第23話 白き水辺
「『アイスコフィン』と『エリアカット』。
確かに使えます!」
華奈が使用した魔法は氷魔法第二位の『アイスコフィン』と空間魔法第七位の『エリアカット』。
リリィはどちらも使うことができた。
「リリィちゃん、魔法も使い方次第。
『エリアカット』って普通の使い方だと盾として使うよね。
けど、実際は空間を一時的に切り離す壁を作り出しているの。
それを逆手にとって普通より多く魔力を流して、物体を挟むと挟まった境界でその物質の繋がりも切れようになってる。
だから『アイスコフィン』の上から簡単に深淵蛇の首を落とせたんだよ」
「……そういうことだったんですか!
私、もっと頑張ります」
これで、華奈のお手本の解説が終わったようだ。
僕はその間に、中身が無くなって残った氷を一気に溶かして解けた水を蒸発させて片付けていた。
そして、脅威は排除できたのでここに来た本題に入る。
「で、魔充草を集めるよ。
基本的に水場の近くに生えてると思う」
ここの広間には全方面の壁から水晶が生えてきている。
また、天井の水晶の先端からは水滴がぽつぽつと落ちてきている場所があるし、一部の壁からは水が湧き出している。
僕たちは散開して広間で目的のものの捜索を始めた。
それぞれ十分ほどウロウロした後に華奈が水晶の裏に小さ目の亀裂とそこから続く道を発見した。
「凪~。
ここに亀裂、奥から光が見える!」
「確かにそうだな。
先も続いてそうだね」
「じゃあ、私ちょっと見てくるね」
そう言って、華奈は一人亀裂の中に入っていった。
その間に反対側で捜索していたリリィも僕に合流する。
僕とリリィはその場で華奈が戻ってくるのを待った。
亀裂の中から特に大きな音が聞こえてこないので問題なく進めているのだろう。
そして、五分後。
「凪~。
戻ったよ~」
亀裂の中から華奈が無事に戻って来た。
僕とリリィは華奈を笑顔で迎える。
「はい、これ」
華奈が出てきてすぐに手渡たされたのは、紺色をした植物。
その植物の輪郭は水色に淡く光っていた。
これこそ僕たちが求めていた魔充草だ。
「奥に入っていったら、表面が白い光を放ってる小さめの泉みたいなのがあったの。
そこの周りにたくさん生えてたよ」
「よし、じゃあ三人で行こう」
僕たちは崩落などを警戒しながら亀裂へと入っていく。
亀裂の中は一気に下りになっており、その先に少し開けた場所があってそこに華奈が言っていた光景が広がっていた。
僕たちはその水辺に生えている魔充草を必要な分だけ採取をして亀裂の外に出る。
「凪、今の時間は?」
<アイテムボックス>の中からアンティーク調の懐中時計を取り出して確認する。
「六時四十二分だね。
これからどうする?」
取り出した時計は僕特製の魔道具。
現在居る世界の時間を表示するというもの。
現在居る世界の時間が自動で合わさる機能が付いただけだと思うだろうが実際はもっと複雑だ。
時間というものは全ての世界において絶対に流れているとはいえ、そのすべてで一日が二十四時間であるとは限らない。
そこまで調整されるのだ。
と言っても詳細な時間の概念がない世界では無用の長物であるかもしれないがある程度の指標になることには間違いないだろう。
「じゃあ、今日はここまでにしよ」
華奈の提案に僕とリリィも賛成しここで夜を越すことに決まる。
そして、僕は<箱庭>を展開すると三人で中に入り快適な夜を過ごした。
翌朝、深淵蛇を倒した場所から降りてきた道を逆戻りして地上へと出る。
森の中では遭遇した魔物をリリィの魔法の練習がてら倒しながら街道の道へと戻っていった。
そして、洞窟を出てから丸二日を移動に費やし僕たちは二つ目の大きな町“ピザン”へと到着した。
“ピザン”の街はけっこう大きい。
王都とは比べ物にならないが、国の中でいえば上位に入るだろう。
しっかりとした区画分けがされていて、様々な店舗やギルド、宿屋が存在する商業区、町に住む人たちの家がある居住区、そして、貴族の住居やこの町の領主館がある貴族区に分けられる。
この街は、国の北部・東部へ行くための主要都市の一つであり、土地を持たない貴族も多数居住している。
僕たちは一番にギルドへ向かうと達成した依頼の報告を済ませた。
時間はお昼過ぎで昼食は済ませた後。
ギルドを出た僕たちはギルドの前の大通りを三人で歩いていた。
この通りは貴族街にまで続く通りで馬車が通る可能性が高いため道幅が広くとられている。
そのため、けっこう大き目な店が並んでいるので暇つぶしがてらぶらついているのだ。
「二人とも宿はどうする?」
「とにかくお風呂~」
「私もお風呂に入りたいです」
「じゃあ、月見里にしよっか。
ここは交通の要所だし貴族が訪れることも多いし貴族用の方も支店があるからね」
「うん、それでいい」
「私もそれでいいです。
ただ、前のランクは広すぎて勿体なく思いました」
「じゃあ部屋風呂付のAランクにしようか」
それから、宿のある貴族街の外延部に向かってぼちぼち移動を始めた。
ちょうどその時、大通りの中心を馬に乗った騎士を多数伴った大型の家紋が入った馬車が僕たちの進行方向に走り抜けていった。
僕たちは馬車のことを気にせずに歩いていたのだが、少し先で馬車が止まったことで周囲の人たちがざわつき、それに合わせて僕たちもそちらへ視線を向ける。
馬車は二十メートルほど先で道の中心から少し脇に寄せたところに止まっており、御者が踏み台を置いてドアを開けていた。
ドアの脇に立った御者が頭を下げたところに一人の若い男がゆっくりと下りてくる。
その男は金色で、白を基調として所々に金色が入ったいかにも貴族な服を着ておりその手には大きな石の嵌った指輪が嵌められており、腰に差した剣の鞘と柄には宝石が数十も嵌り繊細な彫刻が刻まれていた。
その男は、馬車から優雅に降りると御者に何か言いつけてから真っすぐこちらに視線を向けてくる。
その視線に僕と華奈の心はシンクロした。
ああ……。
これは、絶対めんどくさい貴族だ、と。
一方でリリィはめんどくさそうな貴族の登場に戦慄する僕たちを見て何が起こっているのか分からないようで、かわいらしく首をかしげながら僕たちと貴族の方を交互に見渡していた。
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