切り札!!エブリシングサマー!!

「ラフレシアン エブリシングサマー……貴様を葬れば倉倉町は我等の物!!」

 圧倒的な闘気を放ち、ガイチューンが常夏に近付いてくる。

 しかし常夏は、相変わらずほぇ~っとガイチューンを見ながら、呑気な質問を発した。

「オジサン、オジサン、何食べたらそんなに大きくなるの?」

 それに笑みを咬み殺した表情で答えるガイチューン。

「何を食ったら、か……それは敗者の骸を食ったからだ!!」

 渾身の右パンチを繰り出すガイチューン。

「うひょっっ!?」

 常夏は近くにいた翡翠を引っ張って自分の前に出し、盾にした。

「な、何何何何何何へぷふぁっ!?」

 翡翠はガイチューンの右パンチをモロに喰らって吹っ飛んだ!!

 流石に呆けたガイチューン!!パンチを放った儘のポーズで固まった。

「あ~あ……女の子を殴るなんて、サイテーなオジサン!」

 プンスカ怒る常夏。それに我に返るガイチューン!!

「貴様が盾にしたんだろうが!!」

「エ…エブリシングサマー………こ、殺す………絶対に殺す………」

 壁に張り付いた翡翠。顔面が崩壊しながらの恨み節であった。いや、恨むじゃなく怨むだった。

「近くの敗者を盾にしただけだよっ!!逆ギレはカッコ悪いよオジサン!!と、名前何だっけ?」

 翡翠に名前を尋ねる常夏!!翡翠は、殴られた顔より心が痛んだ!!いや、荒んだ!!

「シスター・ドリアンよっっっっ!!アンタ本当に不快だわっっっ!!」


 ボッ!!


 常夏の頭部のデカい花が大きくなる!!

「逆ギレではないわ!!貴様それでもヒロインかあああ!!」


 ボボッ!!


 更に大きくなる頭部のデカい花。ムァン…と微かに臭気もアップした!!

「まぁ、何でもいーや、ナメクジさぁん!!」

 大声で亜羅漢を呼ぶ常夏。自分が原因なのに、このどうでも良さには驚嘆すら覚える。

「エブリシングサマー!そいつはカンキョハカーイ四天王のガイチューン将軍だ!!半端な攻撃では歯が立たないぞ!!」

「じゃ、思いっ切りぶっ飛ばしちゃお!!」

 常夏は変身携帯のボタン01と押した。亜羅漢がスクーターにトランスフォームする。

「行くよおっきいオジサン!!」

 早速跨り、アクセルを思いっ切り吹かした。

 そして超スピードでガイチューンに突っ込んで行く!!

「漸く戦う気になったか!!」

 両腕を広げたガイチューン。攻撃を受けるつもりのようだ。

 スクーターで突っ込んで行くが、途中、スクーターが横滑りをさせた。

「ハッハッハ!!未熟な腕で乗り回すからだ!!」

 高笑いするガイチューンだが、常夏の目には焦りは無い。逆にぎらっと瞳が輝いた。

「雨の日にぃ!!」

「ん?」

「カーブ曲がったらマンホールにタイヤが乗っかり滑ったアターック!!!」

 常夏は超低空でスクーターを滑らせて、ガイチューンの脛を強打したのだ!!

運転の未熟から滑った訳ではなかった。これは技に繋げる第一歩だったのだ!!

「ぐあああああああああああああ!?」

 あまりの痛さにピョンピョン跳ねるガイチューン!!俗に言う弁慶の泣き所にモロに喰らったのだ。頑丈自慢の武人だろうが、この通り、ピョンピョン跳ねる事になるのだ!!

 そして、滑らせたまま、ガイチューンの背後に周り、軽く飛び、ガイチューンの背中に乗った。

「思いっ切り吹かしたらホイールがスピンしたファイヤー!!」

 ガイチューンの背中でホイールスピンする常夏!!

「あっちゃっちゃっちゃああああ!!」

 ガイチューンは背中が擦れて火傷を負った!!摩擦熱でもダメージは与えられるのだ。頑丈自慢の武人であれ!!

 そしてバウンとガイチューンの背中をジャンプ台にして、高らかに舞う。

「おのれエブリシングサマー!!ふざけた攻撃をしおって!!」

 飛んだ常夏を待ち構え、カウンターを当てようと身構えるガイチューン。

 ………

「まだか!!」

 …………

「まだ落ちて来ないのか!?」

 ……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………

「随分長い滞空時間だな!?」

 焦れてイライラしてきたガイチューン。見上げていたばかりに首が痛くなってきた!!


 ロロロロロロ……


 漸くエンジン音が聞こえてきた。

「待ちくたびれたぞエブリシングサマー!!」


ロロロロロロ………


「ん?まだ姿は見えんが……」


 だがエンジン音は徐々に大きくなっている。しかし、カウンターに備えて構えを崩さないガイチューン。


 ブロロロロロ!!!


