第5話 気づけば迷路、気づくと出口
「これで設備は問題無いけど……仕事、どうしよ」
珍しくアイデアが浮かばない多駆郎。
新技術の開発を急かされているが、どうにも案が出てこない。
そんな状況では何もやりようが無く。
よって作業を行えない。
スランプスパイラルに陥っていた。
「浜砂さんから幾つかアイデアを出してもらおうかな。せめてヒントになりそうなことだけでも」
いよいよ浜砂にも頼ることを考え出した。
これまで何でも一人でこなしてきた。
今回のような壁に当たったのは、初めてである。
経験が無いと立ち回り方の検討がつかないから慌てる。
浜砂の帰った後、家で一人只々焦るばかりの夜を迎える多駆郎であった。
◇
多駆郎と連絡が取れなくて困っている早貴の携帯が鳴った。
「タク!? はい、もしもし」
『あ、こんばんは。木ノ崎だけど、今話できるかな』
早貴はあからさまにがっかりした表情。
そんな様子が分かるはずも無い木ノ崎。
声は浮き立っている。
「えっと……今は無理かな」
『何かあった? 良くない事があったなら掛けなおすよ』
「ごめんね。ちょっと今は余裕が無いから」
『いや、こっちこそごめん。気を悪くしないでくれ。それじゃあ』
多駆郎との連絡が取れないことで頭がいっぱいの早貴。
木ノ崎のタイミングは悪過ぎたようだ。
浜砂との連携話があったばかり。
木ノ崎的にはスイッチが入った状態。
完全に肩透かしを食らっていた。
「間を開け過ぎたか。全く興味が無くなっちまったみたいだ」
放り出した携帯が着地するのに合わせるようにソファーへ身を下ろす。
天井を見ながら足を組む。
事が上手くいっていない時によくやるスタイル。
「くっそ! 本気になるとこうなる。ずっとそうだった……」
今までの付き合いが脳内を通り過ぎる。
それは古傷を見ているということ。
下唇を噛みしめながら片腕で目を覆った。
◇
「早貴?」
「さっきから電話しているんだけど、出ないのよ」
「あら」
自室で連絡を待っているだけでは手持無沙汰になるのだろう。
何か飲むためにリビングへと降りた早貴。
母の時子から様子を聞かれていた。
「なんかさ、こうしたいなって思うと上手くいかないね」
時子は早貴の方をちらっと見て、優しい笑顔をする。
「どんなことでもそんなものよ。何故だか人の欲、特に一番気合が入ったものは目立つのよ。当然よね、気合が入っているんだから。それをただ見つかってしまった事として終わらせてしまうか、相手へのプレッシャーに変えるか。それが勝負の分かれ目なの」
「勝負って……」
「勝負よ。勝ったものだけが笑う権利を与えられる。なあんて堅苦しい言い方しちゃったけど、上手く行かないって思うより、今の自分は楽しいことをしていると思った方が良くない?」
呆気にとられている早貴。
そして久しぶりに母親としっかり話していることに気づく。
「お母さん」
「何?」
「お母さんなんだね」
「そうよ。あんたのお母さんですよ~。美人姉妹のお母さんになれて良かったわ~」
洗濯物にアイロンをかけている母。
その姿を微笑みながら早貴は眺めていた。
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