第14話 リリィの戦闘確認
「ナギ様!
これ、とっても甘くておいしいです!
お城の食事よりもおいしいかもしれません!」
スパゲッティを一口食べたリリィがフォークをしっかりと握ったまま声を上げた。
「これでも一般の人用の食事なんだよ。
すごくおいしいでしょ?」
「はい!
これで一般の人の食事……。
ナギ様の世界は凄いです」
その後、リリィは手を止めることなくスパゲッティを口に運び続け、すぐに一皿を平らげてしまった。
食事をしながら、すべてが終わったらリリィを僕の世界に連れていくことも約束し、リリィの気分は最高潮だ。
そして、全員が食べ終わり片付けへと移る。
片付けはもう習慣づいてしまっているので華奈は使った食器や調理器具を一か所にまとめていた。
使ったものをそのまま<アイテムボックス>に収納してしまってもいいのだが、それは後回しにするだけで後で大量の物を洗わなければならないし、量も確保しておかないと使う前に洗わなければいけない。
そのため、使用後は何事も無ければ毎回洗うようにしている。
「よし、洗浄」
僕の一言で、食器・調理器具の塊に向かって魔法が発動した。
この方法が習慣づいているので反射的に『ウォッシュ』『クリーン』『ドライ』が発動する。
それぞれ水・光・火属性の第十位のものなので簡単な魔法だがものは使いよう。
『ウォッシュ』は水を使った簡単な汚れを落とし、『クリーン』は物や傷口などの浄化、そして『ドライ』は濡れたものを乾かす魔法で、それぞれ順番に発動させている。
その後、洗い終わったものとテーブル・イスは僕と華奈の<アイテムボックス>に分けて仕舞う。
それと共に、出発の準備も完了した。
「じゃあここから森に入っていく。
今回受けた依頼が、薬草五枚一束を五束納品が三件と二十束納品が一件。
魔力草十束が二件。
ゴブリン討伐が十体と二十体が一件ずつで右耳の納品。
あとはグレーウルフの毛皮十枚納品が一件の合計十件がここで達成できる依頼だね」
採取系依頼は余程珍しい物や条件がなければどこかのギルドで納品すれば依頼が受理されたギルドのストックから依頼主に渡される。
討伐依頼は討伐さえ確認できればいいので、どこのギルドに報告しても問題ない。
「凪、それは普通のでいいんだよね」
「うん、それで大丈夫」
これは、色々な世界を渡り歩く僕たち特有の問題。
世界によって物が同じでも名前が違ったりする場合があるし、その逆もある。
ただ、大抵のものは名前が一緒か少し発音が違ったりするぐらいだ。
魔物の方はおなじみゴブリンと魔物化した狼であるグレーウルフ。
薬草は体力やけ怪我を回復させる最下級の回復薬の素材になる。
魔力草は魔力が蓄積した薬草のことで、最下級の魔力回復薬の素材だ。
回復薬は遅効性、ポーションは即効性で軽微な外傷ならば患部に振りかけ、それ以外ならば飲んだ方が良い。
価値としては回復薬は安価、ポーションは作成時に魔法的処置の必要があるのでその分根が張る。
そんなこんなで僕を先頭に森の奥へと入っていく。
奥に行くほど緑が深くなっていき、まばらに生えている木々の密度がどんどんと増えていくのだが歩くのに支障はない。
木の背も比較的高いので枝葉で視界が遮られることも無い。
「あ、凪。
一本目!」
近くの木の根元に生えていた薬草を目ざとく見つけた華奈がぱっと寄って行って手際よく採取する。
「向こうにもあるしちらほら見えてきたね」
近くの木々の根本付近に薬草が生えているのが散見できた。
リリィも近くにあった薬草を採取しにかかる。
僕も辺りを警戒しながらも薬草の採取をおこない三人合わせてほんの数分で一束集まった。
ある程度の薬草を集めたところで再び移動を再開する。
まあ、そろそろだろうと思っていたが、採取した場所から少し進んだ場所でゴブリンの集団を発見した。
こちらの世界に来て初めての魔物との遭遇。
ゴブリンが居たのはけっこう奥の方だったのでこちらが気づいていても向こうには気づかれていない。
そっと二人に声を掛ける。
「華奈、リリィ、ゴブリンだよ」
「ナギ様、私が行きます」
リリィが、手を上げた。
ゴブリンでは役不足であるように思えるが、リリィの戦闘力を確認しておきたい。
「よし、リリィに任せる。
華奈もそれでいい?」
「良いよ。
リリィちゃん頑張ってね」
リリィが前に出てくると腰に差していた短剣を抜く。
低く構えて、しっかりと相手を見据える。
その時、足元で何かを探しているような動きをしていたゴブリンの一匹が視線を上げて僕たちのことに気づく。
「ギャ」
短い叫び声が上がった。
その時には、こちらに気づいたゴブリンの首がストンと地面に落ちる。
声につられ、残り二体のゴブリンがこちらに気づいた。
ただ、リリィは既に片方のゴブリンの真横に移動していて冷静に首を飛ばす。
そこで一度バックステップで距離をとった。
仲間が倒されたことに気づいたゴブリンは足元に置いてあった棍棒を持ち上げると重さに振り回されながら振り回し、よろよろとしながらもリリィの方へと突っ込んでいく。
リリィは焦らずにゴブリンの動きを見ていた。
リリィは<縮地>を発動させると、振り下ろされた棍棒が地面に掠ったタイミングでゴブリンの横を高速ですれ違い、気づけば首を落としていたのだ。
「普通に強いな」
ちゃんと相手のことも見ているし、突然振り回された棍棒に関しても冷静に対応していた。
