エブリシングサマーVSベルクリケット!!
「いやー!昨日は休校だっていうのに学校来ちゃったよぉ~!」
朝から元気いっぱいに無駄にカミングアウトをする常夏に、明らかに苛立った優等生の風華。
「もう!何度も言ったでしょ!」
「まあまあ、今更じゃない。これ食べて落ち着いて」
藤子が宥めるようにカルシウムが豊富なえびせんを与える。これでイライラが軽減されればとの優しさに満ち溢れていた。見た目は不良なのに。
「……ありがとー!えへへへ~……」
満面の笑みを浮かべながらパリパリ食べ始めた。その様子に安堵して、話題を変える。
「園芸部として活動しないの?」
園芸部に入ったのはいいとして、いや、自分の希望が叶ったのだからとてつもない幸運だが、入部してから活動をした事が無い。部室でお喋りしてお菓子食べてジュースを飲んだ記憶しかなかった。
「面倒だからしないよ~」
「そう……だけど折角備品があるんだから……」
「面倒だからしないよ~」
「……………そう………」
二度も言われてガッカリする藤子。
せっかく一緒の部活に入ったのだ。共に青春を謳歌したい。その最たるものが部活動で、秘かに憧れていたのだ。
だが、本当に部活動は無いのだろう。僅かな時間での付き合いとは言え、常夏の性格は大分掴めて来た。その彼女が断言する理由が、とても納得が行くものだったからだ。
しかし、勇気を振り絞って部活をしようと提案しようとした。
「あの…あの…部活……」
「ん?なぁにぃ?」
笑顔で返す常夏。
その時!バァン!!!と、勢い良く園芸部のドアが開いた。
当たり前だが、常夏達は一斉にドアの方を向いた。
そこには鋭い眼光を常夏に向ける美鈴の姿が!!
藤子は目が悪いので、目を細めてジーッと見ながら尋ねた。
「……何か用?」
ビクッとする美鈴。明らかに腰が引けた。
(嵩屋敷 藤子さん……凄いキレイな人だけど、凄い怖い!!)
慌てて目を反らす美鈴は、風華に目を向ける形となった。
「もう直ぐホームルームよ?用事があるなら早く言いなさい」
ギクッとする美鈴。完璧に身を仰け反らせた。
(保呂草 風華さん……可愛いけど厳しいって有名なのよね……)
またまた目を反らし、本来の目的の常夏を睨み付けた。
「えーと、誰だっけ?」
小首を傾げて疑問を呈する常夏に対して、握った拳がプルプルと震えた。
昨日会ったばかりなのに……
偽のメルアドを教えてからかったばかりか、顔すら忘れられているとは!!
プチッ!
美鈴の何かがキレた。
美鈴は変身携帯を取り出し、叫ぶ。
「チェンジ!!ラフレシアン!!」
眩い光が美鈴を包み込んだ!!
「ええっ!!ラフレシアンですって!?」
「私達の他にもラフレシアンが?」
「ほぇ~…結構いっぱいいるんだね~」
驚く風華と藤子とは対照に、常夏はノホホ~ンとしていた。
「そっと目を閉じ聞き惚れる秋の夜の音色…終わる季節に余韻を感じ…だけど!!鳴き声うるさく眠れず不快!!美少女戦士!!ラフレシアン ベルクリケット!!」
常夏を見据えながらポーズをビシッと決める美鈴。
「ダークブラウンのラフレシアン!?」
藤子に顔を向ける風華。藤子の方も風華に顔を向けた。
「取り敢えず味方…よね……?」
顔を見合せて戸惑う二人に対して、拍手する常夏。
「カッコいいカラーだねっ!いいなぁ」
近寄って手を伸ばす常夏。握手を求めているのだ。ラフレシアンならば味方との判断だろう。
しかし、美鈴はその手を払い退けた。ビシッと。
「あ、あれ?」
「変身しなさい小鳥遊 常夏!!私はあなたを全力で倒す!!」
指差す美鈴。敵を見る瞳を崩してはいない!!
「待ちなさい!同じラフレシアンでしょう!?」
風華が盾になるように常夏の前に立って叫んだ。
「何があったのかは解らないけど、少し落ち着いたら?」
藤子が宥めるような口調で美鈴の前に立つ。
「ラフレシアン!!メタモルフォーゼっ!!」
常夏は迎え撃つと言わんばかりに変身をした!!
