第172話:無邪気な君と終わり

羅希目線___




 狭いところでの戦闘だし、拳銃を使うしかない雨梨と奇龍は援護射撃要因だ。前線にいるのは私と凛音。さすがに体力の消耗が激しすぎて凛音が討ちこぼすのも増えてきた。1人始末し目の前の敵を見る。…子供?震えてる子供がいる。見た感じ中学生に上がったばかりだろう。白軍…いや赤軍はそんな子も死地に送るの?


「お姉さん…。」


 腹部に熱いものを感じた。咄嗟に避けたけど掠めたか。


「お姉さん油断してたからいけると思ったのに…。」


「君、何歳?」


「僕?僕ね、17歳だよ!」


 ぴょんぴょんと跳ねながら答えるその子はまるで無邪気に遊ぶ子供だった。


「高2…。」


「中学生に見えた?僕って可愛いもんね!みーんな僕の可愛さに油断してたった一発の弾で死んじゃうのに…お姉さん意外とやるんだねー!」


 掠めたところが脈と共に痛む。案外深くやられた。疲れていたとはいえ、相手が子供だったとはいえ、隙をつかれた。その子供はいくら刀を振ってもするりと避けてしまう。永遠にやり取りを楽しむように攻撃もしてこない。体力だけ削られていく。1人を相手にするわけにもいかない。まさに今どんどん後ろの3人の負担が増えてるわけだし。


「よそみしないでよー!僕と遊んでる最中でしょ!さいてー!」


 本当に子供だ。無邪気に遊んでいるようだ。


「可愛い顔してるけど、本当に殺しできるの?お子様は家で大人しくお母さんのご飯でも食べてな。」


「ふーん。そう思うんだ!殺しなんて簡単だよ?」と言い終わるか否か壁を伝い、拳銃をこちらに向けてくる。反射的に避けたが確実に足を狙ってきた。斬りつけようにも壁や天井に行かれると困る。


「奇龍。」


「分かった!」


「えー、2対1はひきょーだよ!」


「そうは言っても遊びじゃないならな!こっちはよ!」


 奇龍が撃つと相手の動きが限定される。本当は仕留めたいのだろうけど、なかなか相手もすばしっこい。だけど限定されるだけで充分。


「うっ…。」可愛い声が漏れた。その隙に奇龍の弾は可愛い彼の太ももに直撃した。可愛い彼は床に落ちた。


 私の刀は相手の左肩に深く刺さった。


「すぐ楽にしてあげる。」


「僕…死ぬの…?」左肩を抑えこっちを見てくる。その目には純粋な疑問の色が浮かんでいた。


「そうだよ。最期まで君は子供だったね。」


「負けちゃったのか。…これ以上痛くしないでね、僕痛いの嫌いだから。」


「分かった。…せめて今度生まれてくる世の中は思いっきり遊べる時代だといいね。」


「そうだね。お姉さん。」


 彼の体はその辺に転がっている仲間たちと同じように動かない障害物になった。子供のまま歳をとって子供のまま死んでいった…。私は子供を殺した。


 今までの疲れと腹部からの出血で壁に手を着く。


「姉ちゃん大丈夫!?」


「大丈夫。」


「羅希変わるよ。」


「班長こそ引っ込んでなよ。だいぶそっちに敵行ったでしょ?」


「大丈夫。今、凄く体が動くんだ。」


 人間は死を感じると体がよく動くと聞いた。早く終わらせないと…。


「それでもけが人は引っ込んでな。」と笑うと


「何かあれば呼んで欲しい。」と言い、引き下がった。


 どんなにいい人も悪い人も戦場では等しく死と隣り合わせだ。だからこそいい人を死なせないように頑張るしかない。蒼桜君はいつも私たちを守り導いてくれた。そんな人が報われない結果は嫌だ。




「凛音!」


「はい!」声だけは元気を出そうとしているが、血だらけでかなり疲弊している。限界なんて全員もう超えてしまった。だからこそ。


「最後一気にいくよ。」


 その声に頷いたのを確認し、両足に力を入れる。


 あと5人。たったあと5人だ。




 その後の記憶はほぼない。飛び交う弾丸と血。血まみれの凛音と蒼桜君。もう踏み込んでいるのか倒れかかっているのか分からない状態だった。


「班長!」


「これで終わりだ。最後の1人だよ、羅希。」その声でどっと力が抜けた。


 フラフラの足で蒼桜君の元に行くと、両脇に雨梨と奇龍がしっかり支えていた。血の色が抜けて今にも死んでしまいそうな顔色だ。


「よく頑張ったな、ありがとう、みんな…。」


「今運ぶんであんま話さないで下さい!結局無茶させてすみません!!」


「こちら一条です。停戦協定結べました。そちらは大丈夫ですか?」


「3年九万里。神咲が急患。残りも無傷ではないからこの病院の救命救急センターに話付けてもらえる?」


「分かりました。」


 とりあえず被害は出さなかったな…。よかった。


「羅希先輩。」


「凛音。私は大丈夫。」


「血を出してフラフラ歩いている人が何を言って…肩ぐらい貸させて下さい。」


「大きくなったね。」


「ここまで大切に育てて下さったのは先輩方ですよ。って言っても結局2人におんぶにだっこでした。まだまだ2人には追いつけなそうです…。」


 頭をわしゃわしゃと撫でると少し頬を赤らめた。


「凛音!」


「猫音!」


「とりあえずみんな緊急治療室来て。段取りはつけたから。」


「ありがとう。」


「九万里先輩大丈夫ですか?」


「ありがとう。大丈夫。」

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