極端な茶!!
ゴキブリ騒動で休校になった倉倉高校だが、常夏はそれを忘れて学校に来ていた。
「あ~あ、何か損しちゃったなぁ~」
カバンを両手で後ろ手に担ぎながら溜息をついた。
そういえば風華も迎えに来なかった。藤子も二日後にまた会いましょうとか言っていた。
「何で教えてくれなかったのよナメクジさん!!」
何故か亜羅漢にキレる常夏。完璧八つ当たりだった。
「言ったよっ!だけどお前が『了解了解~』とか言ってつっ走ったんだろうが!!」
話をまともに聞かない常夏は、亜羅漢が注意したのにも関わらず適当に相槌を打ってダッシュしたのだ!!
「そうだっけ?まぁいいか。さて、帰ろー」
たった今到着したのに、帰宅する虚しさを全く感じない常夏に、しみじみと感心する亜羅漢。
「お前の適当さは長所でもあるんだなぁ……」
まあ、兎に角。常夏は来た道を戻る。
事はせずに、全く真逆の方向に向かって歩き出した。
「おい常夏っ!家は逆方向だぞ!おいっ!」
亜羅漢の注意を常夏は全く聞く事はせずに、鼻歌を歌いながら歩を進める。
いつも常夏はこんな調子で登下校しているから、遅刻しない為に早朝から登校し、夜遅く帰宅する羽目になるのだ!!
今は風華が面倒を見てくれる分、早朝登校や深夜帰宅は無くなったが、それまでは酷いものだった。家出とか拉致とかと勘違いして両親が警察に通報する程に。
発覚後、両親は簡単に諦めたらしいが。常夏の適当さ加減は、両親からの遺伝による部分も多少関係していると言えよう。
亜羅漢はそんな常夏の後ろをピョンピョン跳ねて付いていく。
「常夏っ!おいっ!どこに行くんだよっっっ!」
「んー?家に帰るんだよ?」
「だから真逆の方向だってばっっ!!」
「大丈夫大丈夫~。道は繋がっているものだよ」
引き返す選択なんか皆無な常夏。そのままズンズン進んで行く。
「はぁ……迷子になったら他の従者に連絡すればいいか……」
遂に諦めた亜羅漢。帰宅は何時になるんだろうと不安を抱えながら、ピョンピョン跳ねて進む。
「ん?」
歩みを止める常夏。
「どうした常夏?」
「こんな所にお寺があったんだね~」
一応学校の近所なのにも拘らず、結構立派なお寺の存在を今知ったとは……
呆れる亜羅漢だが、目を剥いた。常夏がお寺に入って行ったのだ。
「道草の道草を食ってどーするんだよっ!」
慌てて後を追う亜羅漢。ウミウシ故に常夏の歩調とかけ離れているので追い付くのは骨だったが、先に入って行った常夏はボーっとしながら建物を見ていたので比較的簡単に追い付けた。
「もう帰ろうよ常夏……ん?」
常夏が見ていたのは教会だった。
「あれ?お寺な筈だよな?」
「うん。お寺は隣に建っているけど……」
確かに教会の隣にはお寺がある。
「教会を通り過ぎると、門があるな………え?」
ちょうどお寺の反対側に、教会の門がある。だが、その向かい側には屋根が丸っこい建物も建っていた。
「え?これってモスク?」
常夏がモスクを知っている事は驚きだが、それは確かにモスクだった。イスラム教徒と思しき人達の出入りが見られたから間違いないだろう。
同じ敷地に寺と教会とモスクがある?
「あ、あれ?まだあるよ?金色の尖った屋根……」
「お寺よりも派手だが……」
日本のお寺に近いようで遠い建物だ。色が派手だった。
「何か面白いね~」
ウロウロする常夏。そのとき肩をポンと叩かれた。
振り返った常夏は「こんにちはぁ~」と、全く計算の無い笑顔の挨拶をかました。
「小鳥遊 常夏さん…だよね?」
常夏の肩を叩いたのは女子であった。
肩まで掛かっている茶色のショートボブが揺れている。
色白で目のパッチリした、常夏よりやや小さめの女子。碧眼、よりも少し黒い、ハーフのようだ。しかもかなりの美少女だ。
「どうして私の名前を?あなた誰?」
「だって常夏さん有名だもん!私は
美鈴は常夏に握手を求めてきた。その握手に笑顔全開で応える常夏。
「美鈴ちゃんだねっ!ここ美鈴ちゃんのお家なの?」
握った手をブンブン振りながら訊ねた。
「ええ。お父さんが住職継いだのはいいんだけど、シスターのお母さんを好きになっちゃって」
だから寺の敷地内に教会を建てた、と。
「え?でもモスクもあるよ?」
「おばあちゃんがカザフスタン出身のイスラム教徒でさ、その関係」
「あの金色の尖った屋根は?」
「あれは上座部仏教の寺院。タイとかミャンマーとかの仏教だよ。日本の仏教とちょっと違うんだ。おじさんがお爺ちゃんに反発して上座部仏教に改宗して、その関係」
「へぇー!意味解んないねっ!」
笑顔で全力に否定(?)した常夏。同じ敷地内に建てなくてもいいだろうって意味だった。
「……は?意味解んない?意味解んないんだ?イミワカリマセーンですか!?」
先程までニコヤカだった美鈴が豹変した!!
