第6話 デレ合う相手に頼る時

『どした? 電話をしてくるってことは、相当良くない状況よね』


 早貴は自室に戻っている。


「あのね、不安なの」


 誰かと話したい。

 多駆郎との連絡が途絶えてしまっている状況。

 この事に早貴の心は思った以上の痛みを感じているようだ。


『あらら。可愛いじゃないのさ』

「あのね、不安なの」

『二度言わなくても可愛いのは変わらないから』

「あのね、本当に不安なの!」

『あらら。頼ってくれたのにごめん。でも可愛いのよ』

「あのね……もういい」

『早貴!? 待って! ちゃんと聞くから! 愛しているから!』


 どちらかというと、ポジティブな早貴が本気でネガティブだった。

 いつものつもりで対応した千代だったが、様子の違いに驚いた。


「えへへ。千代からデレられちゃった」

『ちょっと! 驚かさないでよ。もお』

「牛さん。千代牛さん。可愛い」

『あのねぇ。あたしで遊ぶために掛けてきたの?』

「ううん、違うよ。不安だから声が聞きたくなったのよ」

『……嬉しいから許す』

「えへへ。千代愛しているよ!」


 二人の携帯からはお互いの笑い声が聞こえてくる。


『何かあったの?』

「うん。例の分けわからない事件の事をさ、タクに聞こうとしたんだけど全然連絡が取れなくて」

『そういえば最近の状況ってあたし聞いてなかったな。あれから全然なの?』

「そうなの。タクから連絡が来るはずだけど無いからね、こっちから何度か電話してみたんだけど全然出なくて」

『何か起きた後だから出ないとかじゃないならいいけど』

「それなのよ。アタシもそれを心配しているんだけど、何にも分からないから」

『それは誰でも不安になるよ。早貴だけじゃないからね、そうなるのは』


 自室の真ん中で立ったまま電話をしていた早貴。

 千代の声を聞いて少し安心したのか、ようやくベッドに座る。


「事件の事、タクの様子、千代たちへの影響、自分の立ち回り……。色々考えていたら悩んじゃってさ」

『よく電話してくれたね。そういう時こそ連絡して欲しいからさ』

「アタシちゃんと連絡したよ」

『うん、いい子だよ。それでいいの。あたしも安心するしね。なでなで』

「なでなで、ありがと」

『あのさ、早貴に会いたいな。会って話さない?』

「千代と会うのはいつでも歓迎だよ」

『それじゃあそっちに行くわ』

「今から来るの?」

『いっそそうしようよ。夏休みだし、何も問題ないわ』


 千代は無性に会いたくなったようだ。

 それも早貴が不安を感じているとなれば、じっとしていられるわけがない。

 早速、時子に連絡をする。


『千代ちゃん、わざわざ連絡しなくてもいい家でしょうに。いつでも来なさいな。それに、是非そうしてあげて。あの子は来てって言いたいんだろうから』


 小さい頃からわざわざ連絡なんてせずに綿志賀家を訪れていた。

 それなのに今回は珍しく時子に行くための連絡をしている。


『千代ちゃんがそんなに慌てるなんてらしくないよ? いつも通り、華麗に登場してよ』

「そんな華麗だなんて。そんな風に思ってくれていたんですか?」

『お世辞よ……あはは、本当よ。千代ちゃんは美人さんだからね。突然現れても嬉しいしかないわ』

「……ありがとうございます。それじゃあお邪魔しますね」


 電話を切ってそのまま出ていく準備をする。

 透に一言行ってくると言い残して素足にサンダルを履いて出ていく。

 Tシャツに短パンスタイル。

 夜でも美脚は映えている。

 そんな子が夜道を歩いている方が危ない気もする。

 幸い目的地は徒歩で五分掛かるかどうかの距離。

 それを早歩きするのであっという間に綿志賀家に到着した。


「久しぶりにただいま! お邪魔しますね」

「千代姉ちゃんだ、おかえり! 相変わらず綺麗ですねえ」

「ありがと。そういう香菜ちゃんも美人レベル上がっているわよ」

「やった!」


 千代は、片手を二度ほど開け閉じして二階へと上がっていった。

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