第18話 環境破壊
足跡を追い始めてから十分ほど。
気配を消しながら森を進みけっこう村からけっこう離れた場所までやって来た。
「ねえ、凪。
向こうのあれ人の手が入ってない?」
少し先、森の中に大きく木々が開けている場所があった。
そこには木の幹が半ばで折られたものが幾つも存在している。
そして、そんな場所の中心には折られた木々が乱雑に組まれており、その上には枝葉が載せられ簡易的な小屋のようなものが出来上がっていた。
「多分オーガが組んだのかな。
本人は……いないみたいだが、戻って来ないか要警戒」
僕は二人に注意を促すと全員でその小屋の調査に向かう。
小屋の周囲には木の残骸や木の葉が大量に落ちていた。
それと共に、大きな足跡も幾分か見受けられる。
「ここら辺はかなり新しいかな。
ここは……」
その瞬間に僕は振り返った。
「グルゥヲオォォォォォォォ」
森を駆け抜ける咆哮。
僕の目に移ったのはこちらへ向かってくる赤い巨体。
華奈とリリィもその咆哮を聞いてそちらを振り向いた。
僕たちが来た方とは別方向から二つの立派な角を持った赤いオーガがこちらへと走ってきている。
道を阻む木々はその都度、剛腕によって根元から倒されたり中心から折られたりとまったく障害になることは無かった。
周りの木の高さと見比べて推察するに二メートルは確実にある。
「ナギ様、オーガがこちらに戻ってきました!」
「リリィ、華奈、このままやるぞ!」
「わかった」
「分かりました」
二人の声が重なった。
その間に、折った木を拾って片手で振り上げながらオーガは走ってこちらへと向かって来ている。
そこで、リリィが前に出てきた。
「私が押さえます!
『水は絡む。
水流、すべてを捉う鎖。
水鎖』」
地面から溢れ出した水は紐状になってオーガの周囲を囲んだ。
そこから一気に締まっていき、完全に鎖の形となり腕・足・胴体などを大まかに締め上げる。
その後、後発の水鎖が指や角などの細かい部分を締め上げていった。
リリィの魔法によってオーガの動きは完全に停止したのだが、その状態でも動き続けており鎖はどんどん緩んでいく。
「じゃあ、私が!
『エアロセイバー』」
華奈がオーガの真正面に立つと魔法を放つ。
真っすぐ振り上げた腕の先に風が発生すると縦に真っすぐ収束する。
風は白い色を帯びると、約三メートルほどもある剣を形成した。
そして、腕が完全に振り下ろされたと同時に風の剣が直線状に解放されてオーガの体を『水鎖』ごと縦に真っ二つに切り裂く。
その勢いはオーガを二分するだけに留まらず導線上の木々を十メートルほど先まで巻き込んで切り裂いていった。
「あ、」
「うぉぉ!
『結界』」
僕はとっさに『結界』を発動させた。
風は木々と地面を巻き込んでいき、それは僕たちの方にも襲ってくる。
『結界』の外側は一瞬の内に茶色く染まっていった。
数秒後。
風が収まり、綺麗に開けた視界に入って来たのは縦に真っ二つになったオーガの死体と約十メートルに渡って倒れる木の幹だった。
「ねぇ。
華奈?」
「はい、分かってます……」
僕の指摘は分かっていたようで反省しているようだ。
まあ、やってしまったものはしょうがない。
「取りあえず、片付けるか」
「ナギ様、どうするのですか?」
「折れた木は僕の<アイテムボックス>に。
回収した木は今後再利用かな。
そのあと地面を綺麗にして再生だね」
まあ、こんな答え方じゃまだ足りないだろう。
リリィには見てもらった方が早いと伝え、早速片付けを開始する。
オーガの遺体は証明のために<アイテムボックス>に収納。
倒れた木などもたまに焚き木などで使うので<アイテムボックス>に入れておいて邪魔になるようなことは無いのでそちらに収納した。
五分ほどで折れた木すべてを片付け終えると、切り株を引き抜いてある程度地面を綺麗に整える。
「それじゃあやっていこうか」
すべての準備が整ったところで魔法の実演だ。
「とりあえず、地面を綺麗に均すよ。
『クリーンランド』」
僕を中心に地面が波を立てながら広がっていった。
