第3話 三体のヒューマノイド
「ヒューマノイド? 噂の範疇にすぎないものだとおもってたが、本当にまだ、そんな物を開発していたのか?」
桂屠がまだ戦地にいた頃、世界各国ではヒューマノイドの研究が盛んになっていた。大型兵器が増えたためそれを戦力を削らずに破壊できるというのが注目のポイントだった。
「ええ、研究は難航してたけどね。そもそも、ヒューマノイドのブームというのがAI技術などがよくわかっていない一般市民によって後押しされたものだったもの。理解が浅いのは仕方のないこととはいえ、従来の研究の通りに進んでいった他国は全滅していたわ」
けれど、日本は違った。小馬鹿にした表情から一転、熱っぽく神室は語る。戦力、資源の乏しかった日本という国はこの研究に最も力を入れたそうだ。
「けどね、ヒューマノイド第一号は破滅したのよ」
「何故だ? 上手くいったから、フロウは逃亡したんじゃないのか?」
「だから第一号っていったでしょ、あの子は第三号よ。量産できる代物じゃないもの。けど、あなたも最前線で一つの地域を一人で制圧した噂は聞いたことがあるでしょう? それが第二号『傷だらけの天使』よ」
桂屠は唇をキツく噛む。その噂で軍が盛り上がっていた頃の少し前に桂屠は美式を失っていた。
「それは、今の国際法に触るんじゃないか?」
「どこの国もそれくらいしてるわよ。……まあ話を戻すと、開発中の超人工知能を持って行った。だからフロウはさっきのような救済とか言ったんだと推測されるわ」
神室は一瞬言い訳しようとしたが、桂屠の沈んだ表情をみて態度を改める。
「じゃあもしかして、呼び出した理由は?」
思ったより面倒くさいことに足をつっこんだかもしれない。桂屠は自分の想像していたよりも大きい話に焦燥感を覚える。
「ええ、私神室 菫(かむろ すみれ)は皇帝王の名に置いて室堂 桂屠に任務を与えます」
たじろぐ桂屠に格式ばった言い方で命令する神室。
「次の転勤先は最先端技術の粋を集めたといわれる混血国『コムラ』ですよ」
にたぁと女狐のように口端を吊り上げ愛おしそうに神室は桂屠を見つめた。
桂屠が帰った後、神室は一人になったテーブルで紅茶を飲んでいた。
ワインを飲みたいのは山々だが、万が一急に栄養検査がはいってアルコールが検出された日には大問題になってしまう。
ノックが聞こえた。肘掛けにつながっているカメラで確認すると、側近護衛の宮内が立っている。
実をいうと神室はあまりこの女性が得意ではない。確かに実力、実績共に優秀であり、女性の社会進出の立役者のような人間だが、時々向けられるねっとりとした視線が不快で仕方がなかった。
何より、桂屠との話の余韻を上書きされたくなかったのだ。
「入室を許可します」
憂鬱を悟られないように返す。普段というより桂屠以外には全てこの口調である。幼少から散々教えられ為苦労はしないが、自分の思い通り言えないことにもどかしさもある。
ドアが開き武装している宮内が入ってくる。
「神室様、大丈夫でしたか? あの男に何かされたなどは?」
「話し合いは特に問題なく進みましたよ。ところで、何故あなたはそこまで桂屠を目の敵にするのかしら?」
立ったままでいる宮内に以前から気になっていた疑問を投げかける。
「目の敵している意識は無いのですが。皇帝王があの男に甘くしているのが癪に触ってしまったので。もし、問題があれば接する機会を減らさせていただきますが?」」
それすなわち桂屠との話し合いが減るということだ。全く、この女性は非常に性格が悪い! と神室は腹を立てる。
しかし、その感情を表面にはおくびにも出さずに流す。
「いえ、問題ないわ。それで、ほかに何か報告はあるの?」
露出された太腿をちらりと見られた。ゾクリと感じるがグッとこらえて続ける。この程度は日常茶飯事。
「報告は以上です。では、失礼します!」
宮内は敬礼と共に退出する。監視カメラで宮内が寮に戻ったところまで確認してようやく神室は布団に潜る。
照明が落ちるのと同時に意識が落ちていくのを感じる。
「いつか桂屠が私のことを好いてくれますように」
出来ないとわかりつつも年に見合った笑顔を浮かべながら目を瞑る。
彼女は恋を知っている。
皇居での話し合いを終え、桂屠は家に着くと直ぐに寝ることにしていた。
「ただいま」
「お帰りなさい! ……桂屠さんもしかして海にいってましたか? お風呂がありますから沸かして入りますか? 心配してたんですよ!」
玄関を光彩認証で開けて中に入ると、ロングスカートのメイド服の永久が抱きついてきた。桃色の髪に紫のリボンがゆっさゆっさと目の前で踊る。
溜まっていた感情が爆発したのか永久は凄くテンションが高い。
「すまん。帰りに神室のところに寄ってきたから時間掛かった。とりあえず疲れた、体がしんどい。そして寝たい」
「しょうがないですね。お疲れ様です。明日の朝、風呂に入ってくださいね」
愚痴のこぼしながら寄りかかると永久の温かさと柔らかさが相まって頭から力が抜ける。永久に抱えられ寝室に連れて行かれる。
「はい、どうぞ。明日は何時おきですか?」
「助かる、ありがとう。仕事あるから風呂はいることも踏まえて8時半に起こしてくれ」
「了解です! おやすみなさい!」
灯りが消え、タッタッタという永久の慌ただしい足音を聞いて桂屠は眠りについた。
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