「常夏!!戦うつもり!?」
「ちょっと待って。何かの誤解かもしれないんだから」
だが、名指しで挑んで来た者に対して、こちらもそれに応えなければ失礼にあたる。
適当な常夏だが、その場のノリは大歓迎なのだ。勿論先程の応えなければ云々は単なる建前だ。その方がかっこいい気がしたからそうしたまでなのだ!!
「ファッハッハッハッ!!ここが倉倉高校か!!」
ガイチューン将軍に自らラフレシアン討伐を名乗り出たダニーは、倉倉学園の校門前に立って高笑いしていた。
まだ登校中の生徒が多数の中、ダニーの存在は認識されていない。
「ファッハッハッハッ!!先ずはこやつ等を血祭りに上げてやる!!」
ダニーはマントを翻した。
マントからは無数の小さなダニメカがワラワラと飛び出してくる。
登校中の生徒達に襲い掛かるダニメカ。
「この学校を阿鼻叫喚の地獄絵図に変えてやるわ!!ハァッハッハッハッうおっっっ!?」
プチッ
ダニーは登校中の生徒に踏まれて潰れて絶命した。
ダニーの体躯は、害虫のダニそのままの大きさだったのだ。よってマントから出て来たダニメカは更に小さなものだった。顕微鏡で漸く確認できる大きさなのだ。
ともあれ、ダニーは宿敵とも言えるラフレシアンを見る事もなく、この世を去ったのだ……
「だあああああ!!」
美鈴はフェイントを織り交ぜながらパンチの乱打をする!!
「ほいほいほいほいほいほいほいほいっと!!」
何食わぬ顔で向かってくるパンチを叩き落とす常夏。
「く!エブリシングサマー……私の少林寺拳法を物ともしないなんて……」
ギリッと奥歯を噛み締める美鈴。
悔しくて、血管から血がプシュ~と出てきそうな勢いだ。
「エブリシングサマーは普段から運動部の助っ人で活躍しているのよ」
風華が気の毒そうな瞳を以て言う。
「地力が違う、とでも言えばいいのかしら。それにその少林寺拳法って、我流よね?」
藤子は半ば呆れながら言った。
ゾクッとする美鈴。
常夏は運動部の助っ人として有名だったのを、スッカリと忘れていた。それに、昔の香港映画に嵌って真似しただけの少林寺拳法を見切られたのは痛い。あらゆる意味で痛い!!
「ちょっと~、だから誰だっけってば!」
常夏の自分を全く覚えていない態度が、折れかけた美鈴の心を復活させた。
「エブリシングサマー!!あたな絶対に不快よ!!」
ブン…
美鈴の頭部のデカい花が臭気を増す。
ムァン…
それに伴い、常夏の頭部のデカい花から臭気が漏れ出した。
「マズいわ!!クレイジー・スメルの前兆が!!」
慌てて変身携帯を取り出して変身しようとする風華。
「クレイジー・スメルって?」
藤子の疑問への回答は後回しだ。何故ならば、死んじゃうからだ。
「後で説明するから早く変身して!!ラフレシアンにならなきゃ逃げ切れないわ!!」
尋常じゃない風華の慌て振りに、焦りながら変身携帯を取り出す藤子。
「チェンジ!ラフレシアン!!!」
「チェンジ、ラフレシアン」
光が二人を包み込む。その様子を見て、膝がガクガクした美鈴。
「保呂草さんと嵩屋敷さんもラフレシアン!?」
ヤバい!!三人にフルボッコにされる!!
ビビりながらも、膝のガクガクで地震が起きそうになる程震えたが、後には退けない。
「因幡上!!来なさいっっ!!」
従者を呼ぶ美鈴。
空をブーンと飛んでくる蝙蝠を目撃し、テンションがあがる常夏。
「うわー!蝙蝠だよ!初めて見たよー!」
はしゃぐ常夏を横目にしながら因幡上が呟く。
「本当にやるのか?味方同士で戦うのは……」
「うるさぁい!!ラフレシアン!!01んんんんんん!!!」
高速でボタンを押す美鈴。
それに呼応するが如く、因幡上がトランスフォームをし始めた。
「わー!蝙蝠さんがブーメランになったよ!」
因幡上は翼を広げて巨大化し、鋭利な刃を携えたブーメランにトランスフォームした!
