第36話 騎士王と暗殺天使
――side帝国軍左翼――
帝国軍左翼。
そこに降り立ったのは黄金の騎士と金髪の女性。
帝国兵の前に立った二人は顔を見合わせた後に、金髪の女性はその場より消え去り、黄金の騎士が動き出した。
「敵は一人!
一気に掛かれ!」
帝国の指揮官の号令とで最前列に居た冒険者たちが黄金の騎士に群がって団子のようになって襲い掛かる。
一瞬にして黄金の鎧が兵士たちの体によって隠された。
直後、帝国の指揮官の真横を黒い大きい影が通り過ぎていく。
ドサリと落ちたのは人であった。
それは、最前列で一番に切りかかった冒険者の一人だ。
ただ、幸いなことにその冒険者はただ気絶しているだけ。
帝国の指揮官はそれを目で追ってから急いで前線に目線を移した。
そこでは、今回と同じように軽々と人が吹き飛ばされている。
それもポンポンとリズム良く。
原因はもちろん黄金の騎士だ。
近づく冒険者たちをひとたび手にもつ黄金の剣を振るたびに気絶させて吹き飛ばしていた。
黄金の剣、銘はエクスカリバー。
かのアーサー王が握っていた剣である。
そして、その剣を振るう黄金の騎士こそがアーサー・ペンドラゴンの概念を持った精霊、アルトだ。
“地球”において過去、選定の剣を抜いて王選ばれ、ブリテンの王として円卓の騎士を従えた。
アーサー王物語に語られるあのアーサー王。
アーサー・ペンドラゴンの概念は神権《騎士王》として昇華され精霊アルトに付与されている。
《騎士王》の能力はアーサー王の経験に基づいて戦闘関連のスキルをLv10で付与するものである。
アーサー王の得意とした剣や槍、継戦能力に関連したスキルが多い。
また、カリスマ性の強化も入っており自身が軍や部隊を指揮する時にはその部下の能力を大幅に強化する効果も併せ持っていが、今回は部下を付けていないため持ち腐れになってしまっている。
アルトは前線で縦横無尽に動き、冒険者を殺さない程度に気絶させて吹き飛ばし混乱を起こす。
毎秒毎秒、左翼の帝国軍上空には人が飛び交い阿鼻叫喚が巻き起こっていた。
殺さないのは主である凪の指示であり、今回の戦争では出来る限り一般兵の死者は出さないようにしている。
アルトの猛攻を受けた帝国左翼は次第に後退していくのであった。
アルトが帝国軍左翼と衝突して十分後。
今では、冒険者のほとんどが気絶して飛ばされて四方八方に倒れ伏している。
アルトは冒険者の後ろに控えていた騎兵たちも馬から引きずり下ろして気絶させ吹き飛ばす。
飛ばされた兵士は仲間の兵士にぶつかって二次被害が発生する。
後方はまだ良いが前方はもうほとんど軍隊の様相を見せず、個がそれぞれの判断で突撃しているような状況。
さすがの帝国の指揮官もその現状を把握し、苦渋ながらも撤退の指示を出すことを決断する。
が、そこまでで撤退の指示は実際に出されなかった。
帝国の指揮官がふと、気づけば自身の首に冷たいものが当てられている感覚。
目線だけゆっくり下げてみれば光を反射する銀の短刀が首に当てられていた。
既に一筋、赤い線が走りジクジクとゆっくり赤い血が滲み出している。
刃物に気を付けて恐る恐る首を後ろに向けてみれば真後ろ、少しだけ空いていた馬の上に金髪の女性がしゃがみ込み笑顔で刃を突き付けていた。
白い翼を携え、笑顔で佇むその姿は誰もが天使だと思うであろうが、この時の帝国の指揮官の思いは真逆のものであっただろう。
「気づくの遅かったね。
サヨナラ」
短刀が一気に引かれ、絶望の表情を浮かべた帝国の指揮官の首が一瞬にしてその場から転がり落ちる。
血が噴き出す中、真後ろにいたにも関わらず一切の返り血を浴びていない女性は首を拾い上げると一瞬の内に消え去ってしまった。
彼女、金髪で白い翼を持った女性の名前はダルモン。
こちらの出典も“地球”で、本名はマリー=アンヌ・シャルロット・コルデー・ダルモン。
十八世紀フランスにて革命の中で対立派のリーダーの暗殺を成し遂げた女性である。
恐るべき美貌を持ち、後にフランスの詩人により暗殺の天使と呼ばれた。
神権は《暗殺天使》で、隠密や致死確率上昇、魅了効果、さらには派生して天使の種族特性である白い翼を併せ持つ。
ダルモンは暗殺者として処刑された悪人と言ってもいい女性であったが、精霊化に際して人格・思想の良し悪しは引き継がれないため、単純に能力と好みでのみ選抜されている。
次に彼女が発見されたのは左翼前線で暴れまわっているアルトの後ろだった。
落したばかりの帝国の指揮官を片手にぶら下げながら、アルトの奮戦を観戦しているようである。
と、そこで騎兵のうち一人が手に提げられた首が誰のものであるかを悟り、そして動揺は左翼の残党兵全員に一瞬の内に波及していき……。
そして、帝国軍左翼は完全に崩壊した。
――side凪――
左翼に送った精霊の二人が僕の所に帰還した。
既に別場所に送った精霊たちも帰還してこれで全員集合である。
僕の前には縄でぐるぐる巻きにされた帝国の王子ロイアが気絶して転がされていた。
精霊の二人はそれに構うことなく僕の傍に並ぶと報告を開始した。
「ナギ様、左翼、崩壊しました」
「左翼、指揮官の首です」
「ありがとう。
それとお疲れ様、アルト、ダルモン」
二人からの報告を受け取る。
合わせて、受け取った首はとりあえず近くの地面に既に置かれていた別の首の横に並べて置いた。
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