第167話:姉弟の握手
羅希目線___
弟はどこか吹っ切れた顔をしている。私はその顔を戦場で何回も見た。
「奇龍。何もしない方が狂うからって言ったわよね。」
「なんだよ、急に。」
「嘘が下手ね。けー君と同じで。」
「は?」
「何もしない方が狂うんじゃなくて、狂い始めたから死にに来たんでしょ。」
一瞬見た弟は口をぎゅっと結んだ。わかりやすい。けー君は嘘をつく時左側の口角を上げて口を開けて笑う。弟は反対に口を固く結ぶ。
「いい。死にたいとかそういう話は後で聞くから。今日あんたが死にかけたら私が死んでも守る。」
「姉ちゃん…。」
「バカな弟でもね、私はあんたとずっと背中合わせて生きてきたと思ってるの。あんたが居なくなったら誰が私と張り合ってくれるの?」
「蒼桜先輩とか…。」
「ばかなの?弟だから容赦なく張り合えるんでしょ!私の弟はあんただけなんだから、簡単にその責任他の人に押し付けないでよ!」
「うるさいな。」
「そもそもあんたのせいなのよ、私が昔死ねなかったのは!」
「どういうこと?」
「あんたがけー君に裏切られて死にかけた時、晴人君が死んで、班長と私だけ生き残ってたでしょ。死にたくて死ねる方法ばっかり考えてた。だけどね、あんたの病室に行って、あんたにお別れを言ったらさ、あんた手を強く握ってきたんだよ。意識があるのか分からないあんたが私を離さないように強く離してくれなかった。だから今私はここにいる。」
「知らねえよ。そんなの。」
「そのせいで私は死ねずに生き残って大切なものが増えて幸せを感じてしまって未来に期待しちゃってるの。責任もってあんたも幸せになりなよ。いや、ならないとだめだからね。」
「姉ちゃん…。」声がやけに湿っぽい。
「あんたがいくら手を離してくれと暴れても、手首を折ってでも離さないから。これから先私達が遠く離れて、死にたくなる失敗も過去も増えていったとしても、私達は姉弟だからどこからでもあんたの手を握りにいく。バカな弟がバカなことしないようにね。」
「姉ちゃん…ありがとう。」
「素直でよろしい。」
弟を励ましているうちに狭い廊下で15人くらい掃討した。さすがに極度の疲労で壁に寄りかかりながらずるずると座り込む。
「姉ちゃん!」
「あんたは体力おばけなの?」
「うるさいな!」
心配してきた弟の手を掴むと、恥ずかしそうに弟は握り返してきた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます