第32話 王都出立
大々的に宣言した僕は、その後クルスさんに促されて円卓に着くことになった。
場所は先ほどまで座っていた席の最前列中央二席。
反対側はちょうどクルスさんだ。
「それで、先ほどの話はどういうことだね?」
「リリィが欲しいという帝国に灸を据えようと思いまして。
僕一人で帝国兵全員を撃退します」
「凪君一人で帝国軍全てを撃退できると?」
「ええ、Lランクの冒険者が来ようとも。
それくらい頭に来ていますので」
「そうか。
其方の気持ちも分からなくはないが……」
クルスさんは宰相を傍に呼んで少し話をする。
その間、会議室内は静まり返っていた。
「皆、待たせたな。
今回は【黄昏の焔】凪の意見を尊重し、第一陣として彼を据えることとする」
クルスさんが声を張り上げて宣言した。
その後、続く宰相の説明で詳しいことが判明する。
僕一人の参戦となる一軍は最初に帝国軍に当たる。
ここで、好きに暴れてもらって良し。
撃退できれば上々、ダメだった場合は二軍を繰り出して大人数での戦闘となる。
国の命運を決める可能性のある戦いのため、僕に全面的に任せてくれるそうだがもしもの場合として二軍以降も詰めておくとのことで、初当たりを僕にすべて任せてくれるということなのでそこに関しての異論はない。
そして、それから一時間ほど作戦を練って二軍が出ることになった場合の戦術を状況によって数種類組み上げた。
一軍は僕一人。
二軍として第二王子のルススさん率いる王国兵五万。
また、二軍に華奈が参加するとのことだ。
そして、三軍は軍事大臣が率いる王国兵五万。
総数十万の軍で帝国軍推定九万を迎え撃つことになった。
開戦場所は王国最南部東側の”リッテ”から南下した所にある帝国との国境付近の平原。
当初の予定通り、魔王討伐に参加するクラスメイトは”リッテ”にて待機だ。
王都出発は三日後。
南門から出発し、二つ街を経由して”リッテ”の街に入りそこで一日休んで戦場へと向かう。
最後に宰相が確認のため議決内容を復唱して会議は終了。
王族が先に出ていった後に宰相から解散の合図が掛かり、僕たちは大会議場を後にした。
華奈と並んで最近寝泊まりしているリリィの私室に向かっている途中で待っていたというリリィと合流して三人で仲良く部屋まで戻ることになった。
それから、出発までの二日間は時々準備をおこないながらも三人でゆったり甘々に過ごしたのだった。
迎えた会議終了後三日目の朝。
本日、王都に集結した軍の出発ということで王城内でも朝から上へ下へと騒がしくなっている。
僕と華奈もリリィの部屋で早朝に起きて準備を済ませていた。
「じゃあリリィ、行って来る」
「ナギ様、それに華奈ちゃんよろしくお願いしますね」
見送りの言葉としてはどこか不適応な感じだ。
まあ、そんなことは頭の端に追いやり微笑みを浮かべるリリィに見送られ、僕たちはは城の中庭まで出る。
ここは、軍の主要部隊と魔王討伐隊の集合場所だ。
ここでは既に従軍する騎士・兵士の半数以上が集まっており、出発の合図を待っている状態になっていた。
僕たちはクラスメイトが集まっている所に向かってそこに合流する。
「あれ? 朔月に華奈ちゃんこんな所にどうしたの?」
話しかけてきたのは勇者の藤堂のパーティーの一人である福村碧。
学校では席が近かったのでけっこう親しい。
今回参加するクラスメイトは全員準備を終えて待機、雑談をしていたようで、その中で僕たちに気づいた福村さんが声を掛けてきたようだ。
「後から私もね、凪と一緒に冒険者になったんだ。
だから、今回行くことになってるの」
「そうだったんだ。
それじゃあ、一緒に頑張ろうね」
「うん、よろしね。
碧ちゃん」
「朔月君もよろしくね」
「よろしく、福村さん」
福村さんの手引きによってクラスメイトで今回行くメンバーとも軽く挨拶を交わすことになり全員と一言、二言交わしていった。
そして、十分後。
宰相が庭に出てきて用意されていたステージに上がると声を張り上げてこの場にいた全員を静かにさせる。
全体を見渡し静かになった事を確認すると喋り始めた。
内容は挨拶から入り、ここから“リッテ”に着くまでの行軍予定についての最終確認。
その後、最後にクルスさんの挨拶があるようだ。
「それでは、最後に陛下よりお言葉を賜る」
宰相は説明を終えてステージから降りると入れ代わりに国王のクルスさんとなリリィがステージにに上がってきた。
「諸君! 此度、我が呼びかけに答えて時間が無い中、ここに集結してくれたことをありがたく思う。
つい数日前に我らが王国は隣国であるマルスリオン王国より宣戦布告を受けたわけであるが、ドゥルヒブルフ神によって建国され先祖代々我が一族が治め、守り、発展させて来たこの王国を易々と帝国に明け渡すわけにはいかぬ!