素養は十分ある。
気づけば、リリィはすぐに討伐証明であるゴブリンの耳を切り落とし始めていた。
その間に僕たちはリリィの傍へと移動する。
「リリィ、よかったよ」
「リリィちゃんすごかったよ!」
「ありがとうございます」
回収した耳と魔石は僕の<アイテムボックス>に。
他の魔物ならまだしもゴブリンは討伐証明の他には利用箇所が無いので耳を切った残りの遺体の処理に入る。
「じゃあ、残りは燃やすか。
『聖火』」
ゴブリン三体の遺体を魔法で火をつけて燃やす。
これは、まれに動物や魔物の遺体がゾンビ化するためその対策だ。
に灰になるまで燃やせばなんでもいいので、もっと簡単な火魔法でもいいのだけどちゃんと安らかに眠ってほしいという想いから光属性も併せ持つ<聖火魔法>で遺体を燃やす。
高度な魔法な分、火力はあるのですぐに焼き尽くせた。
「じゃあ、先に進もうか」
僕たちは引き続き薬草などを採取しつつ森を進む。
そして、森に入ってから四時間ほど経った頃。
緑の隙間から見える空は綺麗な茜色に染まっており、そろそろ今日の活動を終えようと思い始める。
が、そんなときに視界の先の木々がどんどん少なくなり、開けた場所が見えた。
「お、開けた」
「凪、池があるよ!」
僕たちは自然と早足になって視界に入っている池の方に向かった。
そして、一気に視界が開けると水が透きとおり底まで綺麗に見ることのできる池にたどり着く。
さらに池のほとりには薬草と魔力草の群生地帯が出来上がっていたのだ。
「ナギ様、薬草、魔力草がたくさんあります!」
「おお、これだけあれば納品分は十分だな」
僕たちは笑顔で顔を見合わせると池のほとりに散り、それぞれ依頼品の採取を開始した。
今までの道中で集めてきたのは目標数の半分ほど。
しかし、その残りの半分はここで五分ほど採取をしただけですぐに集まった。
目標数を集めて確認してみれば、この群生地の一割ほどしか減っていない。
「よし、これで十分だな」
「終わった~」
「もう遅いしここで今日の移動は終わりにしよう。
二人とも箱庭を開けるね」
「?」
と、華奈といつもの流れでやっていたのだがリリィの反応を見て<箱庭>の説明をしてなかったことに気づく。
まあ、いつ説明しても内容は一切変わらないし後で説明すればいいかと思いそのまま<箱庭>を展開させた。
「開け<箱庭>」
スキルを展開するキーワードを唱えると、僕たちの目の前に白い立方体が出現した。
立方体はふわふわと大体地面から一メートルのところで浮遊しておりゆっくりと回転している。
この立方体が“箱庭”に入るためのポータルとなる。
このスキル、実際に使えばすぐに理解できるようなものなのだが言葉だけで説明するとややこしい説明になってしまう。
そのため、先に使い方だけリリィに教える。
「リリィ、これに触れてみな」
僕の指示に従ってリリィはポータルに手を伸ばす。
それを追うように僕と華奈もポータルに向かって手を伸ばした。
手を触れた瞬間、視界が真っ白に染め上げられるのだった。
僕たちが転移した先は小さなコテージのある庭。
現在の視界にはいくつか花のアーチが掛かった小道とその先に見える丸太のコテージ。
そこ以外にも小道はいくつかあり、色々な花や木が植えてある。
前にも説明した通り“花園”の劣化空間を作成するスキルでこちらは範囲制限がある。
中に入るには発動者の許可が必要で許可が無いと立方体をすり抜けてしまい、触れることは出来ない。
僕たちはコテージへの小道を進んでいき、コテージの中へと入る。
中はちょっと低めになった玄関があってすぐにリビングがある。
リビングは右側に玄関があって、左側が色々と揃ったキッチン。
中央手前側にダイニングテーブルがあって、奥側にゆっくりとくつろげるソファーとローテーブルが置いてある。
また、奥には二つのドアがあって左に入ると洗面所とトイレ、お風呂があり、右側が寝室でキングサイズのベッドが一つ置いてある。
靴を脱ぐと、僕たちは奥のソファーに座って一息つく。
「ふ~。
疲れたー」
「私もです」
二人はソファーに深々と座り込むと、お互いにもたれかかってぐったりとしている。
僕は<アイテムボックス>に常備してある冷えたお茶を注ぐと二人の前に出す。
二人はシンクロしたかのようにコップを取るとゴクゴクといい音を立てながら一気に飲み干していった。
「じゃあ、二人は休んでなよ。
夕飯は僕がカレーでも作るから」
「ナギ様、カレーって?」
「僕の世界の料理だよ。
本来はけっこう辛いんだけど、今日は甘めで作るつもり」
「じゃあ、楽しみにしています」
お茶を飲んで少しは復活したのか、僕の言葉に反応し目はキラキラしている。
「とりあえず、ご飯作り始めるから二人とも先にお風呂に入ってきていいよ」
「うん、じゃあお先にお風呂入って来るね。
リリィちゃんも行こ」
それを聞いた二人はすぐに立ち上がると服を脱ぎながらお風呂のあるドアに入っていった。
脱衣所が用意してあるが、そこに着く前に服を脱ぎ始めるということはお風呂に出来るだけ早く入りたかったのだろう。
僕はそれを見送りながらキッチンに向かうと、材料や調理器具の準備に取り掛かった。
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