第39話 戦争の裏側

 僕がロイアを回収して戻って来てから数分の内に全員が集合した。

 右翼、左翼に送った精霊はそれぞれ指揮官の首を落として持ってきている。

 首はそこらの地面に置いておいて、とりあえず気絶していたロイアを起こす。


「お~い。

 起きろ~」


「う~ん……。

 んぁ!?」


 少しうなり声を上げてからロイアは目を開けた。

 体は縛って地面に転がされているため起き上がることは出来ない。


「起きたね。

 王国は帝国第一皇子ロイアに降伏勧告をおこなう。

 さて、どうする?」


「はッ!」


 ズドンと、ロイアの真横に陽華を突き刺した。


「現状を分かっているのか?

 後ろを見て見ろ。

 帝国軍は壊滅状態でほとんどの兵士が気絶。

 そして、当の総指揮官は敵軍の捕虜になっている」


「……」


 ロイアは何とか体を動かして首を持ち上げて、自軍である帝国の陣地のある方を振り返る。

 まあ、そこに見えるのは僕の言った通り倒れ伏す兵士たちなのだが。


「なっ……」


 ロイアは振り返っていた首をあからさまにガクッと落としたように見えた。


「これが力の差だよ。

 王国の陣地まで移動しようか」


「……ああ」


 そんな声が聞こえたような気がした。

 僕は焦点の定まらない目をしたロイアを担ぎ上げ、旗を引き抜いて剣に戻す。

 そして、陣地に帰還するために精霊を送還しようとした瞬間のこと。


「ナギ様! 

 すぐに『結界』をお願いします」


「分かった、『結界』」


 ノイマンの警告に従って僕は反射的に『結界』を発動させる。

 その直後、僕たちの方に向かって水を含んだ黒い光線が一直線に飛んできた。

 ただ、ノイマンの指示で『結界』を展開していたためそれに光線は阻まれる。

 光線が消失した後に、当たっていた『結界』の前の地面は地面が抉れていた。


 状況確認のためにノイマンに確認を求める。


「ノイマン、これは?」


「邪神の眷属による攻撃です。

 帝国兵の内の一部が眷属化、その影響で回復速度が速くそこで復帰した眷属がこちらを見つけて攻撃してきたようです。

 先ほどの攻撃は命を消費した自爆攻撃のようなもので、攻撃してきた対象は死亡したようです」


「眷属はまだいる?」


「はい。

 戦場全域に今のところ二十名ほど確認できてます」


 その確認を取って戦場を見渡せば確かにぽつぽつと黒いオーラを纏った兵士が立ち上がろうとしていた。

 僕は精霊たちに各個撃破の指示を出したのだが……。


 全員が散開する直前、二重にも三重にも重なった重いトーンの声が聞こえてくる。

 途切れ途切れに名詞や動詞が聞こえてくるため何らかの詠唱だ。

 急ぎ精霊を送って詠唱を止めようとしたが、一気に魔法陣は展開されて二度、三度と光を放っては消えを繰り返した。


「ナギ様、一度撤退を。

 今度は魔王の眷属が現れます。」


 謎の魔法を止めることは出来ないようでノイマンから声が掛かった。

 ノイマンによるとあの魔法は魔王の活性化の魔法だそうだ。

 ちょうどこの平原の真下に巣を作成した蟻の魔王に魔法の術者の生命をすべて流し込み覚醒を促すもの。

 程なく、大量の眷属が地上に姿を現すとのことである。

 僕はノイマンの撤退の指示に従って『転移』を使うと王国の陣地へと帰還した。


 転移先はリリィと華奈の待つテントの中だ。


「お帰り、凪」

「ナギ様、お帰りなさい」


 戻ると二人が同時に出迎えてくれた。


「えっと、後ろの方々はどのようなお人ですか?」


「僕の契約精霊。

 詳しくは後で話す。

 ノイマン、どういう理由でこんな展開に?」


 華奈とリリィに現在の状況を説明しながらノイマンから事の裏を聞き出す。

 今回の魔王の持つ<世界耐性>は帝国兵たちを眷属にした邪神が付与したもの。

 邪神は帝国の上層部、と言うか皇帝にまで近づいており実権は邪神によってほとんど握られているとのことだ。

 今回の戦争に関しても邪神からの提案で、魔王を覚醒させることに関しては邪神独断の計画だそうだ。



「じゃあ、魔王が動き出すって事?」


「はい、華奈様のおっしゃる通りです。

 行動開始まで一日程でしょうか。

 今巣に突入するのが好機かと」


「分かった。

 リリィ、勇者の召集をルススさんに頼んで。

 それと、陣地は解体して“リッテ”まで後退した方が良いかも」


「分かりました。

 急いでお兄様にご報告してきます」


 リリィはテントを急いで飛び出していった。


 その後、テントを出て戦場の様子を確認してみれば所々の地面に穴が開き、そこから人かそれ以上のサイズの蟻が続々と溢れ出してきていた。

 戦場に残されていた帝国兵たちは目を覚まし始めたようで、蟻のことを視界に捉え逃走を始めていた。

 蟻は、近くにいた兵士たちを顎で咥えこんで巣の中へと運んでいく。

 気絶から目覚めた兵士たちは意味も分からず襲い掛かってくる蟻にただただ恐怖の声を上げて尻もちをついて蟻に回収されていく。

 先ほどの僕たちの攻勢以上の阿鼻叫喚な景色が広がっていた。


「それじゃあ、ノイマン以外の精霊は“花園”に送還する」


 僕は感謝の意を伝えてから精霊たちを送還させた。


 その後、華奈と共にロイアを捕虜を連れていく用の馬車とそれを管理する兵士たちに引き渡す。

 それと共に、陣地に撤退の指示が共有され急ぎ片付けが始まり、そうして二時間後に帰還する兵士の先頭が“リッテ”に向かって歩き出した。

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