第7話 三匹の猫
「早貴、お千代さんが参上しましたよん」
電話を切ってから正味十分少々。
一緒に住んでいるかのように会える幼馴染。
おまけに親友を超えた仲。
「千代! すぐに来てくれるの嬉し過ぎるよ」
「あ・た・り・ま・え、でしょ! そこらの男より彼氏で彼女だよ!」
「……凄い」
身長差七センチ。
低い千代が高い早貴を抱きしめる。
そのまま部屋に寄り切りで入り込む。
「ドア閉めないと、ね」
入り切るとドアを閉める。
そしてつま先を少し立て、下からそっと唇を重ねた。
「アタシたち、日本人だよね」
「愛に国境は関係ないからね。相手はあたしを受け止めてくれるって自身あるし」
「ぐいぐい来る千代には勝てませんねえ。この関係を普通にされちゃったし」
「嫌なの?」
「そんなわけないでしょっ! す~ぐ試す」
今度は早貴が上から唇を重ねてみせた。
「これでも不満か?」
「早貴の気持ち、ちゃんと伝わったから満足」
「よしよしよしよし」
両肩を抱きしめて頭から頬を往復頬ずりさせる早貴。
千代への感謝も表していると思われる。
「このままも悪くないけど、座ろうか」
ミニテーブルを前にして床に座る。
それが分かったかのようなタイミングで声が聞こえた。
「お姉ちゃんたち、飲み物持ってきたよ。開けてくれる?」
香菜が自発的か母に任されてか、飲み物を運んできた。
座ったばかりの早貴が再び立ち上がり、受け取りにゆく。
「ありがと。千代に挨拶した?」
「千代姉ちゃんが来た時にしたけど、甘えていないから、いい?」
「はいはい、おいで。ここに来ると妹にも会えるのがいいわよね」
猫の様に座っている千代の膝へと頭を乗せる。
あっという間に膝枕をゲットしていた。
「香菜のためにも千代にはもっと来てもらおうか」
「こっちに住んじゃいなよ」
膝枕のまま寝がえりをして仰向けになる。
千代の顔を半ば本気の表情で訴えた。
「この妹もぐいぐい来ますねえ。透は幸せ者だね」
「透はね、優しいよ。私、何にも心配しなくていいから元気!」
「弟がちゃんとしているようで何よりだ。帰ったら褒めておくね」
千代は猫と化している香菜の頭を撫でている。
「なんだか相性が凄くいいみたいなのよね。悔しいけど羨ましいわ」
「お姉ちゃんのおかげなんだってば。色々と勉強させてもらったからね。それに、千代姉ちゃんと仲良くなっていてくれたからだよ。私は透に会えていないかも知れないし」
「言われてみればそうね。不思議な事って難なく起きることが多いよね」
「人の気持ちが隙を突かれているだけだから。実は不思議な事では無いかもよ」
早貴が飲み物をテーブルに置いてからも三人の話は止まらなかった。
夏休みらしく女子会となる。
不安な事が起きているという漠然としたプレッシャー。
その圧に疲れていたのかもしれない。
そして、お互いにその呪縛が軽減されてゆくのを感じているのだろうか。
話している間、終始笑顔が絶えることは無かった。
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