第154話:さよなら、奇龍

奇龍目線___


 苦しそうに口の左側を上げて笑う桂樹を見ていられず、目を閉じた。




 だけど肉を割く音は聞こえても、俺は痛みを感じなかった。そして暖かい…。死んだのか。


「本当にうちの後輩は…無茶ばっかするね。そんな所…俺らに似なくていいのに…。」


「そ、蒼桜先輩!?」


 なんで。目を開け上を見ると俺を庇うように蒼桜先輩が俺を抱きしめていた。


「後輩が危険な目に…合わないように…考えるのは…先輩の役目だよ…。」


「蒼桜先輩!」


 よく見ると先輩の背中には俺に向けられたナイフが刺さっていた。


「先輩話さないでください。急所は外れてても重症ですよ。」


「雨梨もなんで!?」


「ゴホッゴホッ。はぁ…奇龍、一緒に帰ろう…。司令部と諜報部隊には謝っておく…から…。」


 先輩は苦しそうにズルズルと崩れていく。


「先輩!!!」


「旧友との涙の別れに割って入って、三対一はずるいよ。神咲蒼桜さんと百鬼。」桂樹は拳銃を向けてきた。俺にではなく蒼桜先輩に。


「桂樹やめろ!やめてくれ!」


「だってここで始末しておかないと俺が殺されちゃうでしょ。」


「月花。今回は互いに見逃そう。」


「そんなの信用ならないね。そこの神咲さんを殺したら信じてもいい。」


「桂樹信じてくれよ!」


「奇龍の頼みでも無理だな。だって俺らだけのここに部外者が2人も侵入したってことは、お仲間が来る前兆だろ?それにお前は初耳だろうが、俺には神咲さんと百鬼を殺せというミッションも課せられてるんだよ。羅希さんはお前の姉ちゃんだから暗殺しないように俺頼み込むの大変だったんだぞ。」


「つまり僕らを殺すつもりだってことだよね、月花。」


「百鬼…いや岩倉。そんな怖い顔するなよ。」


 岩倉…。雨梨が岩倉だと桂樹は知ってる…!


「はぁっ…。」


「先輩!」


 蒼桜先輩が血を大量に吐いてる。呼吸も苦しそうだ。どうしよう。


「奇龍…雨梨…月花を…殺れ…。」


 桂樹を殺す…。


「了解しました。奇龍、急がないと先輩が死ぬ。だから月花を殺るよ。どっちかは必ず死ぬ。」


 俺は苦しむ先輩と桂樹を交互に見た。


「奇龍、お前が今からでもこっちに来るなら、今回は2人は見逃すぞ。それにそのナイフは軽く毒が着いている。奇龍なら体が麻痺して数日動けない程度だろうが、その人だと分からないぞ。深く刺さってるし毒より前に出血で死ぬかもな。」


「俺が赤軍に…。」


「奇龍、早く覚悟を決めて。月花を殺るよ。」


「奇龍…。行っては…だめだ…。」


 俺は…俺は…。


「俺は…お前のことを引きずりながら生きていく。俺にはもう前も後ろも横もいる。俺は黒軍騎馬兵団神咲班所属九万里奇龍だ!!!」今の仲間を選ぶよ。


「そうか、残念だ。さよなら奇龍。」

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