第59話:蒼桜の昔話
蒼桜目線___
あの戦争を忘れられるわけない。
「蒼桜くーん!!!!!」
梅太郎先輩と蛍先輩に挟まれ、先頭にいた自分はくるみ先輩の声に振りかえる。
「なんですか?」
「そわそわしてるね!」
うわぁ、やっぱばれてる恥ずかしい。
急いで首を振る。
「神咲~まだ戦場になれないのかぁ~。」と2年の東行蛍先輩が茶化す。うちの班唯一の二刀流の先輩だった。
「蛍ほどほどに。蒼桜大丈夫か?」そう言うのは2年の才谷梅太郎先輩。槍使いの先輩。
「はいはい!」
「すみません、大丈夫です!」
今は梅太郎先輩の優しさが痛い。
「サク、東行無駄口たたくな。」
「了解!キリト班長!」
「キリトって呼ぶな!」
「一旦退却だ!」
遠くから響き渡る桐谷先輩の声。
「はい!」と叫ぶように返事して、馬の向きを変え、戻る時に背後から馬の鳴き声。思わず馬を止めて振り返ると羅希が…落馬!体がすぐに動かなかった。
「蒼桜、来い。」
動けない自分に桐谷先輩が通りすがり声をかける。
「はい!」
先輩の馬のスピードについていけず、羅希まで離れていたこともあり余計遠く感じる。敵がその間に詰め寄っていくのがゆっくりと見える。
「おい!うちの後輩に何しやがるんだ!クソっ!」
「桐谷先輩…。」
「そうそう、うちの可愛い女の子に手を出さないでくれるかな…?」
「桜先輩も女の子じゃないですか?」
「生物学上は?なーんてね!」と先輩たちが集まってくる。
「それ以上近づくことは許さないからな。」と槍をひるがえして敵を近づかせないようにしている姿も見える。
「蒼桜!羅希連れて先に退却しろ!班長命令だ!」
先輩を置いて先に?できない、そんなことできない。
さっき遅れをとった分、今!
「蒼桜!」
これは班長命令だ。
「はい!羅希。」と私は蒼桜君の腕のなかにすっぽり収め馬に乗せる。
「蒼桜君…先輩たちが。」
しがみつき訴えかける羅希と目を合わせられない。
「上官と先輩の命令は絶対だから…。」と唇を噛んでいる。
「上官と先輩の命令は絶対だから…。先輩!ご武運を!」
爆音と共になまぬるい空気と土の臭いが一気にくる…。これは爆発。とっさに振り返り砂煙の中爆発の場所を見る。あそこは…先輩方がいたところ!
「どうしたの?」
幸い羅希には見えてない。今は自分の命令を全うしよう。先輩方はそう簡単に負ける人じゃない。
「くっ…大丈夫だよ…。」とわざと見せないようにして、さっきより強く強く絶対手放さないように抱きしめる。羅希が運ばれ俺が戻ろうとする頃にはすぐに戦闘は黒軍の敗北という結果で終わっていた。先輩方と連絡もつかない。救護は人で溢れかえっている。そこをくまなく探し歩いた。厩舎に行っても俺の馬しかない。嘘だ、嘘だ、嘘だ。俺は無断で戦場跡に馬を走らせた。もうここからは記憶が曖昧だ。先輩方を最後にみたあの場所に行けば先輩方に会える気がして…。願いはかなった。そこにはもう息をしていない四人の姿があった。
「先輩…?」
どんだけゆすっても声をかけても声も反応も帰ってこない。
「すいません、遺体処理班です。この方々とお知り合いの方ですか?」
どれくらいそうしていたのだろう、いつの間にか黒軍の制服を着た人が立っていた。
「っ!はい…そうです。」
「わかりました、所属学年名前を教えて下さい。」
「高等部騎馬兵団桐谷班
3年桐谷晴人、桜くるみ
2年東行蛍、才谷梅太郎です。」
名前の書いたタグを一人一人につけていく、
「ご協力ありがとうございます。こちらのご遺体はこちらで回収しますので。」
馴れている。まるでいつものことのように。
そのまま戻って救護室の外に戻っていた。しばらくしてバスタオルの上で寝ていた俺は病室に入り羅希の手を握った。ただ、羅希までいなくならないでくれと願った。一瞬指が動いた?
「羅希!!」
「蒼桜…君?」
うっすら目を開ける羅希に
「良かった…。」としか言えなかった。
「蒼桜君泣きそう…。」
「な、泣きそうになんかなってないよ!」
「なってるよ!そういえば先輩たちは?」
羅希に伝えられない。
「連れて行って。」
「え?どこに?」
聞いたことないほど暗く低い声だったから聞き返した。
「先輩たちのところ。」
車椅子に乗って連れて行く場所は、入った瞬間に暗くどんよりとした空気に包まれる。泣き叫ぶ声…。毎回戦争後のこの部屋は息が詰まりそうになる。とある白い布をかけられているところの前でとまる。
あぁ…。
「先輩方は素晴らしい…。最後だった…。」
そう言うことしかできない。
「蒼桜君…。」
車椅子ごしに抱きしめて声を押し込めていたけど、泣いていることはきっと羅希にもバレバレだった。
「泣かないで…私のせいなんだから…。」
「羅希のせいじゃない!…戦争のせいだ。」
「私が落馬したから。」
どう返せばいいかわからなかった。違うよって言ったって羅希は救われない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます