第33話 凪の作戦

“リッテ”は王都南門を出てから”アルピ”、”スイル”の街を経由した先にある国で比較的大きい街。

 街の北側にはフィル山脈が広がり、それを越えた先は僕がはじめて入った街の”アージン”がある。

 また、フィルの南側は平野が広がっていてその平野に入って少し進んだ先がマルスリオン帝国との国境。

“リッテ”はそのような場所にあるため、交易も盛んで街の規模は大きく内部では帝国の文化も混じっている。

 そして、その“リッテ”に王国軍が到着したのは開戦約一週間前。

 王国軍は街に一泊して街で待機する部隊と分かれ直ぐに戦場と定めた平野に出発した。





「リリィ王女殿下、王国陣地設置予定地に到着いたしました」


“リッテ”の街を出てから約半日が経って馬車が動きを止めた。

 その後、伝令役の兵士が止まった馬車にやってきてそのような報告をしていった。

 陣地の設営の指示はルススさんによって出されていたようで既に荷解きなどの準備が始められていた。

 僕たちはいち早く設営された王族用の天幕に移る。

 その後、全設営の完了報告が上がって来たのはちょうど日が沈み始めた頃だった。

 その後、夕食の準備・敵地観察・見張り役の部隊を除き、全軍自由時間が言い渡される。


 展開した陣地で野営をおこなうこと三日目。

 心地いい昼下がりに斥候部隊の一人が陣地に戻ってきて報告が届く。

 内容は帝国軍到達、こちらの陣地を確認して帝国も陣地の展開を開始したとのものだ。


「予想より少し速い到着だな」


「はい、兄様がすぐに相互無条件講和の使者を送ると思います。

 それの返答次第ですね。

 良い返事は無いと思いますが」


 帝国軍はまだ陣地の設営中なので今日中の開戦は無いと思われる。

 早くても明日の昼過ぎからだろう。


「そう言えばナギ様はどうやって軍を相手にするんですか?」


「旗を使うつもりだよ」


「旗、ですか」


 もう少し説明しようとしたところに華奈が割り込んでくる。


「凪はどのくらい呼ぶの?」


「今の所は六」


「ええっと? ナギ様、呼ぶって何ですか?」


「う~ん。

 当日をお楽しみに、かな」


「ええ! 何ですか、気になります!」


 リリィは教える直前で焦らされてしまったのでもどかしそうにしていた。

 色々と考えているリリィも可愛いが、ちょっと可哀そうだと思ったのでいくつかヒントを出すことにした。


「じゃあ、ヒントだけ。

 召喚系の魔法だよ。

 六って言うのは呼ぶ数だね」


「旗で召喚ですか……」


「うん、僕の紋章が入ったやつね。

 何を召喚するかは……お楽しみにって。

 戦闘が始まったら華奈に説明してもらうといいよ」


「まだ気になりますが……。

 分かりました、楽しみに待ってます」


 華奈いわく、僕の使う魔法はチート中のチート。

 ラノベとかでよくあるチートスキルの盛り合わせだという総評を貰った。

 僕も後から考えればそんな気がしないでもないと思う。


 その日は以後、何の進展も無く前日までのように過ごした。


 そして、翌朝。

 朝食を食べ終わった頃に昨日送った使者が五体満足で戻って来た。

 その使者は今回軍を指揮している帝国の第一皇子のロイアの返答を持って来たのだ。

 リリィは詳細を聞きに兄のルススのテントへと向かった。


 戻って来たリリィから聞いた情報はまあ予想通りのものだった。

 帝国は当初より通達したものから譲歩はしないとの返答だ。

 なので、こちらの返答も一切変わらない。


 帝国の使者はこちらの返答の手紙を受け取ると馬に乗って急ぎ帰っていく。

 その後、王国軍全体に指示が出されて警戒態勢に突入。

 兵士はそれぞれ甲冑を着こむと王国陣地の前で整列を始める。

 それの少し後に帝国軍も行動を開始。


 帝国軍の進軍開始の報せが入ったのはそれから二時間後。


「ナギ様、帝国軍が動き出しましたそうです」


「うん、ありがとう。

 じゃあ、行って来るね。

 華奈、リリィ」


「「行ってらっしゃい」」


 二人に見送られ僕は陣地を出発した。

 陣地の前では、兵士たちが僕の後備えとして待機している。


 僕は立ち並ぶ兵士たちの前に立つと、そちらに向かって振り返る。

 軍の最前列にて僕は自分の剣、アルアを取り出すと空に掲げた。


「僕はナギ。

 【黄昏の焔】と呼ばれし冒険者。

 この剣を以て我らの敵を下そう。

 我ら王国軍に勝利を!」


「「「「「勝利を!!!!」」」」」


 僕の宣誓に答えて鬨の声が王国の陣地に広がる。

 さらに、兵士たちは自身の得物を天高く掲げた。

 それを確認すると僕は剣を収め反転。

 帝国軍の方を見据える。


「じゃあ、行って来る」


 僕は一人戦場へと歩みだした。

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