「後ろから?いつの間に!?」

 慌てて振り返ったガイチューン!!

「ラフレシアーン!!轢き逃げアターックぅぅぅ!!!」

 ゴイィィンと、ガイチューンの顔面にぶっ喰らわした常夏!!虚を付いた攻撃に、ガイチューンは、成す術無くぶっ倒れた!!

「やった!!」

 藤子はヘロヘロな状態で立ち上がり、笑った。

「あのタフな男がそう簡単に倒される訳はないわ……」

 風華が残心を以て倒れたガイチューンを見て呟いた。

「た、確かに……私達の技をまともに喰らってもビクともしなかった……反撃は充分考えられる……」

 美鈴も万が一の時に備えて立ち上がる。

「コラァ馬鹿女ぁ!!そいつを倒したら私と決着を付けるわよっ!!」

 先程から散々な目に遭っていた翡翠だけは、いきり立っている。顔面崩壊は免れたようで、今は鼻血くらいしか流していなかった。流石は若王子の姫である。

「おっきいオジサン死んじゃったかな?」

 常夏はぶっ倒れたガイチューンに確認する為に近寄った。

 そのガイチューンは顔面が大変な事になり、ピクリとも動かない。

「勝っちゃった!!わーいわーい!!」

 勝利を確信した常夏は飛び跳ねて喜びを表した。

「……エブリシングサマーっっつ!?」

 風華の声と同時に、ガイチューンが起き上がった!!

「うわわわっ」

 驚いて飛び跳ねて間合いを取った常夏。

「フッフッフ……なかなかやる、か……では此方の番だな」

 顔面ボロボロのガイチューンだが、ダメージはそんなに無かったのだ!!

「ふんんんっっっ!!」

 ガイチューンは右ミドルキックを放った。結構遠くに跳んで逃げた筈なのに、その間合いはいつの間にか蹴りの間合いになっていた!!

「うわわわわわっ!?」

 それを両腕でガードする常夏。

「え?うわわわわあああああ~っっっ!?」

 ガードごと派手にふっ飛ばされた!!

「そ、そんな……さっきまでは、ただ腕力で薙ぎ払っていただけなのに……」

 藤子が驚愕するのも無理は無い。そのキックは訓練された達人のものだったからだ。

「俺をただの力だけだと思うなよ!!腕力だけではカンキョハカーイの上位に着けぬ!!」

 オーラ全開で常夏に詰め寄るガイチューン。

「やるねオジサン。じゃ、これはどう?」

 瞬時に立ち上がり、高速で駆けた。

 そして翡翠の背後に回り込む。

「何?何何何何?まさかっっっ!?」

 常夏は翡翠の背中を蹴り飛ばした。

「うわわわわわわぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!?」

 翡翠はガイチューンに向かって飛んで行く!!

「ラフレシアン!!敗者ミサイルぅぅ!!」

 常夏は翡翠を武器代わりに使用したのだ!!

 理由は仲間ではない、敗者だからである!!

「貴様!また……」

 武人であるガイチューンは、味方を盾にする卑怯な真似は許せない。

 あんまりムカついて、飛んで来た翡翠の頭を掴み!!

「ふんぬううううん!!」

 と、常夏に投げ返した!!

「きゃあああああああああああああああ!!!」

 涙と鼻水を流しながら常夏に突っ込んで行く翡翠!!

「うわ、ばっちい」

 身を翻して、易々と翡翠ミサイル(カウンター)を躱した。

 当然だが、翡翠は地面に頭を強打して倒れた。と言うか、地面に頭がめり込んだ。

「エブリシングサマーよ!!貴様の阿漕あこぎな真似は、もう飽きたわ!!貴様、本当に不愉快極まる女だな!!」

 ガイチューンが常夏に不快感を剥き出しだ。


 ボボボボボボボボボボ!!!


 頭部の花から臭気が溢れ出る!!

「え……エブリシングサマー……ほ、本気で死なす!!」

 最早不愉快を通り越した翡翠!! 地面に埋まりながらも殺意が押さえきれない!!

「みんなの不快を一つに集め――――!!」

 いきなり常夏は『あの台詞』を詠唱し出した。

「何事だいきなり!!」

 だが、憤慨しているガイチューンは構わずにパンチをぶち込もうと、拳を振りかざした。

「むおおっっっ!?こ、この臭いは一体!!」

 振りかざした拳を引っ込めて、その手で鼻を覆った。

「敵を滅ぼす一つの臭気に!!」

「ああ!!確かに敵だ!!私のなっ!!え、これって………!!」

 翡翠も怒りを忘れて鼻を覆う。

「行けぇエブリシングサマー!!巨大な悪を倒すのよぉぉぉ!!!!」

 風華の叫びに呼応するように常夏も叫んだ。

「クレイジー!!スメルぅぅ!!!」

 常夏の頭部のでかい花が金色に輝く!!

 その黄金色から立ち上った虹色の光。それに溶け込むように、この世の物とは思えない、あらゆる想いが詰まった匂いが放射された!!

「くわあああああああああああああああああああああああ!!!」

 悶絶するガイチューンだが、ガイチューンは耐性能力に特化した敵だ。

「ぁぁぁぁぁぁああああ!!慣れたああああああああ!!!」

 当然の事のように、クレイジー・スメルすら慣れるのだ!!

「おのれ小娘!!全く以て不快な奴よ!!」

 慣れたガイチューンは再び常夏に不快感を露わにする。


 ボボボボボボボボボボボボ!!!!!


 常夏の花は、ガイチューンの不快感を吸い取り、その臭気をパワーアップさせた!!

「な!?臭気がパワーアップしだだと!?」

 驚愕するガイチューンだが、流石と言おう。クレイジー・スメルが支配しているこの場において、気を失わずに立っているのだから。現に翡翠は口から泡を吹いて気絶している。

「うっ……私達もヤバい……早くこの場から避難しなければ………」

 藤子達は従者達を抱き上げ、身体を引き摺るように避難した。

「な!?仲間まで逃げ出しただと!!」

 今まで嗅いだ事の無い臭気。仲間まで逃げ出す悪臭に、ガイチューンは本能で怯えた。

 この臭いで人は発狂死するのではないか!?

 その不安を振り払うように、ガイチューンは叫んだ。

「エブリシングサマー!!貴様如きでは俺は倒せんぞ!!この不快な小娘が!!!」


 ボボボボボボボボボボボボボボボボボボ!!!!!!!!


 再び臭気の威力が増す。

「うをををををををををををををををををを!!!」

 涙で目を開けていられないガイチューン。臭気で視覚まで奪われるとは、完全に誤算だった。

「くっくっ……エブリシングサマー……貴様は絶対に許さん……覚えておれ!!」

 ガイチューンは生まれて初めて、自ら撤退を決意した。

 屈辱過ぎる程屈辱!!

 だが、今は退く事しか方法が思い浮かばなかった。


 ガイチューンが退いた後、飛ぶ鳥すら落ちる臭気のど真ん中、常夏がペタンと座り込んでいた。

「うわ~ん!!臭いいいい!!うわ~ん!!」

 自分で放出した臭気に泣き喚く常夏。

 何とかして貰おうと風華達を捜し、辺りを見回すも、誰もいない。翡翠だけが泡を吹いて気絶しているだけだ。

「シャワー浴びなきゃ~!!臭いなあ!もう!!」

 常夏は翡翠を担いでその場を立ち去った。

 まだ、かなりの臭気が残留している状況、翡翠を残すのは、かなり危険と判断したから。

 ではなく、この匂いの源が自分だと言いふらされるのを阻止する為だ。

「あーもう!ナメクジさんがバイクに化けてくれたら、簡単に運べるのにぃ!!」

 既に避難した亜羅漢に軽く憎悪を覚えながらも、常夏はシャワー室へと向かった。

 途中、翡翠を担ぐのに疲れたので、翡翠の脚を引っ張りながら進む事になったが。


 自軍の城へと逃げ帰ったガイチューンは、誰も側に寄せずに風呂場へと籠った。

 そして、ヘチマタワシでガシガシと身体を擦る。

「くっくっく……!!何だこの匂いは!!全く取れんではないか!!」

 苛立ちながらも身体を擦る。

 身体中、赤くなり、血が滲んできたが、それでも擦る事は止めない。

「ラフレシアン エブリシングサマー……!!この借りは命を以て償って貰う!!ああーっ!!クッセェ!!」

 既にボディソープを20本消費しているが、ガイチューンは21本目に手をつけた。

 だが、匂いが取れる気配は無い。

 コンコン

 風呂場の扉をノックする音に苛立ちながら、ガイチューンは返事をした。

「誰だ!!何用だ!!」

『し、シロアリスでございます。ガイチューン将軍、お帰りになってから、もう三時間はお風呂場に籠っていますが、どこか具合でも悪いのですか?』

「人の心配をするよりも、ラフレシアンを倒す事を考えんかタワケがあ!!!」

『は、はいいいいっっ!!』

 超逆ギレで叫ばれたが、シロアリスは逃げるように、場を立ち去る。

「ガイチューン将軍があれほどお怒りとは……次はこのシロアリスが出陣しなきゃならない……」

 下手にゴマを摺るより、行動した方が怒られないと感じたシロアリス。

 ラフレシアンとの対峙の為に、倉倉町へと向かった!!

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