第58話:羅希の昔話
羅希目線__
「ねぇ班長、ちょっと昔話しない?」
ふとそう言ってみると班長は動きが止まる。
「いいよ。」
「あの時のこと覚えてる?先輩たちがなくなった日のこと…。」
「うん。鮮明にね。」
ゆっくりと記憶の紐を解くように話し出す。
「羅希ちゃん緊張する?」と馬に乗り涼しい顔をしたくるみ先輩。
「はい…やっぱり戦争前はそわそわしますね…。」
「大丈夫よ!キリトと蒼桜君なんてずっとそわそわしてるし!蒼桜くーん!!!!!」
「なんですか?」
「そわそわしてるね!」
茶化されて恥ずかしそうに首をふる蒼桜君。
「神咲~まだ戦場になれないのかぁ~。」と2年の
「
「はいはい!」
「すみません、大丈夫です!」
「サク、東行無駄口たたくな。」
「了解!キリト班長!」
「キリトって呼ぶな!」
そんな感じで駄弁っては桐谷先輩に怒られるのがうちの班の戦争が始まる前の風景。まあ戦争が始まったらそんな余裕はなくなるんだけど。今日の戦争も必死に敵をなぎ倒す。いつもの戦争。
「一旦退却だ!」
遠くから響き渡る桐谷先輩の声。
「はい!」
と叫ぶように返事して馬の向きを変えようとした時銃声と共に馬のバランスが崩れる。
「うっ!」
落馬したと気づくまでに時間がかからなかった。敵がその間に詰め寄ってくるのがゆっくりと見える。
刀を握ろうと思ったら。
「っ!ない…。」
あ…落馬した時に手から離れたんだ…。私、死ぬんだ。
すると、
「おい!うちの後輩に何しやがるんだ!クソっ!」
「桐谷先輩…。」
「そうそう、うちの可愛い女の子に手を出さないでくれるかな…?」
「桜先輩も女の子じゃないですか?」
「生物学上は?なーんてね!」と先輩たちが集まってくる。
「それ以上近づくことは許さないからな。」と槍をひるがえして敵を近づかせないようにしている姿も見える。
「蒼桜!羅希連れて先に退却しろ!班長命令だ!」
反応を示さない蒼桜君に厳しめの声を浴びせる。
「蒼桜!」
「はい!羅希。」と私は蒼桜君の腕のなかにすっぽり収められ馬に乗せられる。
「蒼桜君…先輩たちが。」
しがみつき訴えると蒼桜君は目をそらし。
「上官と先輩の命令は絶対だから…。」と唇を噛んでいる。
「先輩!ご武運を!」
だんだん馬が離れていくと共に意識が遠のいていく。爆音と共に生温い空気と土の臭いが一気にくる…。これは…爆発!
蒼桜君がとっさに振り返り口を開ける。私は蒼桜君が盾になり全然見えない。
「どうしたの?」
「くっ…大丈夫だよ…。」とわざと見せないようにして、さっきより強く強く、まるで手放さないように抱きしめてくる。蒼桜君の臭いと土と血の臭い。
そのまま気がついたのは救護室の中だった。
「羅希!!」
「蒼桜…君?」
「良かった…。」
「蒼桜君泣きそう…。」
「な、泣きそうになんかなってないよ!」
「なってるよ!そういえば先輩たちは?」その瞬間蒼桜君の顔色が変わり、目をそらされた。…そうかぁ、わかりやすいやつ。
「連れて行って。」
「え?どこに?」
おどろくほど暗く低い声で聞いたせいか、蒼桜君は私の想いをくみとってくれない。
「先輩たちのところ。」
車椅子に乗って連れて行かれた場所はなんとなく分かってた。入った瞬間に暗くどんよりとした空気に包まれる。泣き叫ぶ声…。毎回戦争後のこの部屋は息が詰まりそうになる。とある白い布をかけられているところの前でとまる。
あぁ…。
「先輩方は素晴らしい…っ。最後だった…。」
「蒼桜君…。」
蒼桜君は車椅子ごしに私を抱きしめて、声を押し込めていた。だけど泣いていることはバレバレだった。
「泣かないで…。私のせいなんだから…。」
私があの時に落馬していなかったら。
「羅希のせいじゃない!…戦争のせいだ。」
「私が落馬したから。」と蒼桜君の腕を掴む。
「大丈夫?」
「うん。もう向き合うことにしたから。」
「強くなったね。」
「そう?もしそうなら凛音のおかげかな。…ねぇ、蒼桜君。凛音に告白するの?」
一気に顔を赤くする。
「まぁ、私の勘違いならいいんだけど、もしOKもらえたら、分かってるだろうけど凛音のこと守ってあげてね。私との約束。」
「うん。」と二人でペットボトルをあわせる。
これでいいよね。
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