第13話 王都出発

「凪~。

 そろそろ行こ~」


「そうだね。

 リリィも準備できた?」


「はい!」


 準備を終えた僕たちは宿を出発した。

 現在は午前の7時頃。

 街は日の昇った頃から活発になっており、出勤する人も多い。

 遠出する冒険者たちもこの時間には動き出しているだろう。


 一度、目的の再確認をしよう。

 前提としてこの世界に召喚された理由は固有スキル<世界耐性>を持った魔王の討伐。

 だが、僕が召喚された意図として一番に考えられるのならば邪神が動き出したということだ。

 とりあえずは、そう仮定して動く。


 魔王に関しては調査隊がマルス帝国との東部の国境付近で出会ったきりで消息不明になったそうだ。

 魔王の姿は女王アリであり、習性として地中に巣を作っているだろうと考えられており、現在高ランク冒険者により鋭意捜索中である。


 邪神の方は自分の見立てだとすべての元凶だと思われる。

 魔王の発声は確率的にあり得るとしても、普通に考えれば<世界耐性>というスキルは付くはずが無い。

 と言うか、この世界の存在に対する耐性などこの世界の存在が付与できるはずもない。

 自分たちは魔王の捜索に当たることとして、動きが怪しい帝国から調査だ。

 帝国との国境は王国の東側のほとんどで占めており、北上して帝国に潜入してから南下して帝都までいこうと思う。

 とりあえずの順路として、王国内を北上し“要塞水都フィル”へ向かうつもりだ。


“要塞水都フィル”は国内最北最東端の都市。

 東側の国境を隣接するマルスリオン帝国及びミトリア商業国に入るための要所だ。

 とりあえずは出発前にギルドに寄って、華奈のランク上げに必要な依頼を受ける。

 合わせて、リリィの育成に合ったものを選ぶ。

 基本的には、北上するための道中にて受けられる依頼を選ぶつもりだ。





 今日も再びギルドを訪れてきた。

 やはり朝は依頼を受ける人が多くかなりにぎわっている。

 特に依頼が張り出される壁面ボードの前は二重三重と冒険者たちがかこっている。

 ということで、その集団に僕たちも割り込んだ。


「凪、どれを受ける?」


「そうだな~。

 パーティーを組んだとして、まあ、大体Bランク辺りが受けられる上限かな。

 あとは、華奈のランク上げだとGランクを十件とE、Fもできる限り。

 まあ、他の冒険者のことも考えて控えめにね」


「ナギ様、あれはどうですか?」


 三人で、人ごみを抜けて最前列に出る。

 華奈に、受ける基準を説明していたところでリリィが気になる依頼を見つけたようだ。


「オーガ討伐か……。

 道も少し回り道する位だし、期間も十分ある。

 それにしよう。

 あとは……」


 僕の確認が取れるなり、リリィがサッと前に出るとボードにあった依頼書を剥がす。

 依頼は、それぞれ番号が振ってありその番号でギルドが管理している。

 ギルド間での通信も文章であれば簡単に取れるようになっており、受注と報告は別ギルドで可能だ。

 そして、依頼書を剥がすのは自分たちが受注していることを示すためである。


「凪! 

 これはどう?」

 華奈が気になったのはEランクの依頼。


「ゴブリン退治か~。

 基本だな」


「うん♪ 

 駆け出しと言えばこれじゃない?」


 何か思ってた理由とは少し違った。

 だが、華奈のランク上げにはうってつけだ。

 ゴブリンは自然発生だけでなく、生殖をしても個体を増やすためゴキブリのようにいくらでも発生するので常時依頼が出されている。


「よし、じゃあそれも受けよう」


「やったー!」


 華奈は僕の指示に従って依頼番号をメモする。

 こちらは常設依頼なので勝手に狩って、報告時に依頼番号と討伐証明を出せばいい。


「あとは、採集系を受けとけばいいかな……」


 低ランク帯だと、採取系の方がランク上げに関しての評価が高い。

 これは、高ランクになると採取系を受ける冒険者が少なくなるのでそのような措置が取られている。

 そして、最終的に二つ先の街までの依頼を合わせて20件ほど受注することになった。

 僕たちは受注票を持って受付へと申請に向かう。

 

「依頼の受注をお願いします」

 

 掲示板より持ってきたオーガ討伐依頼をはじめとした20件分をまとめて提出した。


「なっ……」


 受付職員は重なった紙束を見てかなり驚いていた。

 製紙技術は魔道具で確立されており、真っ白にとはいかないがかなりしっかりとした紙が作れるようになっている。

 ただ、紙一枚の厚さは極薄とはいかないので枚数を積むとけっこう分厚くなるのだ。

 通常の冒険者だと多くても一度に五件。

 ただ、今回はそれの4倍である二十件。

 何も知らない人であれば驚くべきものであろう。

 

「申し訳ありませんがこの件数は受理致しかねます」


 その時、わき腹をリリィが突っついてきた。


「ナギ様。職員の方はナギ様のことを知らないのではないでしょうか」


「あー。

 確かにそうかも」


 リリィのアドバイスに従って冒険者証を提示する。

 通常の流れだと受注票の提出をしてから冒険者証を提出することになるが、今回は受注票を提出した時点でストップが掛かってしまったので向こうは僕のことを認識していないのだろう。

