第163話:vs巨体

蒼桜目線___


「お前は…あの時の巨人か。」


「あのひょろひょろで投げ捨てたやつと再会出来るとはな。俺は一度手に掛けようとした獲物を邪魔されると不愉快極まりないんだ。これはついてるぜ。筋肉がそう言ってる。」


「雨梨、先に行って。」


「でも…!」


「そうだよ、お嬢ちゃん。さっさと行け。男なら1対1でやり合わないとなー!」


「雨梨、先に制圧してきて。すぐ行くから。」


「分かりました。」


「威勢のいいことだ。だけどおかしいな、ここには怪我人病人しかいないからストレス発散がてらつまみ潰しに来たってのにな。」と全身を見られる。この格好なら怪我をしているようには見えないだろう。怪我していることをばらさないように話を変える。


「悪趣味だね。」


「そうか?人間の死に際っていいぞ。筋肉がゾクゾクと感じて喜ぶからな!」


「本物の脳筋サイコパスか。」


「サイコパス…いいなそれ!かっこいい!俺の筋肉にふさわしい響きだ!」


「狂ってる…。」なんだ。本当に分からない。身長は180cmはゆうに超えている。筋肉は今にも服を引きちぎりそうだ。逆にこんなに体格のいい人の服がある方が驚きだ。


「俺はさ、人殺したいから軍人してんだよ。」


「は?」


「革命だとか平和だとか興味はねえ。ガキの頃近所の野良猫を殺した時、俺は強さの美味しさを知った。合法的に殺戮を繰り返せるのは軍だと知って軍に入った。お前は違うのか?」


「違うしお前に言う筋合いもないね。」


「そうか、お前はひょろひょろだけど芯は強くて虐めがいがありそうだし、さっさと始めるか。」


 相手は刀を振り回してきた。それをなんとか避ける。これは避けきるのに精一杯だ。


「なんだよ、ちょろちょろ逃げやがって。」


 脇のすれすれを刀が通った。


「惜しいな!!!」


 空いた右手は俺を掴もうとする。これだけ大きな動きをすれば弱点だって多い。だけど踏み込みすぎた瞬間に掴まれる。掴まれたら俺は逃げれない。


「神咲、引くな。引いても相手は迫ってくる。それよりも一歩入ってしまえ。人間は前に出るより後ろに下がる方が苦手だ。その隙を狙え。」


 桐谷先輩の言葉が脳裏を過ぎった。相手が大きく振り下ろした瞬間、俺は懐に入り込み刀を突き刺した。


「うぐおおおお!いってええええ!」


 すぐに抜き間合いを取る。急所は避けられたが深く刺した。


「お前、いてえな!!!俺は痛いことされるのが嫌いなんだよ!!!」


「人にするのは好きな癖にね。」


「お前を普通のやつ以上に痛めつけてやる。死にたくても痛みで気絶出来ないくらいにしてやる。」


 さっきよりも動きが軽快だ。刺されたはずだ。なんでだ。


 背中を掴まれそうになり避けたが、相手の手は拳を作り俺の背中を殴ってきた。痛みから視界が一瞬白くなり、声にならない声が出た。俺は痛みから立ち上がれず小さな声を漏らしていた。


「背中怪我してたのか。なんだ怪我人なら言えよ。」思い切り蹴られ、俺は転がる。痛みで視界が霞む。息も絶え絶えになっている。


「いいな、その表情が好きなんだ。痛みで涙目になっているだろ。最高に快感だな。まずは腕から行こうかな?」


 相手がゆっくりと近づいてくる。次喰らえば俺は確実に死ぬ。


 俺の左手はまだ刀を握っていた。痛みの中でも無意識的に刀は手放さなかった。そうか、そういえば俺は…


「諦めが悪かったんだった。」


「ん?」


 地面を蹴る。痛みで視界が狭くなったが目標地点を見失わなかった。


「ぐっ…。」


 俺の刀は相手の心臓を一突きにし、相手の手は俺の背中の傷を掴んでいた。背中の手は徐々に離れていき、巨体は大きな音を立てて地に臥した。

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