第16話 “アフリト”
「ナギ様、全部の属性を使えるようになりました!」
リリィは基礎属性である火・水・風・土・光・闇の六属性を全て習得した。
これにて<完全魔法>習得の道は開かれたと言える。
と言ってもまだ入り口に立ったところ。
ここからの努力が鍵になる。
「後は、<無詠唱>もできるようになった方が良いかもね。
<無詠唱>は魔術で発動した時をイメージしながら詠唱無しで発動できるように反復練習するのが一番早いかな」
そうアドバイスと一緒に魔法陣を一枚渡す。
受け取った魔法陣を使ってリリィは早速、<無詠唱>の習得のために魔術を発動させようと、魔法陣に魔力を流し込んだ。
リリィの手に持った魔法陣が薄く光って……魔術は発動することは無かった。
「……出来ませんでした」
「まあ、僕でもそんなすぐには出来なかったからね。
ただ、<詠唱短縮>くらいなら出来ると思うよ。
<水魔法>なら使い慣れてるだろうし」
「分かりました、やってみます!
『撃て、水塊。ウォーターボール』」
リリィの目の前に水球が発生して近くの木の幹に跳んでいった。
詠唱の重要な部分のみでおこなう<短縮詠唱>。
<無詠唱>の一歩手前の段階なのだが、こちらは上手くいった。
「できました!」
「後は<無詠唱>を習得の為に反復あるのみだね」
「はい!
頑張ります」
ここで、リリィへの魔法の講義は終了だ。
リリィに魔法の説明をしている間にも華奈は近づいて来ていた魔物を討伐していた。
また、僕から魔法を教わった後のリリィが練習がてら出てくる魔物を魔法で倒していた。
そのため、出発から二時間ほど。
受けた依頼のゴブリン討伐とグレーウルフの素材採集は終了が終わった。
そこからは、次の街へと向けた足早に森を抜けていくことになる。
一時間後。
目前の木々の隙間から一際明るい光が漏れてくるようになった。
そこから少し進めば、木々の隙間から街道が見えるようになる。
そうして、僕たちは街道に合流した。
合流した場所から未だ小さいながらも街が見ることができる。
「ナギ様、あれが“アフリト”です」
「あれかぁ~」
「まだまだ遠いね」
そんなことを話しながら街道を歩き始める。
そこから、一時間ほどで“アフリト”の街へとたどり着いた。
街にたどり着いて最初に向かうのはギルド。
受けた依頼の内、達成できたものを報告するためだ。
この町は王都東側に一番近い大きめの街で、王都よりは一段から二段ほど下がってしまうが様々な施設が作られている。
ギルドも王都ほどではないが施設が充実している。
街中の賑わいを感じながら、一際大きくなっているギルドの建物の前にたどり着いた。
「目立つほど大きいね」
「王都ほどは無いけどね。
まあ、そんなことは気にせず入ろう」
僕たちはギルドの中に入ると真っすぐ受付へと向かう。
「依頼品の納品と達成報告をお願いします」
僕は依頼の受注票を取り出して職員に渡す。
職員は受注票を一枚一枚確認していく。
「では、納品するものと討伐証明品の提出をお願いします」
<アイテムボックス>から、小さめの袋が三袋と大きい袋を一袋取り出して渡す。
小さめの袋はそれぞれ薬草と魔力草とゴブリンの耳。
大きい袋はグレーウルフの皮と牙だ。
「確認してまいります。
番号札三番でお呼びしますのでギルド内でお待ちください」
職員はすべてを持って裏に入っていった。
物語中のギルド何かは職員がその場で鑑定したりするが、それは現実的ではないと思う。
そういった世界もあるだろうがこの世界であれば、職員は受注票の照合と依頼の確認。
納品されたものは、専門の職員が鑑定していくのだ。
そうして、時間が出来た僕たちは併設した酒場に移る。
酒場と言っても、昼間は酒類の提供は無くカフェのような状態だ。
「街の奥の方にでっかい建物あったけどあれって領主の館?」
「はい、華奈ちゃんの言う通りです。
この町を治めるアフリト男爵の館ですね」
「あ、やっぱり貴族の屋敷なんだ。
貴族制度ってどんな感じになってるんだっけ?」
「あれ?
説明受けなかった?」
「えへへ。
凪が居るから大丈夫かな~って思ってあんまり憶えてない」
「はぁ、じゃあもう一回説明するから今度はちゃんと憶えといて」
貴族の階級としては五段階。
子<男<伯<侯<公の順で、子・男の爵位に限って一代限りの爵位となる準男・準子階級が存在している。
男爵以上の貴族は基本的に領地が渡されそこに自身が治める町を立てる。
領地持ちの貴族は年度ごとに領民からの徴税の義務があると共にそこから一定割合を国に納税する義務がある。
また、階級ごとに持てる領地の大きさや私有軍の保有量、年俸の制限がある。
簡潔にすればこんなところだ。
「後は、選民思考がまだ蔓延ってるのかな。
国王陛下……クルスさんは見てもらった通りだけど、まだ改革途中みたいでね」
「はい、ナギ様の言う通りです。
お父様が即位されたときに、それに関する法律を作ったようで一昨年の密偵調査ではまだ半々位との報告でした」
とりあえず華奈に説明を終えたところで三番の番号札が呼ばれる。
僕たちはイスを仕舞うと受付に急いだ。
「三番です」
「お待たせいたしました。
報酬の合計が金貨二枚と大銀貨一枚銀貨一枚大銅貨一枚となります。
お確かめください」
「問題ないですね」
硬貨はトレーの上に綺麗に並べられて出されてきたので確認はすぐにできた。
「今回の功績でカナさんのランクが昇格となります」
華奈は冒険者証を職員に渡した。
冒険者証を受け取った職員は手元に置かれていた魔道具の上に乗っけてボタンを押すと数秒待つ。
ランク昇格の手続きはSランク以下の昇格には魔道具においてボタン一つで済む。
「カナ様、Eランクへの昇格おめでとうございます」
華奈のランクがEにランクアップした。
だからと言って特にこれと言ったことは無い。
僕たちは予定していたことが終わり、ギルドを出る。
思ったより街に早く着きすぎた上に、ギルドも予想より早く手続きが済んだのでのでけっこう暇な時間にできた。
ギルドを出て二人と相談した結果、街散策で時間を潰すことに決定する。
この街は、王都の隣町なので色々と散策するような場所があるのだ。
そして、僕たちは仲良く手を繋いで街の散策に繰り出した。
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