それはフラフープくらいの巨大なブーメラン!!マトモに喰らうと絶命必至である!!
「エブリシングサマー!!あなたは絶対に許さない!!絶対にっ!!!」
睨みつけながらブーメランの刃を常夏に向ける美鈴。本気でぶっ倒す事に躊躇いは無いようだ。
しかし……
ムアァン……
常夏の頭部のデカい花が大きくなり、何ともいえない悪臭が漂う。
「いけないエブリシングサマー!!」
ただ一人、アレを知っている風華が何とかしようと躍起になる。遠く離れたところでバタバタしているだけだが。
「ん~…ちょっとヤバいなぁ……」
常夏自身も制御不可能のアレは、常夏の意思に関係なく、段々と臭いが強めていく。
そりゃそうだ。アレは不快に思う人の心が生み出す兵器なのだから!!
「な、何?この臭い…ウェッ!!」
あまりの悪臭に鼻を摘む藤子。
「あ~、ダメだぁ!逃げてコールドウェイブ、ジャパニーズウィステリアぁ~」
諦めた常夏。元々どうにかしようとはあんまり思っていないので、諦めるのは常人の10倍は早いのだ!!
頭部のデカい花から虹色の光が立ち昇る!!
「みんなの不快を一つに集め!!」
遂に常夏が詠唱を始めた。
「マズい!!早くこの場を離れなさい!!」
風華超速で美鈴の所に行き、腕を引っ張って逃げるよう促す。
しかし、美鈴はその手を振り離す。
「エブリシングサマーの仲間が私を騙そうとしても無駄よっ!!」
睨み付ける美鈴。完全に心を閉ざしていた!!
「っ……!!勝手にしなさい!!」
今度は藤子の手を取る。
「エブリシングサマー!!できる事なら手加減しなさいよ!!」
そう言い残し、スーパーダッシュでその場を離れた。
一応頷いていた常夏だが、全く自信は無い。台詞を呪文のように唱えるしかないのだ。
「敵を滅ぼす一つの臭気に!!」
「死ね!!エブリシングサマああああああああああ!!!!」
ブーメランと化した因幡上を投げ付ける。
常夏に向かって行くブーメラン!!
接触する寸前!!
「クレイジー!スメルぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!」
詠唱が終わり、クレイジー・スメルが放たれた!!
「な、何!?この臭いはっっっ!?」
「くわあああああああ!!クレイジー・スメルだとぉぉおおおおお!?まさかそんな!!まさかぁあああああああ!!!」
あまりの悪臭にトランスフォームを解く因幡上。そして直ぐ様美鈴の元に戻った。
「逃げろベルクリケット!!エブリシングサマーはぐわあああああああああああ!!」
因幡上はクレイジー・スメルの超臭気で気絶した。
「因幡上!?エブリシングサマーは何ですって!?」
屈んで因幡上を揺さぶる美鈴だが、因幡上はピクリとも動かなかった。
「早く逃げて~!私にもどうにもならないからぁ~!」
虹色の光を昇らせながら、一応促す。
「逃げろって言われてもウエッ!?」
吐き気がし、口に手を当てる美鈴。頭痛と悪寒もしてきている。と言うか、本気で命の危機を感じていた。
「ぁあああ~!もうダメ~!」
ペシャンとへたり込んだ常夏。虹色の光が辺りを包み込んだ!!
「イヤ!!イヤだ!!ウェッ…きゃあああああああああああ!!」
直撃必至!!
その瞬間!!
どこからかスクーターが高速で現れた!!
「す、スクーター?ゲェッ!!」
「早く乗れ!!因幡上を忘れるなよ!!」
文字通り渡りに船のスクーターの登場に、美鈴は因幡上と共に跨る。
「しっかりハンドルを握っていろよ!!」
スクーターは猛スピードで虹色の臭気から離れた。
「はぁ、はぁ、た、助かった……」
安堵する美鈴。スクーターは学校から、かなり離れた廃屋に逃げ込んだ。
エンジンが止まるスクーター。ほぼ同時にビニョビニョと変形する。
「ナメクジ?あ、あなた、因幡上と同じ?」
「そうだ!私は亜羅漢!エブリシングサマーの従者だっ!!因みにナメクジじゃない、ウミウシだ!!」
美鈴を救ったのは亜羅漢だった!!
