第8話 温まる夜と冴えない夜

『私もいるんだから、頼ってよね! 話を聞くぐらい出来るし!』


 三人女子会の中で香菜が発した言葉だ。

 二人きりになった早貴の部屋。

 話はまだ続いていた。


「香菜ちゃんがああ言っていたけどさ、最近話していないの?」


 途中で追加されたアイスティー。

 ポットから注ぎながら千代が尋ねる。


「今日みたいにいっぱい話したのは久しぶりだね」

「それは寂しいぞ。あの子は早貴の事が大好きだからね。あたしより早貴の方に憧れているんだから。早貴が仲良くしている人ってことがあたしに興味を持った理由だもん」

「千代は魅力的なんだから一目で好きになるでしょ。アタシがそうだし。香菜だってそうだよ」

「おい、姉! 妹の事が分かっていないぞ。自分が妹にとってどれだけ大切だと思われているか、ちゃんと汲み取ってあげてよ」

「はあ。香菜がアタシのことを好いてくれているのは分かるしアタシも香菜は大好きだけど。アタシの思っている以上に香菜は思ってくれているって事?」

「そうよ。まったく、本気で鈍いのは困るぞ~。みんな知っているからそれを責めたりしないんだけどさ」

「なんだか凄く迷惑かけているみたいで申し訳ない」

「放っておけないだけよ。その魅力に振ったステータスはチートなんだからね」

「チートって……。やっぱり迷惑なんじゃ――」


 千代は脳天を軽くチョップした。

 振り下ろした手は退かしていない。


「もう言わなくていい。あなたはみんなに好かれている素敵な人なの。だからあたしは一番近い人になりたかった。もっと堂々と、自分らしくしてよ。あたしも頑張るから」

「またデレデレしてる。千代は最初から傍にいるじゃない。アタシよりデレちゃって。離す気なんてさらさらないから」

「ありがと。……それは置いといて。とにかく、もっと姉妹話をしなよ。どんな些細な事でもいいから声を聞かせてあげて。ちゃんと姉を補充しておきなさいね」

「千代は時々アタシの姉になるよね。それが凄く助かるんだ」


 二人の話は当分終わりそうにない。

 早貴の部屋はそんな二人の醸し出す温かい空間を優しく包み込んでいた。


 ◇


「研究所に連絡するか」


 多駆郎は二階の部屋で一人の時間を過ごす。

 夜空に相手をしてもらいながら。

 パソコンの前で自慢のペットボトルティーを飲む。

 緑茶と書いてありながら茶色いのを気にしながら。

 連絡をするために携帯を掴む。

 うつ伏せにされていた携帯。

 主にようやく起こしてもらい、仕事を始める。

 画面のバックライトを点灯した。


「あれ?」


 映し出される通知欄。

 チャットと着信があったことを告げていた。


「早貴ちゃんからだ。心配させちゃったかな。全然連絡していないもんな」


 複数回の履歴を見てしばらくの間動きを止めていた。


「ゆっくり話すためにも所の方を先に済まそう」


 幼馴染への連絡を、苺のショートケーキの苺を残すように後にする。

 研究所へと電話をする。

 多駆郎の窓口となっている研究員が対応した。


「そっかぁ、それは参ったね。これまでの事を思うと多駆郎くんが行き詰まるとは。上には伝えておくよ。こちらももっと頑張るんで、一人で背負う事なんて無いからね」

「買いかぶり過ぎでしょ。ただの大学生を何だと思っているんだか。これを何度言わせるのか」

「参ったな。まったくその通りでして。それで浜砂さんに助手として付いてもらったわけだから。彼女とゆっくり練ってみてよ。そのうち閃いて一気に作業が進められるようになることもあるかもしれないし」

「秘匿事項を離さずに開発について相談をしろという事が物凄く無理がある」

「……確かに。そういうやり難さがアイデアを出なくさせているかもだね。彼女に言える範囲を広げてもらうように上に聞いておくよ。分かり次第すぐ連絡する」

「本当に頼むよ。自分の時間を削っているんだからさ。あ、あと妨害電波が解消されてからは特に何も起きていないよ。妨害絡みの情報はない?」

「これがまだ何も掴めなくてね。申し訳ない。予想は付くんだけど裏が取れないとね。その裏を取られたくないからか、相手さんも静かにしているようでね。監視は日増しに強化しているから、もう少し辛抱してくれ」

「了解」


 結局、何もない事の確認しかできなかった。

 開発についてはこれまでより焦らなくても良くなったぐらいか。

 納得できないまま。

 何も進捗が無い事を連絡するために再度携帯を弄る多駆郎だった。

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