第30話 宣戦布告
帝国領に入ってから一か月が経った。
現在は出来るだけ国境に沿った街道を南下して街や村を転々と移動している。
街に寄るごとにそれぞれ邪神や魔王それに戦争の情報を集めているのだがこれといった進展は無い。
今、僕たちは小さい街で宿を取ると三人一緒にベッドで寝転がって就寝前の談笑をしている所だ。
その時、突然頭の中に声が響いてきた。
僕はベットから出て立ち上がる。
⦅「ナギ殿、お時間宜しいでしょうか?」⦆
王国に居たドゥルヒブルフ神からの<念話>の連絡だ。
今はただグダグダしていただけなのですぐに返答する。
⦅「ドゥルヒブルフ神、どうしたんですか?」⦆
⦅「ああ、クルス国王より言伝だ。
早急に帰国するように。
もう知っているかもしれないがマルスリオン帝国がこちらに宣戦布告をしてきた」⦆
⦅「了解です。
明日、朝一で帰ります。
クルスさんにはリリィの部屋に転移すると伝えてください」⦆
⦅「ああ、伝えておこう。
では失礼する」⦆
そこで話は終わりだ。
二人はベットの端に並んで腰を掛けて待っていた。
「凪様?
どうされましたか?」
「ドゥルヒブルフ神からクルスさんの伝言だったね。
帝国が宣戦布告を出したみたい」
「ナギ様!
それ、本当ですか!?」
リリィは声を上げて立ち上がった。
ただ、隣の部屋にいる人たちに迷惑になるので一言注意を入れておく。
連絡の内容としては、ギルドで戦争に関する依頼も出されていたので既に覚悟はしていた事だ。
「……にしてもやっとって感じだね」
「そうだな。
それで、朝一で『転移』使って帰るよ
クルスさんが戻ってきて欲しいって」
「お父様が……ですか」
「うん。
だから、そのつもりでね」
その後、明かりを落とすと明日に向けて三人で眠りにつくのだった。
翌朝。
日が昇ったすぐ後に起床すると食堂に移動して出来立ての朝食を素早く食べていく。
そして、荷物はまとめてあるので部屋に戻ることなく宿の人に鍵を返却すると出発した。
宿を出てすぐに『転移』はおこなわない。
『転移』をする前に僕たちはギルドに向かった。
目的は情報収集。
ここは従軍依頼の集合場所に近く色々な情報が入ってくると考えてのことだ。
僕たちは三十分ほどギルドの中で冒険者と話をしながら情報を集める。
その時間で取集できたのは参加している冒険者の名前や兵士の動きについての噂。
中でも高ランクの冒険者の参加情報が主だ。
参加しているのはSSランクが一人、Sランクが八人、それ以下の情報は無かった。
そして、噂だと冒険者を含めて合計九万人を動員しているようだ。
「中々な戦力だね」
「そうだね。
SSランクがいるから乗り気なのかな。
まあ、戦力的にかなりのものだね」
「けど、王国にはナギ様がいます」
リリィはそういうが僕としては現在参加するつもりは無い。
まあ、それはクルスさんと話し合ってから確定するが。
「まあ、そこら辺はクルスさんと話し合ってからだね」
僕はリリィの言葉に肯定はせずにただそう答える。
魔王を倒すために召喚された勇者一行の一人としての立ち位置があるため、国家間の争いに割り込む理由が無いというのが主なものである。
僕たちはギルドを出るとそのまま街の外に移動した。
近くに人目が届かない森があったのでそちらへ向かうと『転移』を発動させ僕たちは王国へと帰還した。
宣戦布告を受けたドゥルヒブルフ王国の国王クルス・ドゥルヒブルフ・フィアルは早朝から戦争関連の準備や報告、会議などによって働きづめになっていた。
多少前兆が見られていたがいつ来るかと言う情報がまったく無かった帝国より宣戦布告がなされた王国では準備がまだ整っておらず、昨晩より急ピッチで兵士たちの召集や物資の確保を行っている。
中でも、国王のもとには準備の報告及び決裁の書類が途切れることなく届けられていた。
そんな時、国王の執務室の扉がノックされる。
国王は片手間に入室許可を出すと部屋に入って来たのは一人の女性騎士だった。
装備は全体的に青を基調としたものとなっており、一目で第二王女の騎士団【蒼】の一員だと分かる。
「国王陛下、ご報告です。
リリィ王女殿下並びに【黄昏の焔】ナギ様とその奥方が城にお戻りになりました」
「おお! そうか!
それで、三人は今どこに?」
「はい。
現在リリィ王女殿下の私室にて待機しておられます」
「よし! それでは私はそちらに向かおう」
報告を聞いた国王はバッと立ち上がると、執務室の側面に備えられたデスクで同じく書類整理をしていた宰相に一言声を掛けると、報告に来た騎士を連れ立って部屋を出ていった。
宰相は少し苦い顔をしていたようだが、昨晩から短時間の睡眠を挟んだだけで働きづめの国王には良い息抜きになりそうである。
僕たちがリリィの部屋に転移をすると、そこではリリィ直属の騎士団【蒼】の団長であるアイラさんが入り口付近で立って待っていた。
「お帰りなさいませ。リリィ王女殿下。
それにナギ様と華奈様も」
「ただいま戻りました。
アイラ、お父様に報告をお願いしてもいい?」
「かしこまりました」
アイラさんはドアの外に出ると部下の一人をクルスさんの所へ帰還の報告へと向かわせたようだ。
残った僕たちは飲み物を用意して、ソファーに座るとゆったりとくつろぎ始めた。
最近は、歩き詰めで宿なんかのベットは固かったので柔らかいソファーは久しぶりだ。
見れば、華奈とリリィも溶けかけているように見える。
十分後。
アイラさんがクルスさんを案内して部屋に入って来た。
僕は空いたカップに飲み物を入れるとソファーの空いていた所に座らせてお茶を置く。
ぱっと見で既に疲れが出てきているようでいつもの覇気が感じられない。
クルスさんが一息つくのを待って帰還報告を始める。
「お父様、マルスリオン帝国より無事帰還しました」
「ああ、無事なようで何よりだ。
三人とも元気そうで良かった。
で、成果の方はどうか?」
「魔王関連は噂も一切なく不明でした。
ただ、領内に入ってからギルドで従軍依頼がありましたのでそちらの方の情報はかなり集めてきました。
急ぎ文章でまとめて報告します」
「おお、それはよくやった。
今、外に出ている勇者一行も戦争に出すつもりは無いが一応呼び寄せている。
明日までには全員戻って来れるようだから、明日勇者たちが戻り次第大規模な現状の共有と対策会議を行う予定だ。
三人もこれに参加してほしい」
「分かりました」
リリィが代表してそう答えた。
その後は、仕入れて来た情報を話しながらお茶やお菓子を食べさせクルスさんを休ませる。
そして、三十分ほど経った後に僕が短時間で仕上げた報告書を持つと、しっかり休んでくれと言い残してクルスさんは執務室へと戻っていった。
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