エブリシングサマーVSシスター・ドリアン!!

 名乗った常夏に対し、翡翠達は一気に険しい表情になり、常夏から間合いを取り身構えた。

「あなたがラフレシアン!?」

「うん。そうだよ。面白い物見せてくれたお礼に私も見せるね」

 変身携帯を取り出し掲げる常夏。

「チェンジ!ラフレシアン!」

 オレンジ色の光が常夏を包んだ。それに超ビビった翡翠。慌てて近衛戦士を呼ぶ。

「ほ、本当にラフレシアン!!西瓜!南瓜!」

 ドリアンカードを取り出す翡翠。

「変身!!」

 ベルトのバックルにドリアンカードを装着!!

 金色の光が翡翠を包み込んだ。そしてごにゃごにゃと両者は、光の中で衣装チェンジをしていた!!

 オレンジの光と金色の光は、ほぼ同時に晴れた。

 ラフレシアン エブリシングサマーとシスター・ドリアンが対峙する形となり現れたのだ!!

「眩しく煌めく太陽!たぎる血潮に胸躍らせる!だけど!日射病で倒れる不安が不快っ!!美少女戦士!ラフレシアン エブリシングサマー!!」

「黄緑の果実は未成熟の証……シスター・ドリアン!!」

 ほぼ同時に名乗った常夏と翡翠!亜羅漢だけが真っ青な顔になっていた!!

「なぁああああ!!ななななな!何で正体を明かすんだよっっっ!?」

 亜羅漢はピョンピョン跳ねながら常夏の顔面にアタックする。これが亜羅漢の抗議の形だ!!

 それを常夏は鬱陶しそうに手で払った。

「うおっ!?」

 ピターンと地面に叩き落とされた。そんな亜羅漢を見下ろして言う。

「流れよ!」

「な、流れ?」

 キリッと凛々しくなりながら、常夏が続ける。

「ここで戦いが始まって、両者力は互角。そして互いの力を認めて、二人は仲間に……そうでしょ!流れ的に!」

 ゴーン!!となる亜羅漢!!

「そ、それを言っては身も蓋も無い……」

 王道テンプレートの事柄を述べられても困るのだ。果てしなく。

「アーッハッハッハッ!!このシスター・ドリアンと互角!?力を認め合い仲間!?アーッハッハッハッ!!」

 お腹を抱えて笑う翡翠。まさに抱腹絶倒!!

「有り得ないわ!!勝負は圧倒的になるから!!」

 そしてハイキックを常夏に繰り出した。

「ほいっ」

 結構鋭いハイキックを簡単に躱した。

「えっ?」

 驚く翡翠を余所に、ローキックをぶち込んだ。本気で。

「ぎゃああああああああ!!本気で痛いっ!!」

 痛みで思わず脛を押さえる為に屈んだ。そこに常夏の脚が見えた。

「お顔が留守だよ~っと」

 ミドルキック!!

「うぐ!?」

 咄嗟に腕でガードをするも……

「えええええ!?ぎゃああああああああああ!!!」

 そのまま派手にふっ飛んだ。エブリシングサマーのパワーに全く歯が立たなかった証拠だった。

「姫様!?」

「おのれラフレシアン!!」

 西瓜と南瓜が二人がかりで飛び掛かった。一応近衛戦士だ。主君を守る、主君の仇を取るのは当然だ。

「美少女のおおおおおお~……」

 そんな二人に対して、腰を下ろして脚に力を込た。

「悩殺ハイキック!!」

 回し蹴りを放った。上段回し蹴りだ!!

「「う!」」

 二人はハイキックに全く反応していなかった。

 何故なら、ミニスカートから覗く常夏のパンツに見入ってしまったのだから!!

「ぎゃああああああああああああああ!!!」

 結果、モロにハイキックを喰らった二人。そして吹っ飛んだ先には翡翠が居た。

 当然ながら、翡翠に激突する!!

「きゃああああああああああああああぐえっ!!」

 転落防止安全柵に激突した翡翠。命は助かった。三人とも。屋上に転落防止安全柵は必要だ。絶対に。

「確かに圧倒的に勝負決まっちゃうね~」

 全く敵意も悪気も無い常夏の笑顔が、翡翠に向けられた。

「ひ、姫様…やはり我々ではラフレシアンはぐえっ!」

 怯んで撤退を促した西瓜を踏みつける翡翠。

「私は……私は兄様に代わって、ドリアン王国を最強の王国にしなきゃいけないのよ!!」

 翡翠は歯を食いしばり、立ち上がる。

「光輝様は光輝様で一生懸命頑張ってぐおっ!」

 南瓜の顎に拳を叩きこんで黙らせる翡翠。

「敵国の戦士のお尻を追っかけている馬鹿に何ができると言うの!!」

 そんな御家騒動をポケーっとしながら見ている常夏。じゃれていないで降参するか死ぬかすればいいのに、とか思っていた。

「待たせたわね!!次は私の最強を出すわ!!覚悟しなさい!!」

 ポン!とカラフルなジョウロが翡翠の手に現れた。そして蔓が伸び、西瓜と南瓜に絡み付く。

「ひ、姫様!我々はまだ……」

「完全に回復は……ぎゃあああああああああああああ!!」

 蔓は容赦なく、西瓜と南瓜の養分を吸い尽くす!!

「あれは!?マズいぞエブリシングサマー!逃げよう!!」

 ピョンピョン跳ねる亜羅漢。シスター・ドリアン、と言うか、ドリアン王国の奥義を知っているようだ。

「うん。解った」

「え?」

「え?」


 常夏は亜羅漢と翡翠が拍子抜けする程、実にアッサリと逃げ出す事に同意した。

「ちょ……ちょっと待ちなさいよ!!アンタさっき流れがどうとか言っていたじゃない!!」

 慌てて引き止める翡翠。既にジョウロは黄金色に輝きを放っている。

「だってソレ、ヤバいんでしょ?」

「え?そりゃ奥義だし……って言うか、アンタも戦士でしょ!!真正面から受け止めなさいよ!!正々堂々とっっっ!!」

 ファールスメル・アタックは最早秒読みで発射される。今更引っ込める事は不可能なのだ!!

「あのね、ハッキリ言うね?」

 常夏はズイッと翡翠に顔を近付け、人差し指をフリフリさせて言う。

「よく漫画やアニメで、必殺技に必殺技をぶつけて力勝負とかしているけど……アレ意味解んなくない?躱したり、逃げたりした方が、相殺より疲労もダメージも無いんじゃない?」

「はぁ!??」

 正に正論の常夏。そして絶句の翡翠。そんな翡翠を余所に、更に続ける。

「そして敵の必殺技を放出させて、疲労が濃いようなら自分の必殺技をぶつける……ほら、勝負に勝っちゃうじゃん?」

 全くその通りの正論を吐く常夏に、翡翠は口をパクパクさせていた。

「そんな訳でぇ、じゃぁねー」

常夏は亜羅漢を抱きかかえながら、屋上から飛び降りた。

「ち!!ちょっとおおおおおおおおおおお!!!」

 慌てる翡翠!ボン!と胸のドリアンブローチが肥大化した!!

「わああああああ!!ファールスメル・アタックがああああああ!!」

 ジョウロから、凄まじい悪臭が放出された!!

「あああああああ!!」

 ファールスメル・アタックは敵も何も無い空間に、ただ放出された。

「あぁぁぁぁぁぁ……………」

 ファールスメル・アタックの放出が終わり、ジョウロの輝きが薄れた頃、翡翠はペタンと床にお尻を付けた。

「力負けや躱されたのならまだしも……完全に技の無駄出しだわ……」

 もの凄い殺人臭の余韻も鼻に付かない程落胆した。しかも放ったのは奥義だ。配下二人の養分をつぎ込んだ奥義なのだ。

 これで落ち込むなと言う方が酷だろう。奥義の無駄打ちはそれ程心労が濃いのだ!!

 ブロロロ…

 軽いエンジン音が迫っている事すらも耳に入らない程の落胆だった。

 ブロロロ……

「ひ、姫様……」

「何よ西瓜……文句なら後で聞いてあげるわよ……」

「姫様、そうではなく!!」

 ただでさえ落ち込んでいる翡翠は苛々し、立ち上がった。

「だから何よ南瓜!えっ?」

 その時翡翠は信じられないものを見た。

 スクーターが自分に目掛けて突っ込んで来るのだ!!