「え?」
流石に戸惑う常夏。若干オロオロし出す。
「そりゃ私だって意味解んないけど、今日初めてお話した人にとやかく言われたくないわよ!!」
いきなりキレてまくし立てられた。
「あ、あの、何かごめんなさい…」
一応雰囲気で謝罪をした常夏に美鈴はハッと我に返った。
「ごめんなさいっ!!私極端なのっ!!喜怒哀楽の差が滅茶苦茶激しいのっ!!本当にごめんなさいっっっっ!!ああ、神よ、罪深き私をお許しください…アーメン……」
なんか十字を切りながらコーランを開いた。数珠もじゃらじゃらさせて。
そして全力で土下座する。地面にオデコを付けて、ひたすら謝った。
「ちょっと!土下座までしなくていーから!」
慌てて腕を引っ張って立ち上がらせる常夏。
「そう?」
美鈴はケロッとして立ち上がった。さっきまでの出来事なんかなかったように。
「何か面倒臭い性格だねー」
「そうなの……………」
常夏はギクッとした。美鈴が大粒の涙をボロボロこぼしていたのだ!!
「学校じゃ何とか我慢できるんだけど…グスッ…家に入ると性格が解放されるってゆーか…グスグスッ…」
本気でウザくなってきた常夏。見知らぬ他人の性格なんか知ったこっちゃないのだ!!
「あ、私そろそろ帰らなきゃ!じゃあね!」
逃げるように駆け出そうとする常夏の腕を、美鈴が結構強い力で掴んてそれを阻止した。
「な、何かなぁ~……?」
美鈴は携帯電話を取り出した。
「良かったらアドレス交換を……」
本当に断りたかった常夏だが、断ると面倒臭くなりそうな雰囲気がバンバンと出ていた。
なので、仕方ないので、常夏はアドレスを教えた。
ただし……
ラフレシアンの変身携帯のアドレスを!!
「うわ~!ヤバかったあ!」
美鈴の家……寺と教会とモスクと寺院から逃げ出した常夏は、遠く離れた所で一息付いていた。
「多分違う教えを親御さんから受けていたから、人格が破綻したんだな」
亜羅漢が若干同情している風にそう言う。
「じゃ、ある意味素直って事だね~」
違うような気がするが、まあいい。
「ってか常夏、アドレス教えたのはいいが、あれはラフレシアンと従者にしか繋がらない携帯だぞ?」
「そうだっけ?ま、気にしない気にしない~!」
常夏は繋がらないアドレスを教えた事に全く罪悪感を覚えなかった!!
とは言え、普通にアドレス交換したとして、メールが受信されても、返す事はない。
名前を登録しないから、誰から来たのか解らないからだ!!
風華に滅茶苦茶叱られて、面倒だが仕方なく風華と藤子のアドレスには名前を登録したくらいだった!!
「……まぁ、繋がらないなら、学校で向こうから話しかけてくるだろ」
亜羅漢も適当な常夏に随分慣れた様子で、通常の感覚が麻痺していた。
その日の夜、美鈴はドキドキしながら携帯を握り締めていた。
学校一一の有名人、小鳥遊 常夏とメールでやり取りできる喜び。
人気者の常夏のアドレスを知る者は少ない。
自分もその一人になったのだ。
「うわ~ドキドキするぅ~!!ウフフフフフフフフフフフフフフフフフフブブプププププ……」
笑いを堪える為に、おかしな笑い声となった美鈴だが、早速メールをしてみた。
【こんばんは。お昼はありがとう。美鈴です】
後は送信ボタンを押して……
忙しいと噂の常夏から返事が来るのは、一時間後か明日早朝か。取り敢えずゆっくり待つ事にした。
プルルルルルルルルルルル…
「うわビックリしたあ!!」
送信ボタンを押して直ぐに電話がかかって来たのに驚いた美鈴。
着信主は……
「名前が出て来ない?番号だけ?間違い電話かしら……」
そう思いながらも、取り敢えず電話に出る事にした。
「はい、もしもし?」
『お前が俺にメールを送ったのか。今から行くから待ってろ』
プツッ…
不可解な電話。
メールを送った?
今から行く?
「変態か幽霊か……ただの間違いか……」
とは言え、あまり気にしていなかった。
変態ならストーカーにたまに狙われるし、痴漢にも遭う。一応クォーターで美少女なのだ。それをぶっ飛ばして身の安全を確保してきた。少林寺拳法で。
幽霊なら、父は住職、母はシスター。つうかシスターって結婚しても良かったっけ?まあ、いい。まあ、兎に角問題ではない。
「間違いなら尚良しっと」
ベッドにゴロンと横になり、少し目を閉じる。
………ズッ…
「ん?」
物音が聞こえた気がした美鈴は、耳を澄ました。
………ズズズッ…ズッ…ズズッ…
「幽霊の方か」
やがて物音は美鈴の部屋のドア向こうで止んだ。
…コンコン…
「ダメよー。さっさと他行きなさい」
美鈴は雑誌を広げてやり過ごす事にした。
…コンコンコンコンコンコンコンコンコン…
「だからダメだってば」
…コンコンコンコンコンコンコンコンコンコンゴンゴンゴンゴンゴンゴンゴンゴンゴンゴンゴンゴンゴンゴンゴン!
