第38話 終戦の魔王と計略の悪魔

 ――side帝国軍中央――


 残ったのは凪と二人の精霊。


「じゃあ、雑魚は頼んだよ。

 フィズズ」


「了解です。

 ナギ様」


 命を受けた精霊フィズズは背中に生えている翼をはばたかせ飛び立った。


 彼の名前はフィズズブレイシア、精霊フィズズ。

 第三世界線の上層世界“ラストエデン”と言う、天使族と魔族が争い合う世界、魔族側の王として天使族とのを講和という形で終戦に導いた魔王。

 だが、戦闘能力が無いというか真逆で突出した魔法と武術、双方の才能を持っている。

 後に戦争を終わらせた魔族の王として【終戦の魔王】との異名で称えられる。

 神権は《終戦の魔王》、単純な魔法、武術のスキル付与と大規模戦闘時の自身の能力強化や終戦に導いた背景から相手の足止めや交渉などに補助効果をもたらすが、根本的には個の強化と言う側面が大きい。


 フィズズは飛来する矢や魔法を躱しながら帝国軍の上を飛ぶ。

 最後列に居た帝国の王子集団以外の兵士たちの上を飛びながら魔法を撃ち落し兵士たちを気絶させていった。


「じゃあ、僕の出番だな」


「はい、その通りかと。

 あの皇子に関して戦闘力は気にするほどでは無いので、先に取り巻きの護衛を先に倒すことをお勧めします」


「うん、ありがとう、ノイマン。

 じゃあ、行ってくる」


「いってらっしゃいませ」


 僕は仕事を終えて戻ってきたフィズズと入れ違いに帝国軍に向かって一気に飛び出した。


 今回召喚した最後の精霊はノイマン、本名をファミラ・ノイマンと言う。

 第三世界線の下層世界“ルーマット”にてとある貴族のメイドをしていた人物である。

 彼女はとある戦に巻き込まれた際に先天的に持っていた超越的な計算能力を使い敵軍の行動を完全に予測し的中させた。

 その後、軍師として取り立てられるようになった彼女は百発百中の行動予測とそれに対する的確なカウンターを重ねて争い尽きぬ世の中で名を上げていった。

 彼女の指揮する軍に当たった相手はその的確で外すことのなかった予測に畏れ【計略の悪魔】との異名で呼ばれたそうだ。

 神権は《計略の悪魔》で高い計算処理能力と戦略を立てる際の補助、また副次的効果であろうか世界システムとリンクした際に超微細な情報を調べようとも情報処理が追いつく。

 また、魔族の種族的特徴の角と小さな翼が存在する。

 ちなみに彼女は生前に少し引っ張られているのかいつもメイド服を着ている。


 一瞬の内に戦場を駆け抜けた先で目に入ったのは、全員の装備が他の兵士とは違い豪華な鎧を身に着けている集団だ。

 さらに、円形に組まれた護衛の騎士たちの真ん中に金色で豪華絢爛な実用性皆無である鎧を着ている男が一人。

 帝国第一皇子ロイアだ。

 彼は現状が分かっていないのかのんきに部下を叱りつけていた。


「おい! 

 どういうことだ! 

 この惨状は!

 勝てるんじゃなかったのか!」


「はい、確かに事前調査をそのまま鵜呑みにしますとそうでしたが……。

 ですが、あんな奴がいるとは予想されていませんでした。

 なので、この事態は予想外のものかと……」


「予想外ってなんだよ、勝てるんじゃなかったのかよ!」


 僕は帝国皇子の集団を飛び越えて、皇子の前に着地した。

 周囲の騎士たちはさすがにしっかりとしており、剣を抜くと僕のことに警戒を向ける。

 しかし、ロイアはそんな僕の出現にも関わらず未だに騎士を怒鳴りつけている。


「何者!」


 周囲の騎士の一人が声を上げる。

 その怒気を孕んだ声にさすがのロイアも僕のことを認識した。


「僕はドゥルヒブルフ王国第二王女リリィの夫。

 王国軍唯一の兵士。

 そして、Lランク冒険者の朔月凪だ。

 帝国の皆さんにおかれまして、降参をお勧めします」


「第二王女の夫!?

 何を言っている、あれは俺のものだ

 貴様、すぐに立ち去るがよい」


 ロイアは威勢の良い声を上げるがただそれだけ。

 その場で胸を張っているだけだ。


「なっ!」


 僕はそんなロイアに剣先を突き付けた。

 腰から抜刀した陽華の白銀の剣先は日光を反射して煌めいている。


 周囲にいた護衛の騎士たちは最前列にいた人たちから剣を振り上げて向かってくるが、僕が薄月も抜いた二刀流でかかってくる騎士から確実に気絶させていく。

 また、魔法兵も混じっているようでフレンドリーファイアの起こらないタイミングを縫って魔法を飛ばしてくるが常時装備している盾のレダがすべてを阻んだ。

 数秒の内にどんどんと護衛の数は減り、一分もしないうちに残されたのは皇子ロイアだけになった。

 ロイアは未だに何の動きも見せず、護衛が僕に倒される様をただ突っ立て見ていた。

 そんなロイアの首に僕は陽華を突き付けた。


「ひ、ひぃ。

 こ、殺さないでくれ。」


 ロイアは自分に向けられた切っ先を見て驚き、恐怖の顔を浮かべて地面へと尻もちをついた。


「殺しはしないよ」


 僕はただそう言葉を掛けた。

 それを聞いたロイアはふぅと吐息を漏らしてひと心地ついたようだ。

 僕は陽華をゆっくりと納刀する。

 ロイアは手を地面について立ち上がろうとするが、僕がもう片方の手に握っていた薄月のスキル<朧月夜>が発動し、ロイアの首に認識阻害の掛かった刀による峰打ちが入り、その体は崩れ落ちていった。


「ま、殺さないってだけで見逃しはしないけどね」


 僕はロイアを肩に担ぎ上げると旗の立ててある位置に帰還した。

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