多少は綺麗になっていたがまだぼこぼこになっていた地面が波が過ぎ去るとともに真っすぐに均される。
地面が綺麗になった所でここからが本題だ。
「それじゃあ、いくよ。
『プチレイン』『成長超促進』『サンライト』」
華奈が破壊した辺りを覆うように、低空に出現した黒雲はまっさらとなって何もない地面を湿らせていく。
それと同時に後発の二つの魔法が共鳴するかのように発動する。
地面には周囲の木々と同じ種類の種が蒔いてあったので、それが『成長超促進』の魔法に反応して発芽した。
発芽した芽は、黒雲よりもっと低空に生まれた疑似太陽の光を受けながら成長を開始した。
芽は定点カメラを早送りするような感じでどんどんと成長していき、三つの魔法の効果が切れる頃には周囲の木々と比べても遜色ないほどまで成長したのだ。
「ナ、ナギ様! どうなってるんですか⁉」
リリィは、その現象を見て驚き僕の方に詰め寄って来た。
僕はリリィを落ち着かせてから一つ一つ説明を始める。
最初の『クリーンランド』は土魔法第六位で自身を中心に消費魔力に応じた範囲の地面を水平に均す整地魔法。
これは、一定の硬度までの鉱石が対象でそれを越えるものを整地する場合はもっと上位の魔法を使う必要がある。
『プチレイン』は、天魔法第八位で指定の狭い範囲に短時間の雨を降らせる。
もっと広範囲や雷のオプションを付けるにはより上位の魔法を使う必要がある。
『成長超促進』が地魔法の第十位。
土魔法の方に下位互換の魔法があるが、動植物の成長速度をかなり上げる魔法。
人にも使うことができ、回復魔法の補助に使われることがある。
ただ、エネルギーを大量に消費するために注意が必要だ。
『サンライト』は聖火魔法第十位回復効果を持った光を一定時間発生させる。
回復効果はあまり高くないが光はけっこう強く、疑似太陽と言っていいほどの光を放つ。
後発三種の魔法を組み合わせることで一気に植物を成長させた。
水と光、そして土壌からの養分は十分あったので植物の成長を阻まれるようなことは無く一気に成長したのだ。
「ナギ様が言っていたカガクというものですか?」
「そう、科学。
その中の知識のひとつなんだ」
「へ~。
自動で動く馬車だけじゃなく植物の研究などもあるんですか」
「科学って一言に言ってもかなり広い範囲の学問なんだ。
まあ、それは今度僕の世界に来た時に教えるよ。
それはそれとして僕が言いたいのは魔法も使い方によっては化けるってこと。
リリィにもそういった使い方を教えていくけど自分でも色々と考えてみるといいよ」
「分かりました!」
ということで、森の修復兼リリィへの魔法講義を終えた。
合わせて、少し離れたところで反省していた華奈を呼ぶと村へ戻ることにする。
帰り道だが、足跡に集中しすぎた結果、どちらに帰ればいいか分からなくなってしまった。
足跡をたどろうとしたが、華奈のやりすぎに巻き込まれてまっさらになってしまっている。
色々と考えた結果、<宝物庫>にある地図を思い出しそれを取り出した。
「ナギ様、それは?」
「これは魔法の地図だよ。
この世界の地図を全てを表示するんだ」
この魔法の地図は僕が作ったものだ。
世界システムに接続してその世界の地図を取り込む。
基本は自分の周囲だけだが、縮小することで最大で世界全体を見渡せるのだ。
また、拡大すれば人や魔物などを含めて現在の動きを見ることができ、青丸と赤丸で表示される。
青が中立で赤が敵性表示だ。
さらに、その表示をタップすれば<鑑定>時に表示される詳細も表示されるようになっている。
ただ、色々と機能をつけすぎたため燃費が悪く使用時間は五分ほどで魔力の充鎮などを含めて一時間のクールタイムを置く必要がある。
「あった。
向こうの方だね」
地図からもと来た村を見つけて向かう方向を確認する。
そうして、僕たちは森に入って帰還の途に就くのだった。
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