しかしノックの音は激しくなるばかりだった。
「しつこいなぁ…悪霊って訳でもないでしょ!」
部屋のドアを開けて直接怒鳴ってやろう。そう思った美鈴は勢いよくドアを開けた。
「うるせぇっつってんだゴラァアア!!やるならやるぞゴラァアアアアア!!………あれ?」
キョロキョロする美鈴。霊的な気配など全く無かった。
モゾッ…
足元に何かが動く気配を察知する。
「きゃあああああああああああ!」
美鈴はスーパーバックをかました。
「お前が俺に連絡をよこした美少女か。俺は蝙蝠の
美鈴は突然現れた喋る蝙蝠に恐怖し、雑誌(なかよし)を全力でぶん投げた。
「きゃああああ!!こ、蝙蝠!きゃああああ!キモィ!!死ね!!死ねっ!!シネシネシネシネシネシネキャハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!」
何かがキレた美鈴。
なかよしが血に染まった。
「ち、ちょっと待て待て待てっっつ!!」
因幡上は血塗れになりながら制する。
「待てって言われて待つ奴はいないでしょ!!」
分厚いなかよしを何度も振り下ろす。
「く!!これ以上は死に繋がる!!」
宙に逃げる因幡上。結構ぶっ叩かれた筈だが、まだ生きている方が驚嘆なのだが、兎も角逃げた。
そして、そのまま美鈴の顔面スレスレに接近する。
悲鳴を挙げそうになる美鈴の前に捲し立てるよう喋った。
「よく聞け武儀山 美鈴!君が俺を呼んだんだ!此方から迎えに行く筈だった君からな!」
「私が化け物を呼ぶ訳ないでしょ!!」
因幡上にアッパーをぶちかました。丁度良い位置にあったのだから仕方がない。
「うわっっっ!?」
そのアッパーを躱したが、その時仰け反った因幡上が変身携帯を落とした。
それは床に落ち、画面が開く。
画面には、送られて来たメール文が映し出されていた。
それを見て固まった美鈴。
「そ、そんな!?」
震える手で変身携帯を拾い上げ、画面を食い入るように見る。
【こんばんは。お昼はありがとう。美鈴です】
それは確かに、美鈴が常夏に送った筈のメールだった!!
「こ、これは小鳥遊さんに送ったメール……!!」
何故この蝙蝠が私の打ったメールを受信している!?
「ゼーゼー……こ、これはラフレシアン専用の変身携帯テンお前にアドレスを送ったのは、多分ラフレシアンだ……」
「だからラフレシアンって何よ!!」
美鈴は興奮しながら因幡上の首を絞めながら揺さぶった。
「ぐぇぇ!自分で確かめろ!変身携帯を掲げながら『チェンジ・ラフレシアン』と唱えればいいぃ!!」
またまた興奮しながら変身携帯を取り、それを掲げて叫ぶ美鈴。
「チェンジ!!ラフレシアン!!」
唱えた途端!眩い光が美鈴を包み込んだ!!
「な、なんなのコレ!!う!?重っっっ!?」
美鈴の頭がいきなり重くなる。
「あああああ!!頭にデッカい花が咲いちゃったぁ!!」
やけに足元がスースーし出した。
「何なのこのパンツまで見えそうな短いスカートはっっ!?」
光が晴れる。
そこには変身した美鈴が居た!!
「そっと目を閉じ聞き惚れる秋の夜の音色…終わる季節に余韻を感じ…だけど!!鳴き声うるさく眠れず不快!!美少女戦士!!ラフレシアン ベルクリケット!!」
美鈴は茶色の魔法少女のようなコスを着てポーズを決めた。腰をかがめて、胸元が見えるような塩梅で。
「って!何よコレぇえええ!?」
頭を抱えてへたり込みながら絶叫した。何かに絶望した体で。
「だからラフレシアンだってば。お前にアドレスを教えた女もラフレシアンだよ。だから私に繋がったんだよ」
こちらに非は無いと言わんばかりに胸を張る蝙蝠の因幡上だった。実際非は無いと思うから良しとしよう。
「つまり、小鳥遊さんは私に自分のアドレスを教えてくれなかった……?」
「故意か間違えたかは知らないが、結果的にそうなるな……うっ?」
因幡上はオシッコをチビりそうになった。美鈴の怒りに当てられたのだ。
「そう……そうなの……!!そんなに私にアドレスを教えたく無かった訳ねっっっ!!」
美鈴の頭部のデカい花から、ラフレシアンの力の源である臭気がバンバン出ていた!!
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