第19話 討伐報告

 オーガ討伐とその後始末を終えて僕たち三人が村にたどり着いたのは太陽が沈んですぐのことだ。

 既に村の各家には明かりが灯り、窓の隙間からそれが漏れている。

 野営するか泊めてもらうか。

 それを決めるにはどちらにせよ先に討伐報告が先だ。


 コン、コン


「はい、はい。

 どなたですか?」


 出てきたのはクレイマンの奥さんである女性だ。

 僕たちは要件を伝えぬまま勧められて僕たちは村長の家へと入った。


「クレイマンさん。

 戻りました」


 中に入った所でお茶を飲んでいたクレイマンさんに帰還の報告をする。


「こんな時間までご苦労さん。

 それで、進捗はどうかね?」


「足跡を発見して、討伐対象に遭遇。

 討伐を完了しました。

 つきましては、討伐の確認をお願いしたいのですが」


「それは本当なのか!

 ああ、すぐにでもしようじゃぁ無いか」


 クレイマンさんがイスを押しのけて身を乗り出すように立ち上がった。

 僕が、遺体を持ってきていることを伝えるとすぐに確認してくれるそうだ。

 ただ、サイズがサイズなので村の広場に移動して確認の運びとなる。

 なんでもクレイマンさんとその奥さんは元冒険者をやっていたそうだ。

 なので、縦真っ二つのオーガを見ても問題ない。

 グレーウルフとかゴブリン程度なら村の元冒険者たちでいつも討伐しているそうだが、さすがにオーガは荷が勝ちすぎていたそうである。

 そうして、村長さんの家を出てすぐの広場へと出てきた。


「よし、これくらいのスペースがあれば大丈夫じゃろ」


「そうですね。

 それじゃあ出します」


 僕は魔法で明かりを灯してからオーガの遺体を<アイテムボックス>から取り出した。

 オーガの体は角、骨、皮、肉が素材としてギルドで買い取ってもらえる。

 だが、まだ解体はしていない。


「うむ、確かにオーガじゃな。

 ただ、凄い倒し方じゃの。

 縦に真っ二つは初めて見たのぉ」


 そんな言葉を漏らしながら体を家が建つ方に向ける。

 そして、村全体へと伝わるように声を張り上げた。


「お~い皆の衆、冒険者がオーガの討伐をしてくれたぞ~」


 と、広場に向かって光が伸びてきた。

 近くにあった家のドアが開いたようですぐに二人の男女が近づいて来る。


「クレイマン!

 オーガの討伐が出来たって本当か?」


「ああ、見るといい」


 そう言ってクレイマンさんはオーガの遺体が置かれる僕たちの方に視線を向けてきた。

 何の心構えも無く僕たちの方を見た二人は驚きの声を上げる。


「うおぉ、確かにオーガじゃねえか」


 そう言いながら二人がこちらへと寄って来た。


「うわぁ……。

 縦に真っ二つじゃねえか。

 これは君らがやってくれったってことだよな?

 ありがとう。

 これで、安心して畑作業が出来る」


 ただ、そうしている間にも次々と村中の家のドアが開き村の人たちがゾロゾロと集まって来た。

 村長に一言声を掛けた後に今度はオーガを見に僕たちの方に流れてきた村人は僕たちにお礼の声を掛けていく。

 そうして、数分せずにけっこうな人数がオーガの周りを囲むようになった。


「皆の衆よ。

 皆で食事を持ち寄って宴を開こうぞ!」


「「「「おおぉ!」」」」


 村の男衆がクレイマンさんの声に答えた。


「うっしゃあ!

 じゃあ、今から酒をとってくらぁ!」


「じゃあ、俺は肉を持ってくるぞ~!」


「村の倉庫からテーブルとイスを持ってこい!」


「暗いからもっと明かりを焚くぞ!」


 すると、すぐに全員が蜘蛛の子を散らすように準備のために広場を離れていった。

 僕たちは討伐の功労者ということですぐに用意されたテーブルとイスに座っているように言われたので素直に甘えて準備を座って待つことにした。

 ただ、待っているだけなのは申し訳なかったので代わりにと言うべきか持っていた食料の一部を宴で使ってもらうようにクレイマンさんに渡すと、それらはすぐに調理場に移されたようだ。

 十分後には、広場の中心にキャンプファイヤーのような火が焚かれ、少し外れでは女性たちが集まって下ごしらえを済ませた僕の渡した食材を焼いたり煮たりしていた。

 その近くにある大きめのテーブルには、村人たちが夕食で食べるはずであった料理がすべて皿に盛って並べられている。

 男たちは、テーブルやイスを並べ終えると僕たちの周りで酒盛りを始めた。


「皆、急ぎの準備をありがとう。

 今日は、冒険者の方々がオーガを討伐してくださった。

 我々の感謝の意を込めて冒険者に、乾杯!」


「「「「乾杯!」」」」


 クレイマンさんが中央に出てきて乾杯の音頭をとる。

 料理をしていた女性たちもその時だけは一緒にコップを持って一緒に歓声を上げていた。

 宴が始まり、村人たちはそれぞれ思い思いに盛り上がっていく。

 僕たちも用意されたテーブルに運ばれてくる食事を食べながらバラバラに絡みに来る村人たちと談笑しながら食事を楽しんだ。


 月が天頂を通り過ぎた頃。

 宴の開始からけっこうな時間が経ったが宴はまだまだ続いているようであった。

 ただ、リリィもまだ若いし明日は早めに出発する予定だ。

 僕たちはクレイマンさんに声を掛けてお暇させてもらうことにした。

 ちなみに、夜はクレイマンさん宅の二階の客間を貸してもらうことになっている。


「クレイマンさん、僕たちは明日早いのでここらへんで抜けさせてもらいます。

 どうぞ残りは皆さんで楽しんでください」


「そうですか。

 では、今夜はごゆっくりお休みくだされ」


「それじゃあ今日は失礼します」


 僕たちは宴会場となっている広場を他の村人たちにも声を掛けながら後にすると、クレイマンさん宅の二階の部屋で休ませてもらうことにした。


 そして、翌朝。

 下に降りるとクレイマンさんの奥さんが朝食を用意してくれていたのでお言葉に甘えて食事を貰った。

 食事を食べた後は前日に出発の準備は終えていたのですぐに出発することにした。


「短い間ですがお世話になりました」


 クレイマンさん宅を出てから門に向かうまでクレイマンさん夫婦はお見送りをすると僕たちについて来てくれた。

 さらに門にたどり着くまでの間に僕たちのことを見た村の人たちも家から出てきて僕たちを見送りしようと後ろをついて来て、門にたどり着くころには手の離せない人を除いてほとんどの村人が集まってくれた。

 僕たちは門の前で最後にお礼の言葉を掛ける。


「それじゃあ、ありがとうございました」


「こちらこそありがとうな。

 ここからも気を付けていくんじゃぞ!」


「はい!

 それでは失礼します」


 最後に頭を軽く下げると僕たちは村に来たときは逆の門から村を後にした。

 そして、僕たちは次の街である“ピザン”へと続く森の中の道を歩き始めた。

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