第34話 英雄再演
王国の陣地を出てから一時間ほど歩いてきた。
向かう先はもちろん帝国の陣地に向けてだ。
行軍速度は集団の帝国軍と個の僕、断然僕の方が早い。
前方からは白銀の集団が迫ってくる。
それらはもちろん帝国軍。
僕は<千里眼>を使用してその隊列を確認する。
軽装の歩兵と重装の歩兵、後ろに騎兵。
所々で掲げられている旗は帝国の国旗が掲げられている。
部隊は大きく三つに分けられており、左・中央・右とありそれぞれで似たような編成だ。
左翼側の歩兵は装備がバラバラなあたり冒険者だろうと思われる。
そして、残りの中央と右翼は全てが帝国兵で構成されており中央の騎兵の一番先頭に一際豪華な鎧を着た人が軍を指揮していることが確認できた。
僕はその場で立ち止まるとアルアを取り出し魔力変形を使って旗に変形させる。
赤い軸に黒い文様があしらわれた軸。
その先端には槍の穂先が付き、そこに架かっている旗には白地に萌黄色の太陽のような形をした僕の紋章が大きく描かれている。
その旗を僕はその場で突き立てた。
「ロイア様、前線からのご報告です。
王国軍の進軍が未だ確認できません。
が、旗を持った男がただ一人、我が軍の前に立っています」
「男? まあ、いい。
気にせず進め!」
帝国の第一皇子ロイアは今回、帝国の代表として参戦している。
ロイアは父たる皇帝に命ぜられるままにこの戦場に出てきているが、本人としてもリリィに早く会いたいという想いがありここに出てきている。
第一皇子ロイアは数年前にリリィと出会い、一目ぼれしたが王国の風習もありその想いは叶わない。
だが、ロイアは今回の戦争の話が上がったのを聞きつけ父親に直談判してリリィのことを条件に加えてもらったのだ。
そして、今回の戦争は事前調査の結果帝国の勝率が七割を越えていると報告があるそうで自信満々。
そのため、城でリリィの事を待ちきれなかったロイアは軍を指揮しに出てきているのだ。
「ようこそ、帝国兵の皆さん」
そこで、上から降り注ぐように帝国軍全体に声が聞こえてきた。
「それより先は王国領。
進むのであれば覚悟を持て」
その声に、軍全体に混乱がもたらされた。
だが、たった一人くらい数で押し切れると思ったロイアはそのまま突撃の指示を再び出す。
そして、歩兵の最前線が長槍を前方に構えて駆け出したのだった。
僕は帝国軍が国境に近づく中で旗を地面に立ててその前で一人立っている。
帝国軍の最前線が細部まで見えるようになったところで、警告のために『拡声』を発動させた。
「ようこそ、帝国兵の皆さん」
突然掛かったその声によって帝国軍全体は混乱に陥ったようだ。
「それより先は王国領。
進むのであれば覚悟を持て」
この警告は最後の恩情のようなもの。
本来は警告する必要は無いが、戦闘をおこなわないに越したことはない。
しかし、帝国軍は「前進!」の掛け声とともに一気に速度を上げてこちらに突撃を開始した。
僕はそれを確認すると、帝国軍を殲滅すべく大量の魔力を消費しながら詠唱を開始する。
「『ここに、第三の旗を掲げる。
青き空、広がる大地。
命は儚い一瞬の灯。
人々の英知は礎に。
物語は伝説に。
ここに現れるはひと時の夢。
我が号令、今ひとたび英雄の再演!
開け我が花園。
精霊結合・英雄再演 不知火戦華』」
詠唱が完了する頃には帝国軍は目前に近づいていた。
しかし問題はない。
ふっと、僕の周りに六個の火の玉が出現した。
旗を中心にして地面に魔法陣が広がっており火の玉はその中に出現している。
火の玉はそのままゆっくりと地面に落下。
魔法陣に触れると共に衝撃波を放ち、魔法陣の外にいた帝国兵の最前列を弾き飛ばした。
火の玉の方は、上に向かって二メートルほどの火柱を上げた後にその中から人影を生み出していた。
黄金の鎧を着こみ、その手に淡く光を放つ直剣を持った金髪の男。
軽装をして少し長めのスカーフを纏った小さい白翼を持つ金色の長髪の女性。
自身を超えるほどの大きさの大剣を担いだ赤髪の大男。
長いローブを纏いとんがり帽をかぶり、長杖を持ついかにも魔法使い風の女性。
背中に黒い大きな二対の翼を持ち頭に二本の角を持った男。
黒いドレスに黒い小さな羽と黒い細長い尻尾を持った短髪の女性。
「散開!」
僕の指示で内四人が二手に分かれて飛んでいった。
それぞれ左翼・右翼に向かったのだ。
そして、それぞれが帝国兵とぶつかった瞬間、例外も無く帝国の兵士たちがなぎ倒されていくのであった。
僕が使用して魔法は『精霊結合・英雄再演 不知火戦華』という魔法。
ある方法にて過去の英雄を再現、召喚する魔法だ。
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