「ななななななな何アレ!!?」

 完全に動揺している翡翠。わちゃわちゃと忙しなく動いていた。

 スクーターは勿論、トランスフォームした亜羅漢だ!!

「ラフレシアァーン!!」

 尚も加速し、突っ込んでくる常夏!!

「て、転落防止柵があるのよ!!突き破ると言うの!?」

 勿論、そのつもりだ。

 常夏は正義のヒロインらしい、凛とした表現で叫んだ!!

「轢き逃げアターック!!」

 ブォンンンッッッ!!

 エンジン音が大きく響く!!

 グワシャアアアアアン!!

 転落防止柵が破壊される!!

「ひ、姫様~……」

「我々が盾にぃぃ~……」

 栄養をぶん取られ、激しく衰弱しながらも、翡翠の前に立つ二人。

 ゴッッッッ

 西瓜と南瓜は超楽勝で吹っ飛ばされた!!

「きゃあああああああああ!!」

 腕でガードする翡翠だが、それは当然徒労に終わる。

「きゃあああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 鈍い音と共に、翡翠は空高く舞い上がった。

「おー、結構飛んだねー」

 鼻をつまみながら空を仰ぐ常夏に、ヘロヘロのボロボロになりながらも立ち上がる近衛戦士の二人。

「き、貴様……よくも姫様を……ゲホッ」

 吐血しながらも常夏に近付く西瓜。

「エブリシングサマー……我々の命をかけて…姫様の仇を……ぶぶっ」

 嘔吐しながらも構える南瓜。

 天晴れな忠誠心!!敵ながら見事だ!!これで心を打たれない奴はいないだろう!!

「えー?ここ、臭いからいいや。君達も逃げた方がいいよ?私は華麗に立ち去るから」

 此処に居た。心を打たれないヒロインが。

 そして常夏は本当に、その場から立ち去った。

「「え………?」」

 唖然とした二人は、その場で呆然と立ち竦んだ。まさか本当に帰るとは思わなかったからだ。しかも、理由が臭いからとは。

 しかし、ここで敢えてエブリシングサマーを庇おう。そしてシスター・ドリアンを称えよう。

 ファールスメル・アタックは、本当にキツいのだ。あれが屋内だったら、と思うと、ゾッとする。

 その見事な技を放ったシスター・ドリアンも、間違いなく強者だった!!と、思おうではないか。

「あ、やがて力を認め合って仲間に、っての忘れていたよ。だけどまぁいーかっ!捜すのも面倒臭いし」

 庇わなくても良かった。何故なら、帰ってオヤツ食べよー。とか思いながら去ったのだから!!


 中庭の木の枝が、何かが天から落ちてきたように折れていく。

「な、何?」

 風華がその音に気付き、頭上を見上げた。

「人が落ちてきた……?」

 ただでさえキツイ目付きを更に細めて、藤子が確信した。

「うわっ!?」

 地面に激突する瞬間、美鈴がそれを抱きかかえた。

 風華達は、謎の異臭を振り撒いた人物を捜して中庭にいたのだ。

「いててて…ん?この子……クサッ!」

 思わず突き飛ばした美鈴。

 空から降ってきた女の子……それは常夏の轢き逃げアタックで吹っ飛ばされた、シスター・ドリアンだった。

「一年廊下の異臭はこの子の仕業ねウエッ!」

「取り敢えず縛り上げて…園芸部室に運ぶ?クッサ!」

「そうだよね。じゃ、台車を借りてくるわ」

 臭くて直接シスター・ドリアンに触りたくない三人は、ビニール紐でグルグルと縛り上げて、台車に乗せて運んだ。

「でもマスク越しとは言え、可愛い子だよねクサッ!」

 しかし、やはり臭くて鼻を摘まんでしまう美鈴だった。

「ラフレシアンじゃなさそうだけどウエッ!」

 嘔吐いてしまう風華だが、誰も咎めない。みんな同じだったからだ。

「だから縛り上げて尋問するんじゃない……クッサ!」

 台車を押しながらもしかめっ面を拵える藤子だった。

 異臭騒ぎで人気が無いとは言え、三人は足早に園芸部室に向かった。

 早くこの匂いから解放されたかったからだ。

 だが、尋問するとなれば、この匂いに暫く付き合わなければならない事を、この三人はまだ気付いていなかった!!


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