第17話 依頼:オーガ討伐

“アフリト”の街中で一泊したその翌朝。

 僕たちは早朝に街を出発した。


 次の目的地は“ピザン”と言う町。

 王都ほどは大きくないが国の中では有数の大都市である。

 国の北東部に向かうにはここか、王都北にある“メル”と言う町のどちらかを通らなければならない。


 しかし、“ピザン”に向かう前に寄る場所があった。


「途中にある村からの依頼を一件と、その近くの森の奥の方で採取依頼があるから寄り道していくよ」


「村までどの位?」


「詳しくは分からないけど三日位かな。

 ちなみに“ピザン”までが十日位」


「うへっ。

 けっこうあるんだね」


「まあ、歩きだからね。

 思ったより時間は掛かるよ」


 それからの僕たちは一日をすべて移動に費やすこととなった。

 と言っても街道を進むため魔物との会敵もほとんどなくピクニックのような状態だった。

 そして、昼過ぎに街道から少し荒れた横道に逸れると森の中を進む。


 そして、日を跨いだ翌日の昼。

 目前に生える木々の頭の上にちらちらと丸太で組まれた櫓のようなものが見えてきた。

 そこから少し進めば今度は木々の幹の間に丸太を組んで作られた柵が見えるようになる。

 そして、僕たちは目的の村にたどり着いた。


 僕たちは門番を探したがそのような人がいなかったので村の中へと入っていく。

 村内の家はすべて丸太で組まれており、横に広々とした作りだ。

 窓にガラスは張っておらず、木の板が跳ね上げられている。

 村内はある程度の地面が均されており、道端に少し雑草が生えているのに味がある。

 住人を探しながら村の中心付近まで進む。

 と、その途中、建物の間から少し離れたところにあった井戸で女性が水を汲んでいるのが見えた。

 僕たちは依頼者の聞き込みをするためにそちらに近づいていく。


「すいません。

 こちらが、オーガが出たということで依頼が出された村であっていますか?」


 こちらとしては警戒されるのはまずいので柔らかめに尋ねる。

 水を汲んでいた女性は水を入れたバケツを地面に置いたところで振り返った。

 

「あ! 冒険者の方ですか。

 わざわざお越しくださりありがとうございます。

 えっと、依頼ですよね。

 それなら村長の方に尋ねてもらえば……。

 広場にある一番大きい家です」


「作業中にわざわざありがとうございます」


 お礼をして、僕たちはその場を離れる。

 通りに戻ると、案内された村長の家を目指す。


「凪、こんな景色もなかなかいいね」


「そうだな~。

 日本だと茅葺屋根のある家の集落みたいなものかな?

 新鮮味があっていいね」


「へ~。

 ナギ様の世界はこのような景色は珍しいのですか……」


 と、そこで目的の村長の家の前にたどり着いたので話をそこで切る。

 村長の家は他の家より大きいとのことだったが、横だけでなく上にも大きいようでこの村唯一の二階建てだった。


 コン、コン


「すみません。

 オーガの討伐依頼を受けた冒険者なのですが」


 すると、中から勝手に上がってくれとの返事が返って来た。

 それに従い僕たちはドアを開けて中に入る。


「こんにちは。

 今回、依頼を受けた冒険者パーティーの第三世界です」


 入ってすぐ目の前にあったテーブルに一人の老人が座っていた。

 ただ、髪や髭の手入れがしっかり行き届いており服もしっかりとしており清潔感がある


「ああ。

 わざわざご苦労さん。

 儂は、この村の村長を務めているクレイマン。

 まあ、イスに座ってくだされ」


 手招きを受けて、僕たちはクレイマンさんと向かい合うように並んで座った。

 とそこで、奥さんかと思われる女性が現れ、それぞれの前にお茶を並べる。

 そうして、その女性が下がっていったところで話が始まった。


「それじゃあちょっと詳しい話をしていくとするかのぅ」


 依頼にあったオーガは約二週間前に村の若者が遠巻きに発見したようだ。

 その翌日、村の付近の森の中で足跡を発見。

 近くの街である“アフリト”に依頼を出しに向かった。

 最近はどんどんと足跡が近づいてきており、戦々恐々としているそうだ。


「分かりました。情報ありがとうございます。

 では、これから調査をしてきます」


「ああ。

 頼むのぅ」


「夜までには一度、戻ってきたいと思います。

 それ以降の予定は調査の結果次第ですね」


 とりあえずはオーガの調査だ。

 オーガの動きを把握して討伐の計画を練る。

 まあ、今回の調査でオーガを見つけられればそのまま討伐して終わる。


 僕たちは村長さんの家を後にすると、入って来た門とは逆側にあった門から村の外に出る。

 柵の外側は畑が村を囲んで耕されている。

 雑草などは一切なく手入れが行き届いるようだ。 

 そして、畑を囲むのは問題のあった森。

 領域を隔てる柵のようなものは一切なく、そのまま森が続いている。

 畑を抜けて森に入ると、教えてもらった足跡の確認から始める。


 森の中は木々の間隔が広く空いていたので見通しはかなりきく。

 足跡のある場所は森に入ってから真っすぐ十分ほど進んだ所にあるそうで最初はそこに向かう。

 オーガと言う脅威が存在するせいか、ちょっと森が静かな気がする。

 遠巻きに鳥の鳴き声なんかが聞こえてもいいのだが、そんな声も聞こえない。

 すると、右後ろを歩いていたリリィより声が掛かる。


「ナギ様、あれが足跡じゃないですか?」


 最初に足跡を発見したのはリリィだ。

 左前の方の木陰に少し湿ったような地面があった。

 その中心部分にかなり巨大な人の足型をした窪みがある。

 合わせて周りを確認したのだがそこ以外には足跡が確認できず、たまたま足場が悪くなっていたのでそこにだけ足跡が残ったようだ。


「うん。

 オーガで間違いないな」


 足跡をしっかりと検分しオーガのものと確定する。

 と、少し離れた場所まで確認しに行っていた華奈から声が掛かった。


「ねえ、凪!

 こっちの苔の中にも足跡残ってるよ!」


 リリィと共に華奈のところまで移動すると地面を確認する。

 華奈のいた辺りには地面が暗がりになっており、苔が多く生えていた。

 けっこう広く苔地帯があったのだが、その中にはオーガの足跡が点々と続いている。

 足跡の幅は広くとられていたので、かなりの巨体だと推定できる。

 踏まれ方をよく見て見ればけっこう新しい足跡だということも分かった。


「二人とも、これから足跡を追っていくから戦闘準備しておいて」


 ここからは戦闘の可能性も有る。

 二人にも気を引き締め直してもらって僕たちは森の所々に散見できる足跡やオーガの足についていたものが落ちたと思われる苔の断片を辿り始めた。

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