第29話 帝国到着

 朝早く領主の館を出発すると東門から街を出発する。


 街を出てから街道を一直線に進み隣国のミトリア商業国にある街を経由。

 そこから南下してマルスリオン帝国領に入ったのが出発の一週間後。

 さらに、そこから半日歩き“ミア”という商業国から入って一番近い街にたどり着いた。


「ナギ様、やっと帝国の街ですね」


「そうだね。

 まだ、時間あるしゆっくりとやっていこうか」


「なんか王国より街に活気が無いね」


 現在の帝国は名の通り帝政を敷いており、王国と変わって貴族の権力が高く貴族主義の風潮が強い。

 良心的な貴族もいるそうではあるのだがやはり全国的に貴族主義が強い傾向にある。

 そのため、重税などによって疲弊した住人が多く街中でも王国ほどの活気は生まれることはない。

 また、この国では市民の揉め事でも決闘が広く用いられるため、そちらを回避するという意味合いでも静かになってしまっている。

 二人にもそれを伝え、僕の傍にいてもらうことにした。


「じゃあ、いつも通りギルドに行こうか」


 ギルドは街の中心付近に固まってある大きめの建物の内の一軒だ。

 木造の三階建てで所々に木で塞いで直した形跡が見られる。

 外の通り沿いに面するドアの上には冒険者ギルド帝国ミア支部と書かれた小さい看板が掛かっていた。


 僕は先頭を切ってドアを開け中に入った瞬間に中の雰囲気に顔を歪めた。

 中にはどんよりとした雰囲気が漂い、僕たちは鋭い視線がいくつも突き刺さる。

 そんなことも気にせずに僕たちは依頼掲示板の方に向かった。

 掲示板の方に張られているのは王国と同じ書式の依頼書だが、貼り方は王国と違って乱雑で統一性が無い。

 また、剥がされた紙の端が切れたものが蓄積している。

 そんな中で一つの依頼書だけ異彩を放っていた。

 その依頼書は掲示板の中心に張られており、他の依頼書はそれを避けるように周囲に張られている。

 紙は他の依頼書に比べ上質なものでサイズは大きい。

 内容は以下のものだった。


 依頼:帝国軍への従軍

 依頼者:マルスリオン帝国

 ランク:指定なし

 報酬:一日につき一人大銀貨一枚。活躍によっては特別報酬あり。

 内容:年内に開始する西方の戦争への従軍。

   部隊を戦闘と支援の二つに分ける。

   怪我、死亡等は自己。

 場所:宣戦布告から二日後に北副帝都の中央広場に集合。


 僕たちはこれを見て言葉を失くした。


「あ~、あからさまだな」


「はい、ここから西方と言えばドゥルヒブルフ王国しかないですね。

 それに戦争に冒険者を雇うのは王国ではやりませんね。

 それに怪我などに保証しないのは愚策だと思います」


 王国での対応を知っているリリィから批評が入る。

 まあ、給金は良い方だろうがそれ以外の条件は誰が見ても劣悪であるとしか思えない。

 それから掲示板を色々と物色したのだが目ぼしいものは一切なかった。


 そうして、ギルドを出ようとしたときのこと。

 今まで起きたことは無かったが、テンプレ展開に突入した。


「そこの嬢ちゃん二人。

 俺らのパーティーに入るといい?

 そこのひょろいのよりAランクの俺様の方が良いと思うぞ……」


 男が質の悪い高笑いしながら色々と捲し立て続ける。

 また、それに合わせて併設されていた酒場にたむろっていたガラの悪い冒険者集団が立ち上がると僕たちに寄ってきて周囲を囲み始めた。

 全員の目線は二人の全身をくまなく見ているがとても二人の戦力を求めているようには見えない。

 最初に声を掛けてきた男はAランクと言っているが見た感じちょっと実力が足りないように見える。

 こういうのは早々に立ち去るのに限るのだが……。


「お断り! 

 凪の方が良い!」


「私もナギ様の方が良いです!」


 二人は声を張り上げてきっぱりと断った。

 まあ、周囲を囲まれているため真っ向勝負をするしかない。


「あぁ!」


 まあ、分かっていた通りだ。

 二人の返事を聞いてネジが完全に吹き飛んだようで頭に血を昇らせて顔を真っ赤にする。

 キレた男は言葉にならない声を上げて喚きながら、どさくさに紛れて華奈とリリィの二人に手を伸ばす。

 ただ、そう簡単に二人に触らせるわけにもいかない。


「ぐおぉぉっ……」


 勢いよく振り出された手が何かに阻まれ打ち付けられた。

 男の手はそのまま弾かれ痺れる。


「んあぁぁぁ!」


 男が手を押さえながら呻き声を上げる。

 僕が咄嗟に『結界』を張ったためそれに手を勢いよくぶつけたのだ。

 しかも、衝動的に魔力を多く消費したので結界の硬度も通常より硬くなっている。


「あっと、やりすぎたっぽい」


 ぽつりと僕が漏らしたその言葉。

 合わせて、男の情けない動きに笑い声を上げる周囲の冒険者たち。

 二つの要因が重なった結果、落ち着いた男は今度は静かに激昂する。


「オメエら、黙れや!」


 その瞬間、ギルド中が静まり返った。

 ギルドの職員は最初から我関せずといった態度でこちらからは視線を外している。

 周囲の冒険者たちは全員下を向いて黙りこくっている。


 そして、男は怒気を孕んだ声で声を上げた。


「オイ、決闘だ。

 俺が勝ったら土下座して謝れ。

 後、女二人は貰っていく」


 何ともまあ一方的な物言いだ。

 僕が受ける前提で話しているし、たとえ受けたとしてもメリットが一切ない。

 まあ、僕も内心ちょっとキレかけてるので断る気は無い。


「ええ、いいですよ

 僕が勝った時は……冒険者の資格の返納で」


「良いだろう!

 おい! 早く準備しろ!」


 男は周囲の冒険者を使って即座に決闘の準備を整えさせた。

 場所はギルド併設の訓練場。

 審判は先ほどまで僕たちを囲んでいた冒険者の内の一人で、決闘用の結界の利用は無し。

 ルール無用、何でもありの決闘だ。

 これは、殺しも認められるということである。


 そして、大斧を持った男と手ぶらな僕が向かい合うと決闘が始まった。





 五分後、僕たちはギルドを後にした。

 決闘はどうなったのかと言えば、一秒で終了。

 開始宣言と共に相手の背中に移動した僕が軽めの手刀を叩きつけて男は気絶。

 懐をまさぐって見つけ出した冒険者証を『崩壊』で粉微塵にして終了だ。

 その後は、観戦に来た冒険者たちの中に開けられた道を通ってギルドを出たのだった。

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