力がすべての帝国と力持つものが力の無いものに手を差し伸べ協同して発展してきた我らが王国。
帝国では帝都でさえ連日絶えず弱者、強者による犯罪が絶えぬと聞く。
それに比べてどうだ?
我らが王国は両者が手を取り合い支え合って生きており、王都での犯罪などほぼ聞くことが無い。
言うまでも無く我ら王国の方が素晴らしいと言えるだろう。
そんな王国を帝国の魔の手から守ろうでは無いか!
そして此度、王国を守るために三年前に王都を襲った厄災を退けた英雄。【黄昏の焔】も打倒帝国のために名乗りを上げてくれた。
彼が力を貸してくれるという此度の戦争、我らの勝利は約束されたものとなろう!
そして、王たる我が戦場に出ることは出来ぬが名代として息子のルスス、そして娘のリリィが戦場に出向く。
諸君の雄姿に期待しておる。
此度の勝利我らにあり!」
「「「「「「オオオオオオォォォォォォ!」」」」」」
クルスさんの締めの言葉に答えるようにこの話を聞いていた兵士たちは自身の剣を抜くと空に向けて切っ先を掲げる。
歓声はクルスさんがステージから降りるまで続き、その後は宰相によって隊列が整えられ残っていたクルスさんの掛け声によって先頭から門を抜けて王城を出発した。
ここに居る部隊は約一万ほどで、王都内別の場所にて四万。
残りの五万は行軍中の合流となる。
僕と華奈もクラスメイトと共に出発しようとしたところで一人の騎士が駆けて来る。
駆けてきた騎士は青い鎧であり、すぐに【蒼】所属であるということが分かる。
伝言内容は戦場までは急遽参加することになったリリィの護衛として馬車についてほしいという建前のもとリリィが一緒に居たいとのことだったので、近くにいた一部のクラスメイトに声を掛けると華奈と一緒におとなしく中央付近のリリィの乗る馬車へと駆け足で向かった。
クルスさんの出発の宣言からおよそ十分後。
僕たちの乗る馬車もカタカタと前進を開始した。
「リリィは来る予定、無かったんだよね?」
僕はクルスさんの演説の時から気になっていたリリィが参加するという理由について尋ねる。
そう言えば、リリィが参加するのなら部屋を出る時に「宜しくお願いします」と言っていた理由も一応護衛と言う立場である現状を鑑みて理解できる。
「ナギ様が私のために怒ってくれていると聞いて、会議の時には言い出せませんでしたがその後にお父様に直談判させていただきまして私も参加することになりました。
私のために戦ってくれるというナギ様を見届けない訳にはいきませんから」
「そっか、そうだね。
ありがとう、リリィ」
分からなくもないその説明に僕は嬉しく思う。
「夫に付き添うのは妻の役目。
ですよね、華奈ちゃん」
「うん、その通りだよ!」
二人のその言葉に僕は気を引き締め直すのだった。
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