そして、廃屋の影から風華と藤子が現れる。
「あなた達は!!」
身構える美鈴だが、風華と藤子には敵意は無い。あるのは、安堵感だけだった。
「コールドウェイブの話によると、エブリシングサマーのクレイジー・スメルは技を超えた兵器だと」
藤子の台詞に力強く頷く風華。そして至る結末を簡潔に述べる。
「直撃したら……死ぬわ」
背筋が寒くなった美鈴。
亜羅漢が助けに来なかったら死んでいたのだ。今頃になって震え、へたり込んだ。
「それにしても、エブリシングサマーに感謝する事ね。ベルクリケット」
風華の言葉に、震えながらも訊ねる。
「感謝?」
「あなたも知っているでしょうけど、従者は従っているラフレシアンにしかトランスフォームできない。亜羅漢をスクーターにトランスフォームさせて、あの場から遠ざけたのは……」
「エブリシングサマー!!敵である私に………!!」
美鈴は胸からこみ上げてくるモノを抑えきれずに嗚咽する。
「うぇっ、うぇっ…ひいぃぃん!ええっ……ひいいいいいいいん……」
涙と鼻水を引く程垂れ流す美鈴。もうちょとで号泣しそうだ。と、言うか、した。たった今。
「わあああああああああああああああああああああああああああん!!わああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああんんんんん!!!ぴぎゃあああああああああああああああああああああああああああ!!!」
その号泣っぷりに超ドン引いた風華と藤子。
「さっきまで殺す勢いだったのに……」
「……両極端なのね…と言うか、ぴぎゃあって……」
美鈴は身体の水分をほとんど放出するが如く、大泣きしていた……
「お?大分臭気が収まったかな?」
亜羅漢の言う通り、あの殺人臭は大分薄れてきた。
周辺には気絶した人間や動物が沢山あったが、何とか死者は出ていないようだ。
そして、廃墟に向かってくる人影を確認した美鈴。
「エブリシングサマー……」
それは常夏だった。
証拠に、常夏の通った後には、臭気に当てられて気絶している者が、道標のようにパタパタと転がっていた。
「うわ~ん!!臭いよぉ!!」
自分が発生させた臭気に半泣きしながら、トテトテとやって来る。
「一応アロマを用意したけどウエッ!!」
「だけど、臭いが混ざって、もっと大変な事になるんじゃないかしらオェッ!!」
常夏を心配している二人だが、近付く事を躊躇っていた。
「エブリシングサマー……」
「あ、大丈夫だった?良かったね~」
一応風華の用意したアロマをシュッシュッと吹き付けながら、常夏は美鈴を気遣った。
美鈴は常夏を力強く抱き締めた。
「敵の私を助けてくれたなんて……嘘のアドレスを教えただけで、倒そうと考えていた私は……恥ずかしい……」
常夏の胸の中で嗚咽する美鈴。
常夏は嘘のアドレスを教えた事すら忘れているというのに!!
「大丈夫なら良かったよ~。気にしない、気にしない!(何か、予定と違っちゃったけど、まぁいいか)
美鈴の肩を笑いながらパンパン叩く常夏だが、亜羅漢をトランスフォームさせたのは、美鈴を避難させる為ではなく、頭部のデカい花に何か蓋をする物を取ってきて貰う為だった。
亜羅漢が勝手に勘違いして、美鈴を乗せて場から離れたに過ぎない。
そんな常夏の心を知るよしも無い美鈴は、ただ泣きながら感謝をしている。
やがて、涙を腕で拭い去り、顔を上げた美鈴。
その顔には覚悟と決意が宿っていた。
「私!エブリシングサマーにこの命を預けるわ!!あなたに拾われた命……あなたが盾になれと言えば盾になり、あなたが死ねと言えば死にましょう!!」
「え~、預けられても困る(面倒臭い)から、友達でいーよー」
なんて懐が広いのだ!!この少女こそ、聖女に違いない!!
そう、勝手に決めつけた美鈴。
そして常夏の盾になる事を勝手に決意した!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます