未成熟の美少女!!
「何ぃ!?ダニーがラフレシアンでは無い、一般市民に倒されただと!?」
鋭い眼光でカメムシンを睨み付けるガイチューン将軍。かなり怒っているのか、その顔は真紅に染まっている。
対するカメムシンは、緑色の顔を伏せてガクブルと震えていた。
(うおー!!怖ぇ!!報告しただけなのに、俺が怒られているみたいじゃん!!)
とか思いながら。
「一般市民の名は調べたのか!!」
怒号にも似たガイチューンの発した声に、またまた深く平伏し、調査の内容を報告する。
「ははっ!倉倉学園に通っている、一年生の田所という奴です!」
「名を知っているのに、貴様は何故此処に居るのだぁあああああ!!!」
憤怒のガイチューン。何故敵討ちをしないと怒っている様子だ。
「は、ははっ!!先ずは報告からをと……」
めっさ頭を下げるカメムシン。
そして恐る恐る顔を上げる。
「田所征伐は私めにお任せを!!必ずや、ダニーの無念は晴らしましょう!!」
「当たり前だ!!さっさと出陣して田所とやらの首を持って来い!!」
ガイチューンにビビったカメムシンは、逃げるように倉倉高校へと向かった。
倉倉高校一年生の田所は、どこにでもいる、普通の男の子だ。
普通に朝起きて歯を磨き、普通に朝ご飯を食べ、普通に通学する……
そして、普通に恋もしていた。
数日前に転校してきた、黄緑色のウェーブのかかった髪の美少女に。
瞳も黄緑色で、最初は外国人だと思った程だった。
一目で恋に落ちた田所は、何とかお話しようと美少女の周りをウロウロしていたが、これほどの美少女だ、直ぐに他の男の子達が群がってくる。
田所は後で何とか話すチャンスを得ようと、軽いストーカー行為に出るが、直ぐ様諦める事になる。
美少女はお嬢様らしく、三年生にボディガードを二人転校させて、周囲を守らせていたのだ。
一人は目つきの鋭い、武骨で角刈りの軍人みたいな三年生。
もう一人はアンジェリークに出て来る光の守護聖様みたいな厳格なタイプの三年生だ。
他の生徒達は勿論、田所も美少女と親密になるのを諦めた。
三年生は普通に怖いし、何よりお嬢様は住む世界が違うからだ。
ウロウロして田所が得た情報は、ボディガードとして三年生を二人転校させた事と、美少女の名前だけ。
ドガアアアアン!!
いきなりの爆発音に田所は振り向いた。
「我が名はカメムシン!!カンキョハカーイ、ガイチューン将軍が臣!!貴様が田所か!?」
緑色の顔で田所を睨み付けるカメムシに、何が何らやで周りをキョロキョロ見ながら訊ねた。
「ぼ、僕に何の用ですか……?」
何かの間違いであってくれと願いながら。そしてビビって下がりながら訊ねた。
当たり前だが、他の生徒達は叫びながら避難している。自分も本当はあっち側な筈なのに、と。
「知れた事……我が同朋のダニーの仇!取らせて貰うぞ!」
マントをバッと
マントから大量のカメムシが湧いて出る。
「ぎゃああああああああああああ!!」
あまりの恐怖に後ろを振り向き、走って逃げ出す田所!!
「無駄だ田所!!貴様は死んで償わなければならぬ!!」
田所の後を追うカメムシン!!一心不乱に逃げる田所!!
その時、生徒達が避難している最中、田所に向かって静かに歩いてくる三つの人影があった。
すれ違い様、田所は人影を見て仰天した。
それは、想いを寄せていた美少女……若大路 翡翠と、ボディガードの三年生だった!!
そっちに行っては危ない!
だが、田所は忠告をする暇すら惜しかった。
「ゴメン若大路さん!!」
田所は翡翠を止める事無く、自分の命を優先させた。
責めてはいけない。
例え想いを寄せている美少女が危険だと解っていても、普通の高校生なら我が身を優先させるのは、当たり前だ。
田所は自責の念に駆られながら涙をながし、カメムシンから逃げた。
「ん?何だ貴様等は?」
田所を追い掛ける通路を、塞ぐ形で現れた、美少女と二人組の男を睨み付けるカメムシン。
御少女はカメムシンを睨みながら口を開いた。
「西瓜、南瓜、変身よ!!」
二人の三年生……西瓜と南瓜は、腕をグッと前に翳す。
その手の中には、スイカカードとカボチャカード、それとドリアンカードかあった!!
「だから何なんだ貴様等!!」
苛立つカメムシンを無視して翡翠が叫ぶ。
「変身!!」
ベルトのバックルに、カードを差し込む翡翠達!!
「うおっっっ!?」
カメムシンは腕で目を隠した。黄金の光が三人を包み込んだからだ。
黄金の光が晴れた時、そこには黄緑色のノースリーブのセーラー服みたいな物を着た美少女が佇んでいた。
トゲが出ているハーフヘルメットのような物を着用していたが、アイマスクをしていたので素顔はギリギリ見えないか?
ヘルメットを脱いだシャアみたいな感じだった!!
そして、少しでも動いたら、パンツが見えそうなスカート。風も無いのにパタパタと靡いている。
オーバーニーも黄緑色。脛まで覆っているブーツは、ヒールが高かった。
「黄緑の果実は未成熟の証……」
左腕を頭から胸に回すように移動する。
左手が胸の位置に一瞬止まったかと思ったら、ドリアンのブローチがポン!と現れた。
そのまま左腕を流すように横に滑らせた。
「シスター・ドリアン!!」
名乗る翡翠!!結構ドヤ顔だった。アイマスクで顔が隠れているのにも拘らず、それが解るほどのドヤ顔だった。
「シスター・ドリアンだと?ドリアン王国の姫か?確か王位を継ぐ兄が居た筈だが、弱小国家の姫君が何の用だ!」
弱小とは言え、一国の姫君が相手だ。外交云々もあるので、それなりに覚悟を決めなければならない。
指差すカメムシンの前に、スイカをくり抜いて目と口を作った感じのヘルメットをかぶった、緑と黒のしましまのタイツみたいなスーツを着た男と、ハロウィンのカボチャみたいな感じのヘルメットをかぶった、赤茶色のタイツみたいなスーツを着た男が立ちはだかる。
「シスター・ドリアンの近衛戦士!!マスク・ド・ウォーターメロン!!」
「同じくシスター・ドリアンの近衛戦士…マスク・ド・パンプキン!!」
守るように前に立つマスク・ド・ウォーターメロンとマスク・ド・パンプキン!!
翡翠は徐にカラフルなジョウロを取り出した。
「邪悪な力を包み込む……果物の王の力を魅せましょう……」
「貴様!!それは本当にマズいだろ!!」
あらゆる規約が絡んで来そうなセリフに、カメムシンはただ、慌てた。
それは兎も角、カラフルなジョウロから、蔓が伸びる。
「その蔓で俺を絡め取るつもりか!!」
カメムシンはジャンプして、後ろに間合いを取った。
だが、蔓はカメムシンではなく、マスク・ド・ウォーターメロンとマスク・ド・パンプキンに絡まった!!
「な、何っ!?」
驚くカメムシンを余所に、蔓は二人の養分を『吸い取った』!!
「おわあああああ!!」
「くわあああああ!!」
みるみるうちに干からびて行く二人!!
「な、仲間の養分を吸い取って、何を……?」
バタンと二人が倒れ、蔓が離れジョウロに収集される。そのジョウロをカメムシンに向ける翡翠。
「シスター・ドリアン!ファールスメル、アターック!!」
ジョウロの先から、腐敗臭と思しき悪臭がカメムシンに向かって降り注いだ!!
「こ、これは!?報告にあったラフレシアンの!!」
後退るも遅かったようで、悪臭はカメムシンに直撃する。
「ぎゃあああああああ!!!こ、この入り混じった悪臭はああああああああああああ!!!」
それはまさしく、ラフレシアンの奥義、クレイジー・スメルと同じだった!!
「はぁあああああああ!!」
如雨露を回すと、翡翠の胸の中心にある、ドリアンブローチが大きくなった。
それに比例し、ファールスメル・アタックの臭いが強烈になった!!
「ぎゃああああああああああぁぁぁぁぁぁ!!!」
ボッ!!
カメムシンは消滅した……
翡翠の、シスター・ドリアンの技(悪臭)によって……
ラフレシアンの臭いでも、肉体の消滅までは不可能だったのに!!
「ファールスメル・アタックは敵の養分を全て吸い取る……滅びたのは至極当然よっ!!」
干からびてカラカラになった西瓜と南瓜に蹴りを入れて叩き起こす翡翠。
「手加減したから生きているでしょ!早く起きなさいよ!私達の標的は、あんな雑魚じゃない、ラフレシアンなんだからっ!!」
フラフラになりながら立ち上がる西瓜と南瓜。超ゲッソリしていた。
「今日はもう使い物になりそうも無いわね!ったく、ひ弱なんだから!」
翡翠はプリプリ怒りながらその場を去った。
「この辺りでカンキョハカーイの怪人が暴れているらしいけど……」
風華がカンキョハカーイが現れたと言う一年の廊下の前に立って周囲を見渡した。
「暴れるも何も、既にラフレシアンが戦った後のような匂いだわ」
顔を顰めながら状況を述べる藤子。鼻を摘まむのも忘れずに。
「きっとエブリシングサマーよ!!遅刻したんじゃなくて先回りしたんだわ!!」
先の戦いで常夏の信者になっていた美鈴は置いておいて、風華と藤子は何とも言えぬ、不安感を感じていた。
確かにこの匂いはクレイジー・スメルにそっくりだが、何かが違う……
ともあれ、現場は直ぐそこだ。廊下に一歩足を踏み入れる。
そして三人は、その惨劇に目を、いや、鼻を覆った!!
現場はしばらくは草木も生えそうもない程の悪臭の不快感で充満していたのだ!!
廊下で草木も生えそうもないとは是如何にだが、例えるならそうなのだ!!
「クレイジー・スメル!やっぱりエブリシングサマーが?ウェッ」
「エブリシングサマーとは気配(匂い)が違う……もっと邪な臭気を感じるけど……クサッ」
「う~ん……私にはよく解らないなぁ……ウェッ」
三人とも、場の臭気に当てられそうになる寸前でフラフラになっていた。
「とりあえずこの場から去りましょう。死んじゃうわ」
風華の提案に文句などある訳がない藤子と美鈴は、足早に現場から立ち去った。
「あ~……今日も平和だね~……」
風華達が現場に駆け付けている最中、常夏は呑気に屋上で日向ぼっこをしていた。
「いいのか常夏?さっき何者かが一年の校舎で暴れているらしいからと、風華達が向かっただろ?」
亜羅漢が申し訳なさそうに言う。申し訳なさそうと言うのは、勿論常夏じゃなく、他のラフレシアンにだ。
「あーいーのいーの。この間のクレイジー・スメルのダメージ(匂い)がまだ取れないから、少し安静にしないとね!」
安静にしても匂いなど取れる筈も無いが、まだ多少匂っているのも事実、亜羅漢がうるさく出動命令を出さなかった理由もここにある。
ラフレシアンだとバレる事の方が問題だと判断したのだ。
まぁ、バレたとしても、大した問題にはならないと思うが。
と、その時、バン!と屋上の扉が開く。
「ヤバいっ!サボったの風華ちゃんにバレて探しに来たのかなっ!」
常夏は亜羅漢を抱きかかえて物影に身を潜めた。
「怒られるのが嫌なら、素直にラフレシアンに変身して戦えばいいのに……」
正論を言う亜羅漢を無視して、そっと身を出し覗く常夏。
「風華ちゃんじゃないや。ヘロヘロに痩せ細った男子二人と……一年生の女の子かなぁ?」
現れたのは、養分を抜かれた西瓜と南瓜……
それと、バケツに水を入れて、それを抱えていた翡翠だった。
翡翠はバケツの水に大量のサプリメントを投入した。
そしてそれを西瓜と南瓜に渡す。
「一滴残らず飲み干すのよ!!」
言われる通りにバケツの水をゴブゴブと飲み干す西瓜と南瓜。
「何してんだろ?何かのプレイかな?」
「どんなプレイなんだよ!!」
「しっ!声が大きいっ!とにかくワクワクしながら食い入るように覗き見しよう!!」
何を想像しているのか不明だが、常夏も思春期の女の子だと言う事を付け加えておこう。
「ゴブゴブ……ひ、姫様……もうお腹いっぱいです……」
「ふざけんじゃないわよ西瓜!!まだ半分以上残っているじゃないの!!」
「ゴクゴク……ひ、姫様、サプリメントが水に溶けてなくて飲みにくいです……」
「調子に乗るんじゃないわよ南瓜!!持って来てやっただけでも感謝しなさいよ!!」
様子を見ていた常夏は強く頷く。
「やっぱりプレイだわ。ドキドキ!!」
「プレイって言うか、無理やり栄養を摂取させているようだな……」
やがてバケツがカランと落ちる。水をすべて飲み干したのだ。
西瓜と南瓜のお腹は、パンパンに膨らんでいて破裂しそうになっていた。だが、気合の雄叫びと同時に!!
「「はあああああああああああああああ!!!」」
パンパンに膨らんだお腹が一気に締まっていく!!
「え~?なにあれ~?」
「む?一気に栄養が吸収されている?もしや奴等はドリアン王国の連中か?」
ドリアン王国の人間は、栄養を一気に吸収し、怪我や病気をすぐさま治す事が可能なのだ!!
特にドリアン王国の王子は、何故か瀕死の重傷を負う事がよくあるのだが、この特異体質のおかげで死に至る事は無いという。
西瓜と南瓜が身体から蒸気を発しながら立ち上がる。
その身体は瑞々しく、先ほどまでやせ細っていたのが嘘のようだった!!
「ふん。元に戻ったわね。今日は無理だと思っていたけど、近衛戦士なだけはあるか。じゃあ行くわよ!!」
西瓜と南瓜の復活を確認した翡翠は、踵を返して屋上から立ち去ろうとする。
「ねーねー。どこ行くの?」
「決まっているでしょ。ラフレシアンを倒しによ……うわあああああっっっ!?」
翡翠は飛び上がり、お尻を床に付き、手足をシャカシャカと動かして後退りをした。
「貴様……いつの間に?」
「何者だ貴様!!」
西瓜と南瓜が翡翠の前に構えながら立つ。
「私?私は小鳥遊 常夏……ラフレシアン エブリシングサマーだよ」
太陽を背に受け、輝くような笑顔を翡翠達に向ける常夏!!
その笑顔には全く邪気が無かった!!
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