第63話:花火と消えたもの
蒼桜目線______
今日はついに花火大会の日だ…。俺は浴衣を着て待ち合わせの場所に着いたけど一時間ある…。早すぎか。と我ながら落ち着かなさに笑ってしまう。周りは親子連れ、友達同士そしてカップルを見かける。この田舎町で一番大きなお祭りだから、隣町とかからも人が来るし、今日は街全体が盛り上がってる気がする。
「あれ?神咲?」
「お!久しぶりー!卒業以来かな?」中学時代のクラスメイトに会う。
「そうだな!お前が同窓会来ないから、超久しぶりだな!」
同窓会はちょうど二年前、白軍と衝突してて夏休みがずれて行かれなかったんだ。
「学校の休みがずれてね、行きたかったけど行かれなかったんだー。」
「そっか、お前大和だもんな。やっぱりドンパチやるのか?」
興味深々で聞いてくる元クラスメイトには申し訳ないけど、外にはあまり漏らしてはいけないことになってる。
「まあね、結構怪我とか多いよ!」
ごめんな。
「大変だな!あ、今日は花火大会誰と行くんだ?」
「後輩とね!中高一緒の子がいるんだよ。」
「もしかして一緒に帰ってたあの子?」
「そうだよ!よく覚えてたね!」
「そりゃー神咲の女かと思ったからな!」
ニヤニヤとしてる元クラスメイト。
「そうだったんだ!」
普通はそう見るのかな?と聞こうとしたら、
「蒼桜にぃ!あ、こんにちは!」
「こんにちは!じゃあ神咲またな!」
「じゃあな!」
「誰?」
「中学の元クラスメイト。それより…。」
可愛い…。青系の浴衣でおとなしめな感じだけど良く似合ってて、この髪飾りは…
「蒼桜にぃがくれたかんざし着けてみたんだ!似合わないかな?」
桜模様のかんざしは凛音の綺麗な黒髪によく似合う。
「ううん!すっごく可愛い!!」
「そうかな?」
凛音の頬も少し桜色に変わる。
「うん!じゃあ移動しようか!」
男も浴衣着ている人は珍しく、結構目につくからか知らないが、少し後ろを歩いている凛音が下を向き歩いている。
「凛音、手繋ごう!人多いから離れないように!」と手を握り歩くと
「恥ずかしいよー。」
そんな照れる顔が可愛くて手を握ったまま先に進む。
「ここら辺でいいかな?」
「うん!」
凛音が持ってきたシートを広げてた。二人で座るからいつもより距離が少し近いのか、凛音の髪からいい香りがする。俺変態だ。少しのことなのにドキドキする。いつの間にか子供から大人になった凛音。泣いていた凛音がいつのまにか強くなって、仲間の為に動くようになった。成長したな。
「ねえ凛音、学校どう?」
「え?楽しいよ!」
凛音の口から学校が楽しいって言葉が出た。
「それは良かった。そうだ、凛音は卒業したら何になりたいの?」
「うーん…まだわからない!でも!」
「ん?」
「人の役に立ちたい!」
そうか。いくら成長しても凛音は凛音だな。
人の役に立ちたい。
その言葉がどこか胸につっかえる。
「蒼桜にいは大学行って卒業したら何になるの?」
「教師かな。子供と関わる仕事がしたいんだ。」
俺らの学校は黒軍だからいつ死ぬかわからない。だから未来の話をしたがらない人も、未来のことを考えない人も多くいる。でもこうやって凛音と一緒にゆっくり将来の話が出来るって幸せだな。暗くなってきた空に音が響く。
「花火大会の始まりです!」
「始まった!!」
嬉しそうに空を見上げ花火をみる凛音の横顔は大人っぽく、でも幼さが残っていて綺麗で、そんな妹のような凛音に告白して自分のものにしようとしている俺は汚れているんじゃないかな。
「蒼桜にぃ!あれ!」
特大花火。その後にはハートの花火…。
「綺麗だね。」
「ねえ、蒼桜にい。」
「ん?」
「私ね、寮を出ようと思ってる。」
今…なんて?俺の口から漏れた言葉は花火の音にかき消された。
「ほら、おじいちゃん達が一緒に住もうって!お父さんにも高校の間はそれでもいいって許可もらったし。
おじいちゃん達と住んでみようかと思ってね!」
「寮が合わなかった?」
「違うよ。寮は好き。でもね、お父さん以外の家族と会って、一緒に暮らしてみようって思ったの。」
目の前にいるはずの凛音が遠くに行ってしまった気がする。
「それはもう決めたこと?」
「うん。」
「なら…仕方ないよね。」
凛音は決めたことは曲げない。仕方ない。そう、仕方ない。
「寂しくなるけど、いつでも電話していい?」
「もちろん!」
「良かったぁ~!」と笑う凛音に俺は上手く笑い返せてるかな?
結局告白はできなかった。凛音が一人立ちするなら"兄貴"の俺は応援するべき。俺の気持ちを押し通すわけにはいかない。
高3の夏休みはこうやって前半が終わった。
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