第11話 王都デート

 今はちょうどお昼時。

 華奈の提案で店を回る前に腹ごしらえをすることになった。

 向かったのは王都でも評判が良い食堂。

 店内に入ってみれば、冒険者や商人など様々な人が食事をとっていた。

 待つことになるかとも思ったがすぐに席へと案内された。


「さ~て。

 何にしようか……」


「色々あって迷うなぁ……。

 そうだ、凪とリリィちゃんと私とでそれぞれ違うもの頼んで分け合いっこしようよ」


 食堂で渡されたメニュー表はびっしりと料理名で埋め尽くされていた。

 興味が引かれるようなものがいくつかあり、その中から一つ選ぶのは至難の技のように思える。


「僕もそれに賛成。

 リリィはどう?」


「はい! 

 私もそれがいいです。

 食事をみんなで分け合うって言うのを一度やってみたかったんです」


「そっか~。

 リリィちゃん、王女様だったからね。

 そうだ、今度やってみたいことがあったらどんどん言ってね。

 私も一緒にやってあげるから」


「華奈ちゃん、ありがとうございます」


 それからそれぞれ興味があるものをピックアップして、三つに絞り込んだ。

 注文したのはビックボアのステーキ、ビックル―スターの焼き串、ビックサーモンの塩焼きとそれに合わせて、パンを1個ずつ。

 まあ、イノシシステーキ、焼き鳥、鮭の塩焼きのことだ。

 ビックとそれぞれ名前についているがこの三種の魔物の発生原因に由来している。

 ビックが名前につく魔物は動物が魔物化したものがほとんどで今回だとイノシシ、鶏、鮭が魔物化したものだ。

 それぞれ、魔力を持って巨大化しただけなので肉は問題なく食べられるし、もっと言うならば魔力が流れたことで元の状態よりおいしくなっている。


 注文から数分で料理が届く。

 配膳と共に料金を渡して早速食事を開始する。


「「「いただきます」」」


 それぞれの前に並べられた料理を食べ始める。

 そして、食事を始めてから数分で華奈の方から声が掛かった。


「凪。

 あ~ん♪」


 焼き鳥の串が僕の口に向かって差し出されてきた。

 僕はその言葉に甘えて一番上に刺さっていた肉塊を一つ口にする。

 ただ、今回は華奈と二人きりでは無かった。

 

「ナギ様。

 私のもどうぞ」


 今度は、フォークに刺さったステーキがリリィより差し出される。

 もちろん僕はそれを口にした。

 イノシシのステーキはけっこう歯ごたえが強かった。

 口の中のものを飲み込んだところで、今度は二人から物欲しそうな目線が向けられる。

 まあ、もとより二人にはお返しするつもりだったので鮭の身をほぐしてから塊をフォークで刺してそれぞれ開けられた口の中へと入れてあげる。

 まあ、それだけでは終わらないというのは容易に予想がつくだろう。

 それから僕たちの周囲には寄る人が避けるようなダダ甘フィールドが展開された。


 それから一時間ほどを食事に費やしてから街に繰り出すことになった。


「今日は宿を取って明日の朝出発するとしてこの後どうする?」


「私は初めてだから二人に任せるね」


「それじゃあナギ様、アクセサリーを見に行きませんか?」


「そうしようか。

 じゃあ、出発!」


 華奈は王都に出るのは初めてだ。

 だから、今回はリリィ主導で街を回ることになった。

 僕たちは手を繋なぐと街を歩きながら気になる店があれば入りを繰り返す。

 色々な店を回り二人の気に入った洋服やアクセサリーを購入した。

 そして、太陽が傾き王都全体をオレンジ色に染まった頃に満足した僕たちは目的を宿を探すことにシフトする。

 王都には多数の宿があり、時間的に遅めになっているがけっこうな選択肢がある。


「二人ともどんな宿がいい?」


「私はお風呂があればいいかな」


「できれば料理がおいしいところがいいです」


 二人の意見はその二つだ。

 ただ、お風呂を備えている宿は割高な傾向にある。

 その上で、確実に料理がおいしいと言うならば貴族向けの宿。

 そして、どうせならと思って王都でも五本の指に入る宿の一つの宿屋月見里本店に決定した。

 この宿は本店と言うように各地の都市に支店を幾つも持つ国内最大級の宿屋である。

 ここ王都では貴族用の豪華なものと冒険者用のリーズナブルな宿の二か所があり、今回は貴族用の宿を選んだ。

 貴族用の宿は下級貴族の屋敷を超す豪華な造りになっている。

 僕たちは中に入ると早速、受付へと向かう。


「いらっしゃいませ」


「三人部屋をお願いします」


「畏まりました」


「お部屋のグレードがA,S,SSと三種類ございます。

 それぞれ部屋の広さや設備、サービス等のランクを表しておりますがいかがなさいますか」


「それじゃあこれでLグレードでお願いできますか?」


 冒険者証を職員に提示する。

 ここには、公爵以上の貴族、Lランク冒険者限定の特別グレードがあるのだ。

 金額はけっこうなものだが、蓄えは十分あるしLグレードにある。

 そして、何よりこの宿の名前である月見里と言うのが示すようにここは日本の文化がかなり混じりこんでいるのだ。

 そして、Lグレードの部屋の内の一つに檜の露天風呂がある。


「確かにご利用いただけます。

 日数はどうなさいますか?」


「一日でお願いします」


「はい、承りました。

 お食事はどうなさいますか?」


「すぐに出してもらって大丈夫です。

 あと、和室は空いていますか?」


「お食事の件、畏まりました。

 お部屋は和室にさせてもらいますのでL401になります。

 これから係の者がご案内いたします」


 フロント裏から出てきた職員に案内されて部屋へと移動した。


 部屋のドアを開いてすぐに真っすぐ廊下がある。

 両側にはそれぞれ三つずつ、正面に一つドアがあり、左側の全てと右側の手前二つはすべて寝室。

 残った右奥の扉は浴室。

 そして、正面は広々としたリビングで王都を一望できるテラス付きの大きな窓がある。

 内装も凝っており、王宮に近い装飾だ。


「うわっ! 

 超広いよ、凪!」


 リビングに入ってすぐに華奈が声を上げる。


「ここは最上級の部屋だからね。

 リリィはここは来たことあるの?」


「王都以外でなら何度かあります」


 Lランクの部屋は大きめの街であれば存在している。

 まして、リリィは王族なのだから泊まらないはずは無いだろう。


「あ、そっか~。

 リリィちゃんは王族だったね」


「よし、明日までゆっくりしようか」


 それから、届けられた食事を三人で摂る。

 食事のあとはお風呂に入ることになり、三人で王都の景色を見ながら檜風呂を堪能した。

 ただ、明日の出発は朝早いので夜は三人でベッドに入るとすぐに眠りにつくのだった。





 翌朝、僕たちは早めに起きて出発の準備をおこなう。

 今日は、この後すぐに出発する予定だ。

 朝食はすぐに届けられるので、その間にリリィに新しい装備を説明しながら渡すのだった。


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