第180話:相部屋
奇龍目線
神咲班で集まって写真を撮った。沢山沢山写真を撮った。厩でも教室でも。まるでここにあった日常を形に残そうとしているように見えた。姉ちゃんと凛音は最初は大泣きしていて蒼桜先輩も雨梨も目が潤んでいた。俺はなんだか実感が湧かなかった。寮に帰ったら先輩がいる。班に行ったら姉ちゃんがいる。そんな気がしていた。明日も明後日も明明後日も。変わらない気がしていた。でも写真を撮っていくにつれて段々2人が卒業するための儀式をしているように見えて、急に心がポロポロと崩れて穴が空いていくようだった。ここ数日雨梨と凛音が寂しがっていたのも、辛そうだったのもこれだったのか。
写真を撮り終わって、2人はクラスメイトとかとも写真を撮るからと解散した。雨梨はラボの先輩と写真を撮ると去っていき、凛音は明日以降の準備を手伝うために生徒会室に行った。見知った先輩も他にいないし、寮に戻ろうとして歩いていると急に視界が曇った。
「なんでだよ…なんで今急にこんな…。」
嗚咽が漏れる。なんだか寮にも戻りたくなくてよく馬を連れて行っていた草むらへ行く。その近くの木の影で膝を抱えていた。
しばらく経ったのだろうか、夕日が差し込んできた。泣き止んで泣き疲れて寝ていたようだ。
「起きなきゃな。」そう呟き木の影から出て寮に向かっていると目の前から見た事のある影が近づいてくる。
「蒼桜先輩?」
「奇龍!」
「うっ…。」せっかく泣き止んだのに、姿を見たらまた堪えられなくなった。
「奇龍…。」
「先輩、なんでいなくなるんすか。仕方ないって分かっててもいなくなるって寂しいです!俺毎日先輩と起きて洗面所で並んで歯を磨いて馬の世話をして学校行って…1番そばにいました!それが明日もそのあともずっと続くと思ってしまって…寂しいんです!」
「奇龍。ありがとう。そんなふうに思ってくれてたんだね。」
泣き止まない俺を先輩は抱きしめる。
「卒業するって言ったって今生の別れではないのだからそんなに泣かなくていいんだよ。」
「分かってます!でも…でも!」
泣き止むまで先輩は俺を抱きしてずっと頭を撫でてくれていた。
「すっかり夜になってしまって…ごめんなさい。」
「奇龍があんなに泣いて寂しがってくれるなんて思わなかったな。」と笑いながら、羅希には内緒にしてくれると言ってくれた。確かに姉ちゃんにだけは知られたくない。
「寮の部屋で2人の写真沢山撮ろうな!」
「はい!」
「早く帰ろう!明日退寮だし、最後の寮の時間も楽しまないとね!」
そう言う先輩の横に立った。今日が先輩と俺が相部屋でいられる最後の夜だから。
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