなのだと!!

 いや、ラフレシアンにはそんな奴結構いるのだが、そこはまあまあ。風華はそのような奴は知らないのだし。

 お金の為に戦っている女や、死ぬ為に戦っている女や、壊す為に戦っている女や、正義の為に迷惑をかけている女や、ただ何となく流されて渡り歩いている女や、日頃のストレス解消に為に戦っている女の事など知る由も無いのだから。

「私達もカンキョハカーイと戦うヒロインだけど、あなたように笑いながら殴ったりしない」

 つくしは舌打ちをし、風華から目を逸らす。

「説教は面倒だからぁ~……聞かなぁい~」

 ペッと地面に唾まで吐いたつくし。流石にカッとなる風華。

「あなたねぇ!!その態度はいただけないわっ!!」

「あ~あ、要するにぃ~……私が気に入らない訳ねぇ~……別にいいよ~……気に入らないなら腕ずくで来て貰っても~……」

 再びニタァと笑うつくし。その瞳は、真っ直ぐに風華を向いていた!!

「やめろホーステール」

 主零武がノターッとつくしの前に現れる。

「お前もだコールドウェイブ」

 皇龍王も襟巻きを広げながら風華の前に立った。

「アハハハハ~……冗談よ冗談~……仲間同士なのに戦う訳無いでしょ~……?」

 風華に背を向けるようにクルンと回るつくし。微かに肩が震えていた。

 やる気だったんだ、この子は……

 そう思いながらもホッとした風華。仲間同士で戦う事は、やはり良い事ではない。

 そうでなくとも、ガイチューン将軍の脅威の力には、より強力な仲間が必要だ。

 それに、各々のパワーアップも。

 風華はかねてから考えていた事を実行しようと決めた。

「ねぇ。私達はパワーアップの為に合宿しようと思っていたの。良かったらあなたも参加してくれない?」

「合宿~……?いいよ~暇だからぁ~……」

 意外にも了承をしたつくしに驚く。

「じ、じゃあ詳しい日程が決まったら、連絡するから……」

 つくしはニタァと笑いながら、自分の携帯を出した。

 風華は何とも言えない不安を感じながらも、連絡先を交換した……

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