 三年前ならローブで分かったのだろうが服装も変わってしまっている。


「では、お先にご確認いたします」


 と、僕の冒険者証に目を向けた職員がそのまま動きを止めた。


「……大変失礼いたしました。

 それでは、こちらが……二十件受理いたします。

 手続きに少々お時間をいただきます、お待ちください」


「あ、パーティー申請書をお願いします」


「分かりました。

 こちらの紙へのご記入と全員の冒険者証の提出をお願いします」


 依頼の受注処理をおこなっている間にパーティー申請書を記入していく。

 これは、パーティー間で受けた依頼の冒険者ランクのポイント処理などを円滑に進めるためパーティーで依頼を受ける際には必須の手続きだ。

 ちょうど、依頼の処理が終わった職員に書き込みを終えた書類を手渡す。



「ありがとうございます。

 記入漏れは……無いですね。

 三人分の冒険者証も確かに」


 書類と冒険者証の二つを手元に置くとそれぞれを見比べて書類に追加事項を書き込んでいく。

 そして、裏に一度下がりすぐに戻って来た。


「お待たせしました。

 パーティー、第三世界の結成が承認されました。

 冒険者証をお返しします」


「ありがとうございます」


 思ったより時間は掛かってしまったが無事に依頼を受注することができたので僕たちは街を出るためにギルドを後にした。


 隣町の“アフリト”へ向かうために西門へと向かい歩き始めた。

 基本北上していくつもりだが国の領土は横に長くなっており、目的の“要塞水都フィル”があるのは王都から見て北西方向である。

 飛ぶのなら真っすぐ北西に行くのもいいが、今回は街道に沿って進むためひとまずは王都の西側にある“アフリト”に向かう。


 西門に着くと僕たちは犯罪者を取り締まるための身分確認のため冒険者証を提示し王都を出発した。

 門を出れば、草原の中に長年の往来によってすっかり踏み固められた土剥き出しの街道が視界の果てまで続いているだけである。


「この道に沿って行けば目的の〔アフリト〕に着く。

 今日の予定は午前中に出来るだけ進んで、午後には森に入って依頼の一部達成する。

 終わり次第、野営をおこなって明日の昼頃に到着」


「分かった」


「分かりました」


 二人の返事を聞き届けると、僕を先頭に旅を開始した。

 午前中は街道をひたすら歩いていくだけ。

 往来も少なくは無いので魔物との遭遇も無く順調に進んだ。

 こっちの世界では時計が無いので、太陽が真上に来た正午ごろに昼休憩を取ることにした。

 午前中に進めたのは次の街まで半分ほどの所まででけっこうな距離を稼げたと思う。


「さあ、二人とも昼にしよう」


「凪、何にするの?」


「スパゲッティの気分かな~」


「じゃあミートソースにするね」


 華奈といつもの流れで準備を進めていく。

 華奈の<アイテムボックス>からガスコンロ、鍋、乾麺、レトルトのミートソース三人前がどんと出される。

 僕はそれに合わせて机と椅子、食器類を準備する。

 ただ、そこにリリィが取り残された。


「ナギ様、これは何ですか?」


「あ、ごめんリリィ。

 これは僕たちの世界の物だよ」


 何も知らないリリィに取り出したものをそれぞれを説明していく。

 スパゲッティなどの麺類はこの世界にほとんど存在していないため少し説明が難しかったがリリィはすぐに理解してくれた。

 他にも科学に関連する道具はこちらに一切ないため一通り説明した。

 一通り説明する間ね、お腹もかなりすいてきたのでリリィは今回見学することにして華奈と一緒に急いでご飯を作り始める。


「じゃあ、私が作るね」


「じゃあ僕は飲み物を入れとくよ」


 華奈は魔法で並々とお湯を入れた鍋にさらに火をかけてた。

 それと共にレトルトのミートソースをフライパンに出して加熱する。

 僕は魔法でお湯をコップに出して粉コーヒーを淹れてかき混ぜた。


「はい、リリィ。

 ちょっと苦いかも」


「わぁ。

 ナギ様の世界の物ですか!?」


「そうだよ。

 これは、コーヒーって言ってちょっと苦い飲み物なんだ」


 用意したイスにリリィを伴って座る。

 コーヒーに口を付けたリリィが苦そうな顔をしたのでミルクと砂糖を淹れてあげる。

 そのまま、華奈の調理を待ちながらリリィに日本のものについて色々と説明をおこなった。


「二人とも、出来たよ~」


 まず始めにリリィにスパゲッティが手渡される。

 その後に僕のところにもスパゲッティが届き、最後に華奈も自分のものを持ってイスに座った。


「これが……ナギ様の世界で食べられているもの……」


「リリィ、見てないで食べよう」


「は、はい!」


 スパゲッティを前にして静かに佇んでいたリリィに声を掛けて食事の開始を促す。


「それじゃあ……」


「「「いただきます」」」


 そして、リリィ初めての地球の料理体験が始まった。



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